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ストラウブと向かい合ったウルスは、ゆっくりと口を開いた。
「あんた、本気で盗賊ギルドを変えようと思っていたのか?」
「さあ、どうだろう」
釈然としない答えだが、そこにはウルスが感じていたような小物臭さはなかった。だが、それに該当するような人物像も見えなかった。
「スタンレーの力によって、行き着くところまで行き着いた、ってところか」
「あの子は多くをくれた。望むものから、望まぬものまで――いや、望まぬというのは嘘か。ただ、あまりにも荷が重すぎた」
「あいつはお前を利用していた、と俺は考えている」
「かもしれない。だが、それは分からない……いつからか、スタンレーは手の届かぬどこかに行ってしまった――いや、考えてみれば、初めから及び知れぬどこかを見ていたような気がする」
なんとも言えない会話に苛立ちを覚え始めたのか、ウルスは露骨にため息をついて見せた。
「腹割って話そうぜ」
「我々を逃がしたところで、そちらに何の利がある」
「ハッ、さっそく本題かよ。が、まぁそれについては言わなきゃならねぇと思っていた」
根本の部分はそこだった。
善大王が彼を見逃して良いと思ったのは、ガムラオルスを火の国に戻す為だった。
だが、ウルスにとってそうした利益はない。それどころか、彼は自身がボスと慕った相手を殺した根源なのだ。
「俺はこの町の有り様をみて、そしてあんたや、盗賊を見て――盗賊ギルドが変わろうとしているんじゃないかと考えた。その滅びが運命だとしても、お前を基に別の形で生きながらえていくんじゃないか、ってことをな」
「感傷に浸った、ということか」
「そうかもしれねぇな。だが、俺らは人間に大きく干渉すべきじゃなかった。スタンレーがお前に手を貸したのと同じように、俺もまたボスに力添えをしていた――もし、俺やあいつが関わらなかったとしたら、今がどうなっていたかは分からない」
「分からないということはあるまい。間違いなく、ベイジュ殿が勝ち残っていた」
「だが、その場合は俺が盗賊ギルドを存続させようなどとは思わなかった」
干渉しない、というのはそういう仮定だった。彼はベイジュと共に過ごしたが故に、客観的な視点で考えることはできなかった。
だが、完全な初対面であったとすれば、このような考えが浮かぶことはなかっただろう。盗賊と冒険者として、純粋に対峙していたと言うこともあり得る。
「……咎めようとはしないのだな」
「今更だ。俺は年を食い過ぎた――あんたもな」
二人が過ごした時間は、まさしくそういう時間だった。
人は常に流れ続ける。小川のせせらぎのように、静かで穏やかで、しかし確実に。
過去の諍いさえ、仇敵の関係でさえ、時は流していってしまうのだ。
そんな彼を見据え、ストラウブは呟いた。
「お前はどこに行くつもりだ? 冒険者として、これからも戦い続けるつもりか?」
「少なくとも、この戦争を終わらせることが目下の目的だ。この戦いは、あまりにも血が流れすぎる」
町を一瞥した彼を見てか、ストラウブは頷いた。
「あの子にも、そういう道を進んで欲しかった」
「……」
そこでようやく、ウルスは気付いた。この男に抱いた違和感、過去との大きな相違――いや、過去に気付くことのできなかった部分に。
刹那、ウルスは背後から凄まじい魔力の高まりを感じた。