10
「いい勝負ね」
「そうですね……」
フィアとシアンはいつの間にか決闘場の観客席に現れており、二人の戦いを見ていた。
シアンはというと、この状況をよくないものと考え、落ち込んだような顔をしている。
二人の視界に移る善大王とフォルティス王の戦況は、今まさに変化した。
防戦一方と思われたフォルティス王だったが、ある一点に立った時点で笑みを浮かべる。
「僕が押されているとでも思ったかい?」
「なに……」
「押し返すことはできた。でも、しなかった。これがその理由なんだよ」
そう言うと、答え明かしをするように両足で地面に落ちていた薙刀の破片を弾き、自分の手元へと寄せた。
水の杖は消滅し、鉾を思わせる多少の柄を残した薙刀部分、柄部分に当たる鉄の棒が彼の手に収まる。二刀流のような構えだ。
「(ちょっと厄介だな)」善大王は独白する。
フォルティス王は怒濤のような攻撃を放ち、左右の連続という手数の暴力で善大王を圧倒する。
体技においては善大王よりも上だけあり、こうなれば形勢は逆転だ。
「僕は薙刀での戦闘を得意としているんだけど、いつもはこんな感じで鉾と盾で戦っているんだよね」
棒で剣を弾き、短くなった薙刀で善大王に突く。
こうした攻めを善大王は持ち前の胴体視力で回避していくが、それでも完全には避けきれない。
掠ることもあれば、棒による突きが飛んでくることもある。
「ライト!」
フィアの声を聞くまでもなく、善大王は彼女が来ていることを理解していた。
だが、声を聞き、改めて意識が覚醒していった。
「(フィアの前で負けられないよな)」
善大王は喝を入れられたかのように、動きを変えた。
光剣をへし折る勢いで斬撃を放つ。まさに渾身の一撃だ。
「馬鹿正直だね」
棒と鉾の柄を交差させ、攻撃を受ける。完全防御形態だ。
ずっ、と一歩押された程度で攻撃は停止し、善大王の光剣は砕け散る。
フォルティス王は口許を歪めた。
「ほら、届かなかった」
「お前はすごい奴だ。俺がいくら打っていっても勝てない、そう確信した」
そう言うと、善大王は背を向け、逃亡した。
逃げている最中も《魔導式》は展開し続けられ、攻める為の一策ということはすぐに判明する。
フォルティス王は追跡しようとするが、異常なまでの腕の痛みに押され、動きが一瞬止まった。
「(振動波で僕の腕を麻痺させたわけだね……やるね)」
全力の一撃は元々攻撃を狙いとしていなかった。
ただの一撃、それだけで相手の行動を阻害できる。善大王が武器を捨てる理由に選択するには、十分な手だった。
善大王の身体能力は平均よりも遙かに高く、僅かに生まれた隙だけで距離をある程度開けることはできた。
「(さて、問題はここからだな。相手がどういう手を打ってくるかが全く予想できない)」
恙なく《魔導式》展開を済ませながらも、善大王は思考する。
フォルティス王は動きを止めていた。背後から感じる魔力から《魔導式》の存在は確認されている。
「(本当に術狙いか? それとも……フェイクか)」
用意した弾は光ノ二十番・光弾三発。フィニッシャーとなる光ノ百三十九番・光子弾を一発──こちらは展開最中だ──と比較的多い。
大抵の相手を撃退できるだけの装備ではあるが、今目の前にいるのはフォルティス王。
「善大王さんって、本当に強いんですね」シアンは言う。
「ま、私のライトだから」フィアは胸を張った。
「しかし……王は《星》の因子を少なからず持っているんですよ。それを相手にして、互角以上なんて……それにまだ、善大王さんは《皇の力》を使っていません」
光と闇を除いた各国の王は、巫女である《星》を誕生させる為に必要な因子を持っている。
王の血統を持つ人間は誰しもが持っている為、それ自体が稀少というわけではない。ただ、王が持つ因子の量は巫女に次ぐのだ。
王は決して飾りではない。冒険者の上位を相手にしようとも、余力を残しながらも勝利をもぎ取れる程度の実力は持ち合わせている。
善大王はそうした、血統によるアドバンテージを持っていない。善大王になることで得られるのは《皇の力》のみであり、実力はそれ以前と同じだ。
「ライトだもん、それくらい普通よ」
「普通とは思えませんね。何かある、そう思って仕方がないのです」
フィアは笑うと、シアンの背中を叩いた。
「私がみる限り、善大王は普通の人よ。すごい努力とすごい実力を持った、私の恋人っ」
信頼寄せる想い人の姿を見ながら、フィアはもう一度笑った。