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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1014/1603

6

「……事前に邂逅したことが仇となったか」

「ハッハッハ、こっちにはフィアがいる。諦めたらどうだ?」


 自分事のように、善大王は誇って見せた。

 しかし、そんなコミカルな彼とは対照的に、スタンレーは焦りを滲ませたような顔で睨み付けたままである。


「どうにも、そうできない理由があるみたいだな」

「貴様に語るまでもない。ここで貴様等を殺せば、その時点でおれの宿願は成る」

「宿願ねぇ……ま、それがなんであれ関係ないな」


 ウルスは二人の問答を介さぬといった具合で、黙ったまま接近を図った。

 もちろん、スタンレーもこの迎撃に当たるのだが、動きのキレがさきほどまでよくはない。


「フィア、行くぞ」

「う、うん」


 微妙な反応のフィアに違和感を覚えつつも、二人は《魔導式》の展開に注力し、遠距離から支援しようとする。

 驚異的な速度で迫る切断者に対し、司書は導力刃で受けて立った。《秘術》を即座に使える彼であっても、それを選んだのだ。


 無論、この一着が目に付いた一同は警戒、そして分析を行った。


「(奴の術も限りがあるのか?)」

「(うん、そうみたい。残りの数は――)」

「(負担が掛かるならやめておけ。使うタイミングから後出しで対応すればいい)」


 彼は現状において、先ほど起きた多々のアクシデントがもたらす影響を考えていた。

 《皇の力》はもちろんのこと、《天の星》の力も可能であれば使うべきではない、という考え方になっていたのだ。

 そしてなにより、彼はおおよその範疇を読んでいた。


「(小刻みに打ち込めないが、出し惜しみをしない範囲。使うときは明確に当てられると読んだ時だろうな)」


 枚数という考えではなく、使うタイミングという意味でこれを捉えていた。

 極論、何枚持っていたとしても、使おうとした瞬間を押さえれば幾分かは楽になる。

 そして、フィアがもたらした限度という情報によって、相手の手札を消費させていくという戦術も浮上してきたのだ。


 ウルスは炎を纏った拳を突き出すが、スタンレーも導力刃によってこれを防ぐ。


「(水属性……こっちの属性を相殺してきたか)」


 高密度エネルギーである炎は、通常の導力とは次元が違う。

 ただ、それでも属性の影響は往々にして適用されてしまう。何割かの貫通は発生するが、本領は発揮できないのだ。

 その上、司書は驚異的な切り返しで炎が燃え移る前に射程外に逃れている。ライカの如く、刹那の切り返しによって発火現象を防いだのだ。


「(危うかったが……防ぎきった)」


 彼の手にはうっすらと火傷の痕が見えた。いくら発火を押さえられたとはいえ、熱量によるダメージはその限りではない。

 水属性の導力を纏い、治療を開始するが、これはどちらかというと鎮痛の面が大きい。修復を行いながら戦うには、相手が悪すぎるのだ。


「ライト、やっぱりおかしい」

「なんだ?」

「……なんっていうのかな、あの人なんか変なの」

「そりゃ、まぁ普通じゃないな――おっと、ちょっと待っててくれ」


 奇妙な接近戦の後、スタンレーはそれまで通りにカードを抜き出し、《秘術》の発動体勢に入った。


「あれは――なんだ? フィア!」

「……」


 フィアは何も答えなかった。

 善大王は一度見れば、ある程度は《魔導式》の内容を記憶できる。これが《秘術》であろうとも、精度五割を上回る読みを発動できるほどだ。

 ただ、今回は例外だった。そもそも、彼はこの《秘術》を見たことがなかったのだ。


「おい、これはまさか」

「ククッ……雨にも風にも負けない《怒濤の嵐(ストームレイン)》」


 その術は、間違いなくバリオンのものだった。

 そもそも、彼はバリオンを自らの手で殺し、屍人形の一つとしたのだ。その過程で《秘術》を奪っていたとしても、おかしくはなかった。


 だが、ウルスはそう簡単には考えられなかった。人生で二人目の師とも言えるバリオンの術だけはあり、その衝撃はベイジュとの戦いの比ではなかった。


「知っているのか!?」

「……ッ、この術は全属性――全天候の術だ。突風も落雷も豪雨も雹も、天候に起因する現象が飛んでくる」

「おいおい、一番厄介な術じゃねえか」


 軽口を叩きながらも、善大王の額からは多量の汗がにじみだしていた。

 しかし、それも当たり前のことである。それまでのスタンレーの術は謂わば、強力な術というだけの話だった。それに見合った読み、対処を行えば手は打てていた。

 だが、何が飛んでくるのかも分からない術ともなると、そうはいかない。


「後手になったが――《救世(セイヴァーリパルス)》」


 彼の右手が白色の光を放ち、光糸が地を這い、宙を走り、スタンレーへと迫っていく。


「ウェザー《疾風(サイクロン)》」


 だが、目標地点には誰もいなかった。彼は風を操り、自身の体を宙に逃したのだ。

 しかし、善大王がそれで諦めることはない。彼の力は追尾性を持ち、限りなく拡散していく正の力なのだ。


「(風の制御ができるからといって、奴は飛ぶことはできない――落下の瞬間は見定められる)」


 ガムラオルスとの大きな違いは、随意(ずいい)飛行を行えているか否か。自然現象を利用した飛行であれば、その予兆を測ることができる。


「貴様の考えは見えるぞ、善大王」


 司書の声を聞き、彼の姿を見た瞬間、彼は言葉を失った。

 カードホルダーからは無数のカードが飛び出し、風に運ばれるままに空へと昇っていくのだ。

 そして、その中の一枚が発光した。


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