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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1007/1603

終わりなき戦い

 ――ダストラム、市街地にて……。


「善大王達はやったみたいだな」

「……そうなのか」

「ああ、やっぱりお前には見えていないみたいだな」


 ストラウブは何も答えず、辺りに目をやった。


「こちらも大詰めか」

「ったく、間に合わせたのは良いが、こっちの対処は自分達でやることになるとはな」


 ウルスからすれば、善大王率いる一行があっというまに決着を付け、この場に来るという読みだった。

 だが、勝負が終わったのはほぼ同着。クオークが放った術により、最後の一人も戦闘不能に陥った。


「ウルスさん、防衛成功です!」

「……おいおい、これで防衛成功はないだろ」


 彼は町並みを見つめた。

 ほぼ全ての家に火がつき、消火は不可能という状況。遙か古の世、初代国王と火の巫女が竜を打ち払い、後に盗賊ギルドの本部となった場所は夢の跡であった。


「それはそうですけど――っ! ウルスさん!」

「ああ、なんとなく感じる。お前はこの場に残っていろ、俺が行く」


 そう言うと、ウルスは走り出した。

 住民の避難は盗賊達の手引きによりつつがなく行われ、今の町はからっぽのはずだった。

 だが、クオークも彼も微弱な魔力を感じ取った。人間の気配というよりも、明確な形の魔力だ。


 組織の人間か、もしくは逃げ遅れた者が抵抗しているのか、どちらにしても単騎で処理できる問題であればウルスの方が適任ではあった。


「(……盗賊ギルドは変わるのかもしれないな)」


 町を走る中、もぬけの殻となった軒並みに彼はそのような感想を抱いた。

 過去の根源とも言えるダストラムが終焉し、そこでは盗賊が住民を助けるということも行われていた。

 焦土より何かが芽吹くとすれば、それは《選ばれし三柱(トリニティア)》としても否定するところではない。


「(ストラウブ、あの男はやはり小物だ。だが、だからこそ奴ならば本当に変えるかもしれない……)」


 魔力に近づいていると判断した時点で、彼は思考を止めた。

 燃えさかる納屋からは、弱い魔力が放出されていた。一人一人分の量もない微弱なものだが、放出が続いている以上は痕跡というわけでもない。


 扉を炎の刃で叩き破ると、ウルスはそのまま火の中に突っ込んだ。


「どこだ! 誰か居るのか!?」

「こ、ここに――」子供の声が聞こえた。


 声は途中で止まった。しかし、それは途絶えたというよりも、止められたようなものだった。


「俺は冒険者だ!」

「……床です」


 次に聞こえてきたのは、女の声だった。

 ウルスは声に従うように、その発信源とも言える部分の床をこじ開けるべく、火の海となった場所を斬撃で薙いだ。

 すると、倒れたタンスが(つっか)えとなり、開かなくなった隠し扉が目に入る。彼は迷うこともなく、その床扉を開いた。


 瞬間、内部から凄まじい熱気が吹き上がり、彼は僅かにのけぞった。家の中の炎は床下収納にまで伸びていたのだ。。

 そこにいた女性は瀕死の状態で、彼女に抱かれていた子供もまたひどく衰弱しきっていた。


「大丈夫か? 今助ける」

「……私は、もう駄目。この子だけでも」

「諦めるな。まだお前の命は繋がっている」

「その子を、盗賊に、取らせないで……」

「無論だ。いくぞ――」


 母親を起こそうとした時、彼は悟った。


「(この母親、もう死んでいる……いや、さっきの時点で死んでいたのか?)」


 ウルスは彼女の生命活動が続いていることを確認していた。だからこそ助けようとしたのだが、彼が現れたことで安心したかのように、無理矢理に繋いでいた糸が切れたように止まったのだ。


「(死の間際に見せた奇跡、か。なんとしてでも子を助けるという覚悟が、死した肉体にほんの僅かの時間を与えた、ということか)」


 あり得ないような話だが、この前例は過去にも存在していた。

 隊員を守るべく、ライカと戦ったディード。殿として組織の人間と戦い抜いたブラスト。

 命が尽きようとした人間は稀に、終わった肉体で戦いを続ける。炭を取り除かれた後に、生み出された炎が刹那に宙を揺らめくように。


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