ダークメア戦争
広がる荒野の中、対照的な二人の男は睨みあっていた。
一方は白き法衣を身に纏った、茶髪の優男。
もう一歩は黒き凱甲とマントにより、将軍を想起させる黒い髪の強面男。
ただ、黒い男はその身に多量の血を付着させており、僅かながらに体力を消耗させていた。
二人が向い合う場所、それは荒野ではあるが、地上ではない。
周囲からは強い風が吹き、雲が脇を通り過ぎていく。見下ろせば小さく見える大陸が目に入る。
空中に浮かんだ大陸――そんな異常な場所に、二人は立っていたのだ。
「もう終わりだ――ダークメア」茶髪の男が言う。
「終わり? ……笑わせるな、私はまだ負けていない」
「ハッ、良く言うぜ。あとはお前だけだ」
「そのお前だけ、というのが何よりも越え難い壁だとは思わないか? 思わないのであれば、愚かしいとしか言えないな」
その言葉を聞いた途端、茶髪の男は青みがかった剣を構え、急激に距離を詰めていった。
「善大王、お前では私を倒せんよ……《魔戮》」
ダークメアの左手甲に刻まれた紋章が黒く煌めく、全てを呑みこむ漆黒の衝撃が善大王に命中し、白い法衣がところどころ破れていく。
だが、善大王も無抵抗ではない。
「やらせるかッ! 《救世》」
善大王の右手甲の紋章が白く輝くと、白光の糸が無数に生み出されていき、衝撃を緩和するように壁を作りだした。
ただ、それで全てが防ぎきれるということもなく、攻撃の最中に糸は消えていき、軽減しきれなかった何割かの衝撃波が善大王を襲う。
元いた場所の傍まで弾き飛ばされ
た善大王は剣を地面に突き刺し、自分の体をその場にとどめた。
「お前の《皇の力》では私には届かない」
「ああ、それは分かっている。だからといって、今更引き下がれるかよ……世界を――いや、フィアを救う為に、お前を倒す」
先程と同様の方法で接近してくる善大王を見て、ダークメアは溜息をこぼし、再び左手を掲げた。
しかし、善大王は唐突に跳躍し、手が向けられていた範囲から抜けだす。
「無意味なことを」
僅かに軌道修正したダークメアは上方向に手を向けた。「《魔戮》」
「《救世》」
再び二人の《皇の力》が衝突するが、結果は変わらない。善大王は空へと吹き飛ばされた。
だが、今回は完全に同じ、というわけではない。
一度浮き上がりこそしたが、善大王は自然の法則に従って落下してくる。
自由落下中、彼は自分の姿勢を制御し、手に構えた剣でダークメアに斬りかかった。
意外な攻撃だったからか、ダークメアは防御姿勢を取れず、そのまま後方に下がる。
剣が地面に勢いよく衝突し、その衝撃で善大王は剣を落してしまった。
「フッ……魔――」
振動で仰け反っていたはずの善大王は無理やり気味に一歩踏み出すと、そのまま殴りのモーションに移行する。
「《驚天の一撃》」
善大王は右腕に黄色の光を纏わせると、ダークメアの腹部に拳打を叩きこむ。発動速度が完全に勝った。
黒き凱甲は砕け散り、ダークメアは吹っ飛ばされる。
「誰が、無駄だって?」
少し間を開け、ダークメアは立ち上がった。命中した一撃は決して軽くない。
「見てみろ。もう、お前の戦争は終わっているんだ」
善大王が指さした地上では、人々が戦っていた。相手は黒い服を身に纏った者達だ。
藍色の服の者達が参戦したからか、黒い服の者達を圧倒し始めている。この戦いは既に決着している――後は、どれだけ減るかというだけのこと。
「私の戦争が終わった? 笑わせるな、私が生きている限り終わることなどない。雑兵が幾ら息絶えようとも、私が居れば全てをひっくり返せる」
「戯言だな。だが、お前も俺が倒す……それで、本当の終わりだ」
「やってみろ」
互いに構えを取った二人は、右手と左手を同時に掲げた。
「《魔戮》」
「《救世》」
互いの《皇の力》が衝突した瞬間、今まで発生したこともない現象が起きる。
周囲の空間が歪み、二人の感覚が宙を舞うように滅茶苦茶になっていく。意識が混濁し、聞こえるはずのない声が脳内に巡る。
『汝を……認めます』
「この声……あの、時の……」
善大王の瞳は既に現実を映りだしてはいなかった。
彼の目に映るのは、過去。
金色の髪の少女と向い合った、四年前の事。