第ⅬⅩⅠ 六十一話 蠢く翼
男と男の戦いにクロは勝ったのでした……。
とある夜。閑静な住宅街の一角に存在する小さな公園に、騒がしい声が響いていた。
「だっはっはっはっ! で、お前それどーなったんだよ!」
「バックレたに決まってんだろ」
「マジで!? じゃあその娘は……」
「知らねーよあんな奴。のこのこ付いてくる方が悪いんだって」
そこには六人の少年達がたむろしていた。彼らは高校生であるが、こうして頻繁に夜に街をうろついては適当な場所に居座り過ごしていた。全員が派手な見た目をしており服をだらしなく着崩している。
「おい」
馬鹿騒ぎする集団の中に静かな声が放たれた。初めはそれに誰も気付かなかったが、呼びかけが何度か繰り返された後にようやくひとり、緑色の髪の少年が反応する。
公園の入口に立っていたのは彼らよりも少し幼い三人の子供だった。
「何だよ」
「うるさいんだよ、あんた達」
並び立つ三人の内、真ん中のぼさぼさ髪の少年が苛立たし気に言った。
「で?」
「……静かにするつもりは無いんだな」
「お前さあ、年上に偉そうに……!」
言葉を返そうとした緑髪の少年はぎょっとする。三人組のシルエットに思わず恐怖を覚えたからだ。
「な……何なんだよお前ら……」
「だったら俺達が……粛清してやる」
奇怪な機械音が鳴った。
「……」
クロは無言で雑誌に目を通していた。ごくり、と唾を飲んでページを捲る。見開きいっぱいに描かれていたのはいつか死んでしまったはずのキャラクター。そして下の方に「続く」という文字。
ちっ、今週はここで終わりか……毎度毎度気になる所で次に引っ張りやがるな……。
放課後、彼は薫とふたりでコンビニに寄って週刊漫画誌の立ち読みをしていたのだった。お気に入りの作品があり、毎週通ってかかさずチェックしている……チェックするだけで買ってはいないが単行本は揃えているので大目に見て欲しい。
目当てのもんも読み終えたし、あとは適当に流し読みでもするか……ページを捲る手を速めた彼に、横に立っていた薫が声をかけてくる。
「ク、クロノ君……」
「ん? どーした?」
彼の声色はどこか深刻そうだった。読んでいた雑誌を開いたままクロに差し出してくる。
「こ、これ……」
「なになに……?」
視線を移し、クロはまず初めに顔をしかめた。そこにあるのが文字だけだったからだ。何だよこいつ、漫画読んでたんじゃねーのかよ。活字だけってのはどうも苦手なんだよ。
「『噂を大調査コーナー』……? 何だよこれ」
どうやらオカルト雑誌の様である。「関東地方の上空に出現するUFO」だとか「M市の深夜のコンビニに出没するレインコート姿の老婆」だとか「呪いの人面犬」だとか、巷に流れている(実際ほんとにそうなのかは定かではないが)噂を紹介し、それについての調査の過程を記した内容が載っているページだった。
「お前こういうの興味あったのかよ」
「いや、大してそうでもないんだけど、何となくパラパラっと目通してたらさ……ほら、ここだよクロノ君」
彼はページのある一点を示して見せた。
「……? 『天使? それともはたまた悪魔? 翼を生やした怪人間』……?」
「も、もしかしたら、クロノ君とかシエルさんとかと関係があるんじゃないかと思って」
「……『桜市で夜に目撃証言あり。詳細は追って調査していく』……これだけか」
「ピンポイントで桜市だね……」
「……ん~~~~~~~……」
しばらく腕組みをして唸り、やがて髪をぐしゃぐしゃと掻き乱すとはあと溜め息をついてクロは漫画誌を棚に戻しカバンを持った。
「行くぞ」
「え、どこに?」
「へいいらっしゃ~い! お、何だい何だい、男だけでなんて珍しいね」
香林の園に足を踏み入れたクロはそのままずいずいとイヴの方へと向かっていった。
「お前、最近飛んだか?」
「はえ? 何いきなり」
「翼を出したか? って聞いてんの」
「……あたしゃ別に構わないけどさ、他のお客さんもいるんだけど」
「……」
彼は店内を見回した。クロと薫以外にも何人かの客がいる。カウンターの裏ではギルバートが若干困惑した顔でふたりを見ていた。
「あー……悪りいおっさん、ちょっとだけこいつ借りてくわ」
「いったっ! やーんそんな強引に! クロったら大胆なんだからあ!」
彼女の手首をぐいと引っ張り、カウンターの奥の通路へと勝手に入っていく。
「アホか、ババア」
「痛いのはほんとなんだけどね」
クロが離した手首をイヴは優しくさすっていた。
「あたしも王家なんだからさ」
「! ああ……」
そうか、神の一族と魔王の一族の間だけで起こるっていう反応……肌と肌が触れ合ったら悪魔側に痛みが生じるって奴か……。
「悪かったよ」
「ったく、そんな強引な事したらシロに嫌われるよ?」
「なっ! あいつは関係ねーだろ!」
「あ、それとも逆にときめいちゃうかもね。急にぐいぐい来られてさ。ギャップって奴?」
「だから何の話だよ!」
「顔が赤くなってるよクロノ君」
「う、うううるせー! ……で、話を戻すぞ」
咳払いで仕切り直してクロは改めて質問をした。
「で、最近飛んだか?」
「ん~? 特に目立つ様な事はしてないけど」
「そうか……ギルバートのおっさんは?」
「四六時中あいつに付いて回ってる訳じゃないから知らないけど……でもギルもそんな軽率な事しないと思うなあ。上手く人間社会に溶け込もうとしてる立場だし。変な事になったら商売が出来なくなっちゃうからね」
「なるほど、確かにそうだな……」
苦労してわざわざ異世界に商売に来た身である。自らを滅ぼす行動はそう簡単には取らないはずだ。
「んで? 何でそんな事聞いてくる訳」
「これだ」
クロは購入した先ほどの雑誌を取り出し、あのページを開いてイヴの顔の前に突き出した。彼女はしばらくの間目をきょろきょろさせながら中身を読んでいた。
「…………ふーん。で、真っ先にあたしを疑ったと」
「いや疑ったっつーか、まずは知り合いに確認しといた方がいいと思ってよ」
「今言ったけど、残念ながらあたしじゃないね……それこそシロは……ま、あの娘こそ無いか」
「あー、めんどくせ」
またひとつクロは大きな溜め息をついた。
「え……天使か悪魔が夜に徘徊してる……?」
「ああ。ほら」
帰宅後クロはシロにもあの雑誌を見せた。
「……何か、情報が少ないね」
「ああ。オカルト雑誌だし、作り話って線も十分にある。けど俺達からしたら笑って否定出来る話じゃねーんだよな」
「まあ、ね……」
「とりあえず、しばらくは夜に適当に見回ってみる事にするよ」
「私も行くよ」
「え?」
シロからの突然の申し出。自分で決めながらもめんどくさいと思っていたのでありがたい事なのだが、彼はこれを潔く受け入れられないでいた。
「いやいいよ。これが本来の俺の仕事だしさ……俺だけでいいって」
「でも、私も悪魔の王女として黙ってる訳にはいかないし」
「ともかく俺だけでいいよ」
「ううん、私も行く」
「……」
もしもその翼を生やした人物を発見したとして、それが悪さを企んでいる悪魔だったのなら抵抗してきた場合戦う事になるかもしれない。そうなった時、シロを巻き込みたくない、というのがクロの本音だった。もちろんシロが強いのは知っているし、そこらの悪魔なんかでは歯が立たない事ぐらいわかっている。わかっているのだが、それでもやっぱり気にかけてしまう。
そんな事を口に出して説明したくないから、適当にやり過ごそうとしているのに……。
「いいからお前は家にいろって」
「やだ」
「ゆっくりしてろよ」
「行く」
「……」
彼女の瞳には固い意志が宿っていた。真面目な王女だ、こう決断したならてこでも動くまい……。
その姿がいつぞやの駄々をこねる妹と重なり、少年はまたも大きく嘆息した。
ほぼ同刻。聖道学園理事長室。
「こんな物が出ていますが」
「ん~?」
ぽん、と机の上に雑誌が置かれた。「噂を大調査コーナー」……一通り目を通すと、彼は感激の声を上げるのだった。
「おお! 凄い! UFOだってさ! 宇宙人が見付かるのも時間の問題かもしれないねえマリア君」
「そっちじゃありません」
「え」
「下の方に小さくあるじゃないですか」
「ん~? どれどれ~?」
彼女に促されて目を凝らしもう一度よく読んでみる。
「……ほほう、『翼を生やした怪人間』。これは……」
「あの子達ではないですか? この間誰かに見られたとか言ってましたし……」
「そうかもね。そうじゃないかもしれないけど」
「どうして放っておくんです? まだ目立ちたくはないって仰ってませんでした?」
「うん、それはその通り。しかしその一方でデータが取れるのもまた事実だ。それに注意した所でもう聞かなくなっているんだろう?」
「それはまあ、そうです……しかし、これからどんどん露出していきますよ。ネットでもちらほらと見かけているのですが。その度に一応否定的なコメントを書き込んでいる私の身にもなって下さい」
「そうか。ならもう止めておこうか……そろそろ換え時かな」
「……さっさとそうなさって下さい。あの子達のためにも……」
「ところでマリア君、君オカルトなんかに興味あったのかい。私はそっちの方がびっくりだよ」
「!!! そそそそそそれは……!」
マリアは言葉に詰まった。
すみません、こんなに待たせるとは思わなかったです。ほんとにすみません。またぼちぼち更新していく予定です。頑張ります。読んで下さりありがとうございます。ただいま。





