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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1016/1603

8

「さーて、それで追いつけるかな?」


 軽口を叩く善大王だが、実のところ彼はなかなかに焦っていた。

 こうしてスタンレーが逃げ回ることは想定通りであり、故に《魔導式》が揃いきる前に仕掛けた。

 しかし、相手の機動力は想像を遙かに上回っていた。


「(――というより、一度発動させれば前兆なしに切り替えられるのか)」


 多少は制御の幅がある、とは思っていたようだが、本質そのものから変化させるとまでは思いが至らなかったらしい。

  とはいえ、彼の生み出す正の力は凄まじい勢いで空を支配していき、司書の生存圏を奪い去っていく。


「捉えた」

「うん!」


 彼の声と同時に、フィアは地面を蹴りつけた。この場に至るまでに都合した数は、五つにのぼる。


 五本の光線が一斉射され、溶けていく繭に追いつこうとするかのように、スタンレーへと迫っていく。


「(《皇の力》はどんな術でも容赦なく消し去る……なるほど、連携してタイミングを見計らったわけか)」


 ウルスは現状を観察していた。

 術には《魔導式》を刻む段階で、対象を定める除外文を追加することが可能だ。

 だが、《皇の力》にそれはない。進行方向に存在する負の力は例外なく、全て消し去っていくのだ。


 白い幕が取り去られると、翼の滑空によって軽減こそしているが、風の加護を失ったことで落下を開始したスタンレーの姿が見えた。

 五本が狙い撃ったのは上下左右、そして前方だった。穴のように見える後方は前方に放たれたものの軌道上に存在する為、これで全方位を制したと言える。


「フフン! 鼠一匹くらいしか通れない隙間だよ!」

「さすがの制御だな、フィア」


 鼠一匹通さないとはいかないものの、五本の全てを接触させることなく、人間の生きられない幅に調整するのはかなりのものだった。

 《皇の力》が効果を発揮した時点で、これを防ぐ術はない。善大王は自身の手札さえ切ることもなく、相手を詰みに追いやったのだ。


「ウェザー《豪雨(ヘヴィレイン)》」


 刹那、周囲一帯に激しい雨が降り注いだ。


「来たか」

「うん! すごい雨来てるよ! 濡れちゃうよ!」

「そっちじゃないだろ……とはいえ、想定内だ。やはり、あの風は消せても、発動した《秘術》までは届かなかったみたいだな」


 フィアの発言をあっさり流したが、叩きつける雨は豪雨に相当するものだった。

 善大王もフィアも、ウルスに至るまで、服が軽い重石となる程度には水を吸い込んでいた。


 とはいえ、威力はなかった。ただの強い雨である。


「それにしても、雨か。大したことないな」

「いや、雨が一番危険な能力だ」

「ン?」


 ウルスの助言が届いた直後、スタンレーは追加するように発声した。


「ウェザー《氷河(アイスエイジ)》」


 一瞬の内に、周囲は途轍もない冷気に包まれた。天舞の細氷(ダイアモンドダスト)の発動前兆に近く、善大王はフィアを見やった。

 だが、彼女は腕を抱えて震えるばかりである。実際、この冷気は(くだん)の《秘術》が生み出すそれを遙かに上回っていた。


 降り注ぐ雨は氷結していき、ただの雨粒が鋭い(ひょう)となって襲いかかる。


「広範囲攻撃……か。あの術よりはマシだが――」

「いたっ、いたた! ライト痛いよ!」

「……我慢しろ、とも言えないな。だが、我慢してくれ。あれが命中すれば終いだ」


 雨も雹を物ともせず、光線はスタンレーに迫っていた。

 命中すれば《秘術》も解除され、この冷気は消え去ることだろう。《皇の力》でも消しきれなかったが、本人に適応する系統の術である限り、術者が死亡すれば維持ができなくなる。


 しかし、彼は気付いた。目測での判断だが、明らかに司書の降下スピードが上がっているのだ。


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