表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1019/1603

11

 規模から言えば、明らかに最上級術に迫るものだが、切断者がそれらしい前兆を見せていないだけに善大王は困惑した。

 しかし、彼の観察能力は衰えていなかった。豪雨、氷河の如く冷気、これらを受けてもなお町の炎は相当に残っていたのだ。

 それらが全て、火柱に吸い込まれていくように集まっていき、超大な柱を構築していた。


「これは……」

「炎の制御だね。《火の太陽》が使える……能力というか、才能みたいなものかな?」

「簡単に言ってくれるじゃねえか。この力を労せず得たわけじゃねえぞ」


 神器を持たないながらに、《選ばれし三柱(トリニティア)》として生き残ったのは、この力によるところが大きいだろう。

 その性能が《火の星》の用いる火属性の制御に極めて近いことからも、破格のものであることは分かるだろう。

 対火属性使いにおいては無敵であり、そうでなくとも炎の制御によって、前兆もなく攻撃や防御が可能となるのだ。


「つまり、あれか。あの火球の制御を奪い取ると?」

「さすがは善大王、察しが良いな」


 そうは言っても、小太陽の大きさと比較すると、巨大な火柱でさえ見劣りする。火を奪い去るにしても、その不足は否めないだろう。

 少なくとも、善大王はそう考えていた。彼にとって、《選ばれし三柱(トリニティア)》の能力は計算の外にあるのだ。


 無数に突き出た炎の塔が刺さっていくが、降下の速度は変わらない。


「フィア、行けるか」

「……ううん、私達が出なくても大丈夫」


 彼女は《天の星》として、この勝負の行方を確信していた。

 まるで予言のように、彼女が言葉を発した直後、最後の柱が直撃し――火球の動きが止まった。


「オキビ、お前にこんな器用な真似ができたとはな」

「あの未来予知が使えないことが裏目になったな」

「……そうでもない。見えないからこそ、真に必要なものが――真実が分かる」

「抜かせ」


 火球は空へと逃れていくスタンレーへとゆっくり迫っていく。ゆっくりではあるが、それは想像を絶する大きさに比例した速度であり、彼の上昇する速度と等速――もしくは、若干速いか。


「フッ、おれの切り札を知らないようだな」

「切り札……? くっ、そう来たか」


 司書は本の如くに分厚いホルダーからカードを抜き出し、火球に向かって放った。


「全てを狂わせ、全てを壊せ《魂源封殺(ソウルジャマー)》」


 元《闇の太陽》ことムーアが使っていた《秘術》。ソウルの機能を阻害するという、対術者線においては最強とも言える術だ。

 《選ばれし三柱(トリニティア)》が開発した術なだけはあり、小太陽と化した《秘術》を打ち消すことは造作もないだろう。


 決め技と思っていた術が無効化されると判断したのか、ウルスは火球の制御を放棄し、《魔導式》の展開に移行した。

 彼の炎とて、あれほどの高さにまで逃れたスタンレーを打ち抜くほどの射程は持たない。攻撃を行うならば、術に頼るしかないのだ。


 火球は制御の主を失い、紅炎を無差別に撒き散らしながら、消滅していった。


「今度は熱いよ!」

「今はそれどころじゃ――待て、確かに熱いな」


 熱の余波は砂漠を、町を、そして空を焼き尽くす――そう、熱の暴力は未だに猛威を振るっていたのだ。


「……まさか、奴の狙いは」


 ウルスは自身の判断ミスを呪った。

 あの《秘術》は間違いなく、自身の命を奪いうる攻撃を防ぐべく発動されたと、彼は考えていたのだ。

 しかし、違った。もしもその通りであれば、制御を失った術を対象にし、熱量さえ残さず消し去っていたことだろう。


 結果だけを見れば、それは起きていない。この消滅現象は事象制御を行う者を失った事による、自然自壊だ。

 つまり、もとよりこの攻撃は眼中ではなかった……ということになる。


「ライト……たぶん、私に当たったみたい」

「あの火球じゃないってことは、そうだろうな」


 この場において、スタンレーが最も厄介と判断したのは彼女だった。

 善大王は小技を多様する為、高所の敵を相手取るには適切ではない。これはウルスも同じであり、二人とも長距離射程の術には特化していない。

 フィアだけは例外であり、下級術の天ノ十九番・空線(エアレーザー)は先ほど見たとおり、かなりの射程だ。その上、彼女の十八番(オハコ)というのだから、優先度は相当に高い。

 なにより、彼自身が絶対直感(ウルティマセンス)を切っている以上、読みの能力も機能しない。この一手でフィアは完全に死に駒となった。


「悪い、善大王――天の巫女」

「なに、あの状況じゃそう判断して当然だ。それに……俺達の術は封じられていないみたいだしな」


 この場面でフィアの火力が失われるというのは、途轍もなく重いダメージだった。

 一応、善大王の《皇の力》は彼の飛行能力を一時的に無効化できる。ただ、それは発動中の能力が消えるだけであり、文字通りその場しのぎにしかならない。

 いつ副作用が襲うかも分からない力を乱打することなど、当然できない。


 ともなれば、二人が射程の長い術――上級術を発動させる他に道はない。

 皮肉なことに、スタンレーは詰み(チェックメイト)の状態をひっくり返し、相手の行動を大幅に制限――王手(チェック)に追い込んだのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ