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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1001/1603

23f

 咄嗟に地上を見下ろしたガムラオルスは、高速で迫りくる羽虫の姿を見た。


「(《秘術》では防御しきれない……神器の光も移動用だ。物理的な衝撃は──直撃なら一発といったところだろう)」


 羽虫は大型の魔物ほどではないにしろ、かなり丈夫な構造である。

 その上、彼がどうにか探知できるレベルの速度で打ち出されていることを考えると、命中の際にはもれなく死が付いてくることになる。

 冷静に考えれば、翼を使った迎撃に移るのが得策。


「無駄なことを考えるより先に、振り切るッ!」


 彼はチャージタイムを削り、すぐさま発進した。想定した以上の速度はでなかったものの、翼は彼の意志に応えるかのように、充填時間からすれば十二分な出力を叩き出した。

 彼の身がその地点を外れた瞬間、投げ込まれた羽虫が背を僅かに擦る。血の気が引くような場面だが、本人は毅然(きぜん)とした態度で前を向いていた。


 何発も何発も投げ込まれていく羽虫を、これまた次々と避けていくガムラオルス。

 見事なまでの回避だが、それは神器に依存したものではなく、彼自身の身のこなしも相成って成立するような滅茶苦茶な技だった。

 自身の体の向きを変えることにより、推力の向かう先を僅かに逸らし、事細かい動きによって対空投擲を躱していく。


 そこまではまさしく彼の凄みといったところで、目標の魔物までは後少し、というところまで迫っていた。

 だが、彼は気付いていなかった。避けた魔物がどうなっているのか、それを頭の片隅にすら入れないほど、彼は集中しきっていたのだ。


 速度も増し、このまま突進のような具合に攻め込もうとした刹那、彼は背後に違和感を覚えた。

 それまでは集中を優先していた彼がそれを解除するほどに、違和感は大きく、耐えかねたガムラオルスは振り返った。

 そこには、回避した数と同等の羽虫が大挙しており、徐々に高度を落としながらも彼の背を追いかけているという形になっていた。


「(どういうことだ? 奴らは……死んで、いなかったのか)」


 ここでようやく、彼は気付いた。魔物は例外なく、死亡からほどなくして消滅する。

 だが、投げ飛ばされた羽虫は肉体を有していた。つまり、まだ息絶えていなかったのだ。

 地面を這いずるしかできない者達だが、彼らが飛べない理由は多岐にわたっていた。

 分かりやすいところが翼の欠如、さらには部位欠損の激しさによる飛行困難、(はね)の損傷、飛行を行うだけの力が残っていないなど。

 少なくとも、空中に投げられた個体の多くは飛行できない個体であり、また今もなお飛んではいなかった。


 彼らは高所への到達を利用し、滑空する形で移動していたのだ。故に、翅の損傷の激しい羽虫はおらず、傷の具合に差こそあれど全個体が戦闘続行な状態で待機している。


「(あの魔物が空に打ち込み続ける限り……この増加は止まらない。あの藍眼との戦いを短期決戦に持ち込むのは無理だ──くそッ、このまま戦闘に入れば、間違いなく奴らの入り交じった混戦となる)」


 羽虫は一様にして物理攻撃型。肝心要の《秘術》もここでは何の役にも立たない。


「ガムラオルス、そいつらを打ち落とせ!」

「……善大王か?」


 地上からの叫びに気付き、彼は接近を一時的に中断し、言われた通りに翼の大太刀で死に(たい)の羽虫を薙ぎ払った。

 彼らには回避を行うだけの機動力は残っておらず、全てを叩き落とすという意図によって放たれた一閃は想像通りに全てを打ち落とした。


 セミ型の魔物に──表情の乏しい昆虫の顔に、明瞭な怒り、想定が外れた落胆の色が見えた。


「このデカブツは俺が引き受ける! お前はそいつを頼む」

「……ああ」


 彼の目には、複雑な光景が移っていた。

 善大王はスケープの傍におり、何かを話していたのだ。会話の内容はさすがに聞き取れなかったものの、決して良い気分ではなかったようだ。

 とはいえ、呑気に迷っている暇はなかった。

 この戦いは一刻を争う戦い。早めにケリを付け、組織の戦士達を処理するという仕事も残っていた。

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