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――火の国、ダストラムにて。
スタンレーは砂漠を走り、息を切らせながらに到着した。
魔物を視認した時点で歩みを早めたのだが、辿りついてみれば戦いは既に終わり、町には以前に見たそれを遙かに上回る炎が踊っていた。
「……まさか、未来はまだ確定していなかったのか!?」
彼はウルスを退けたことで安心しきっていた。あの戦い、周囲に燃え移った炎こそが、自身の危惧したものだと考えていたのだ。
だが、現実は違っていた。この炎、町全体を焼き尽くす紅蓮の火こそが、彼の頭を掠める残像に重なっていた。
駆け出した彼は町の一部、その中で最も魔力の集まっている地点を目指した。そここそが戦いの渦中であると考えて。
そこに居たのは、大勢の盗賊。そして、善大王やフィア、そしてガムラオルスとスケープだった。
「(どういうことだ。何が起きている……ボスは、ボスはどこだ!)」
幸いというべきか、彼は町の突入と同時に《秘術》を発動していた。彼の存在を探知できる者はおらず、透明人間にでもなったかのように、人の間をすり抜けていく。
そして、少し歩いた時点でそれを見つけた。
燃えさかる町の中、向かい合うウルスとストラウブ。その場面こそ、彼が観測た未来の像だった。
「(組織の襲撃、そして四人もの――六人もの人間が盗賊ギルドの壊滅に動く……クソッ、運命はここに終着するというのか)」
深い絶望感に襲われながらも、彼は一筋の希望を見た。
ストラウブはまだ生きている。そして、自分の存在は未だにウルスの認識外である。
「(ここでウルスさえ殺せば、未来は変わるかもしれない)」
彼は腰に取り付けていたカードホルダーを開けると、その中に入っていた一枚のカードを取り出し――前方に向かって投げた。
それは瞬時に分解され、《秘術》一個分の《魔導式》に変換、そして発動に至る。
彼が身につけた《秘術》の一つ、物質変換だ。
自身が掌握した対象を物質に変換、そしてその解除を可能とする術。もとは荷物を小さくまとめる為に使われていたようだが、彼はその性質を《秘術》に当てはめることが可能と考え、物質として保管していたのだ。
いつか、オーダ城で《魔導式》を用いることもなく《秘術》を乱打できていたのも、この方法を気付かれないように利用していたからだ。
発動時間がネックという《秘術》にとって、この用法は最も有効な策とも言える。謂わば、《秘術》版の呪符だ。
無論、ウルスは実戦でそれを見たものの、仕組みまでは分かっていない。つまり、この奇襲は成る。
《秘術》の発動と同時に、彼の体を覆っていた存在隠蔽の効力が切れ、魔力や肉体が露わになっていく。
「俺様の一撃を受けてみろ《圧殺の一撃》」
詠唱と同時に、不可視の空気弾が放たれた。いくら発動が気付かれたとしても、背後から襲いかかる攻撃に間に合わせることはできない。
事実、ウルスもこのあまりにも予期せぬ不意打ちには対応しきれず、先に負ったダメージも相成って反応さえ間に合わなかった。
「元の場所へ引き返しやがれ《反撃追尾》」