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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1006/1603

28

「なかなかの戦いっぷりだったな」

「えっ?」

「あいつ、あの光線の出力を相当に上げていた。たぶん、自分の意識が失うレベルで加速してたぞ……速度で(まさ)った上で勝利する、っていうのが狙いか」


 空中の状況にもかかわらず、彼はかなりの精度で読み当てていた。

 実際、ガムラオルスは気絶する前提で飛ばしていた。そもそも、彼の翼がバランスを崩さなかったことでさえ、それによるところが大きいのだ。

 神器の性質上、この左右の出力調整はかなり微細な制御を必要とする。これを誤ろうものなら、体が予期せぬ方向に弾かれていくことになる。


 だが、それにも一つの例外が存在していた。

 直線方向、それも高出力という状況であれば多少のブレは影響を失う。なにせ、移動中に蓄積されていく慣性の力が指定方向へと導いてくれるのだから。


 とはいえ、この戦術は捨て身の攻撃だった。相手の攻撃を回避することが不可能になる上、小回りの利いた攻撃であれば狙い撃ちにされかねない。

 だからこそ、彼は怪音波の発動を許したのだ。あの技はガムラオルスの弱点ではあるものの、発動までにある程度の充填時間が必要となる。

 ここで先ほどまでの音波攻撃を使われれば、一発残さず彼に直撃していただろう。

 だが、この拡散音響攻撃は攻撃範囲に一定のダメージを叩き込むだけで留まっている。

 時間当たりの威力は、通常の衝撃波を全て当てきるよりも少なくなるのだ。事実、発動前後には魔物が明確な隙を見せた。


「ガムラオルスさんって凄かったんですね」

「捨て身で付け焼き刃な戦術だが、それを土壇場で成功させる力は羨ましい限りだ」


 もはや戦術とさえ呼べないような、無茶で無謀な戦い方だ。善大王であればまず間違いなく選ばなかっただろう。

 そんな机上の計算では却下されかねないもので、彼はやってのけたのだ。そう考えると、不足分を補ってもあまりあるほどの凄みを感じてもおかしくはない。


「さて、俺達の方も締めくくりだ。こいつを倒せばな」


 目の前に迫っていた巨人を見ながら、善大王は余裕綽々(しゃくしゃく)という風でもなく、真剣に構えを取った。

 締めくくりという言葉に偽りはなく、残る個体はこの一体。ただ、彼自身の疲弊度は凄まじく、万全の状態での戦いは困難だった。


「殴りが直撃!」

「おう」


 彼は踏み出しかけた足を戻し、素早くバックステップに切り替えた。直後、巨大な拳が地面を打ち、砂が舞い散る。

 手で砂を払い、善大王はすぐさま切り返して前進した。拳は未だに引っ込められてはおらず、彼は腕を坂の如くに駆け上がっていく。


「術の発動!」

「……闇ノ四十五番・死弾(ファントムバレット)か」


 瞳に移る《魔導式》を見た瞬間、彼は指示を受けるまでもなくそれを察知した。

 続く彼女の言葉はないことを確認すると、自身の決断に間違いはないと断じ、紋章を煌めかせた。


「《驚天の一撃(アメイジングブロウ)》」


 両手に纏った導力の拳が巨人の顔面に炸裂するが、カウンターとばかりに完成した術が発動する。

 藍色の弾丸が放たれ、善大王の身を打ち抜こうとした――が、彼はそれを瞬時に回避し、ラッシュの二撃目を叩き込む。


「後ろ!」

「なるほどな」


 空振りした弾丸は戻ってくるが、彼はこれを見ることもなく回避し、三、四、と拳を叩き込んでいく。

 攻撃の回数が増す毎に彼自身の動きが加速していき、ホーミング性能を持った弾丸を避けながらに攻撃を打ち込んでいく。


 もはや巨人型もこれには諦めを抱いたらしく、術に頼ることもなく自身での肉弾戦に切り替えた。


「命中!」

「おう」


 弾丸の軌道が回避後に変わっていないことを察し、彼は物理攻撃での命中だと解釈し、迫り込む拳を避けた。

 一度の攻撃につき四発は打ち返す、という具合の善大王は凄まじい速度で正の力を蓄積させていく。


「回避不能! 攻撃と同時に飛んでくる!」

「……なら、これで止めだ!」


 善大王はスケープの指示をまるで聞いていないように、攻撃を続行した。


「よけ……避けられない!」

「ああ、避ける気はない」


 拳が直上から迫る。こうなると、後方に逃げるのは間に合わないだろう。

 しかし、彼は前言を撤回することもなく拳には拳とばかりに右手で打ち返した。


「……っ」


 善大王はそのまま立っていた。魔物は――最後の攻撃、その衝撃を届かせることもできず、消滅していった。


「ま、頃合いだとは思ったが――若いのと同じく賭けだったな」


 賭けと言いながらも、彼は薄々気付いていた。スケープの指示に従った場合、命中という運命が確定していたのだと。

 実際、彼はあの場面であればまず間違いなく彼女に従っていたことだろう。自分自身の思考を理解していたからこそ、未来の変動が起きないと分かった時点で奇策に出るしかなかった。


 最終的には賭け。ただ、彼自身は勝てるという目を十分に見た上で勝負に出たのだ。


「さ、これで本当に締めだな」


 善大王がスケープを見やった瞬間、彼女も頷いた。


「……陽よ、氷を輝かせろ《天舞の細氷(ダイアモンドダスト)》」


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