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●しろくろ○  作者: 三角まるめ
●○●○●○
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第五十九話 あかしろ 第2話「NIGHT AND DAY」

進級しました。

「おはようございます郷田さん!」

「おはようございます!」

 いつもの三叉路で三人は待ち合わせをしていた。谷口と内藤が先に来て郷田を待つ。これが暗黙の決まり事だった。

「おう」

「いやークラスどうなってますかねえ」

「俺昨日からずっと緊張しっぱなしっすよ! また郷田さんと一緒ならいいっすけどね」

「ふっ、内藤、お前はまだまだだな。クラス替えなんてもう何遍も経験してるじゃねーか」

「さすがっす郷田さん!」

 内藤は例のごとく賛美の声を上げる。一方谷口は無言だった。

「さて、行こうぜ」

 そう言ってひとり歩き始める郷田に谷口が声をかける。

「郷田さん、どこ行ってるんすか。学校はそっちじゃないっす」

「んんっ!?」

 彼はびくりと肩を震わせた。明後日の方向に向かっていたのだ。

「お、おう! さすがだな谷口! よく俺のひっかけに気付いたな!」

「……」

「ほらとっとと行くぞ」

「郷田さん前! 前! 信号赤っす!」

「おおうっ!? ……し、知ってるよ! ちょっと重心移動のトレーニングしてただけだ!」

「……」

「おお! 郷田さんスゲー!」

「……郷田さん」

「ん? 何だ谷口」

「……さっきから気になってたんですけど、ブレザーのボタンがズレてますよ」

「なぬっ!? わ、わざとだよわざと! イメチェンだ!」

「……」

 郷田さん、相変わらず浮ついてんなあ……。

 新学期が始まる度に彼が緊張からそわそわするのは恒例だった。


「……うおっほん! ごほんごほんっ! その、何だ……今年もよろしくな」

「……えぇ……」

「ちょっ、ちょっとクロノ君!」

 クロとの新学期最初のやり取りがこれである。たまには挨拶でもと郷田が珍しく気を利かせてみるとこの返しときた……まあ、何となく予想はしていたが。

「……ムカッ! てめー! やっぱムカつく野郎だ! 人がせっかく挨拶してやったのに!」

「そうだぞクロノ! 郷田さんはなあ! ずっとそわそわしてたんだぞ!」

「名簿見て満更でもない顔してたんだぞ!」

「うるせえ!」

 確かにちょっと顔馴染みがいて嬉しかった事は事実である。しかしそれをこの場で言うなお前ら!

「とっとにかく! 今年はお前に調子に乗らせねーからな!」

「はあ」

「……相変わらずだなあ、君達は……」

「……ちっ!」

 舌打ちをして彼は自分の席に着いた。クロノ・ヴォルトシュタイン。去年のゴールデン・ウィーク明けに彼のクラスに編入してきたアメリカからの転校生。訳のわからない発電体質で、以前油断したせいで少しだけ痛い目を見てしまった事がある。ま、油断してただけだけどな。おまけにキザな態度が話していていちいち腹立たしい……。

 新学期初日の朝っぱらから頭に血が上っちまった。少し冷静になるか、そう思って顔を上げた時、彼の瞳にある少女の顔が映った。

 なっ……! あの娘は……!!

 ズッキュウウウウウウン!!!! 心臓が鋭い何かで撃ち抜かれた。

 黒髪が綺麗な、ポニーテールの小柄な少女。そう、彼が一目惚れをしたあの少女である。彼女は友人の手をほどきながら(にっくき)クロノのふたつ後ろの席に座った。あそこが彼女の席であろうか。という事はだ……。

 お、同じクラス……!

 あ、ああ……! 郷田茜は胸に手を当てた。まさか、まさかこんな日が来るなんて……サンキュージーザス……!

「……郷田さんどうしたんだろうな」

 その様子を見ていた谷口が不安そうに内藤の耳元で話す。教室で突然ひっそりと涙を流し始めた郷田は、間違い無くクラスメイトの白い視線を浴びていた。


「ふう……」

 その夜、自室にて郷田は静かにノートを閉じた。あの日、初恋を覚えてから書き連ねてきたポエムももう二冊分溜まろうとしている。

 彼女の事を考えると胸が痛くなる。同じクラスになり距離が近付いた事で恋の病は重くなっていたのであった。

 名前はシエルというらしい。シロと呼んで下さい。今日の自己紹介で彼女はそう言っていた。

「シ……シロ……さん」

 試しにぽつりと呟いてみる。ぞわぞわぞわ、と身震いがした。

「~~~~っ!!!!!」

 耐え切れずに机をばんばんと叩く。だ、駄目だ、まだ名前で呼ぶには早過ぎる。まずはエリシアさん、と名字から呼び始めなくては。

 そのためにはそもそも話をしなければならない。話をしたい。どうにかして。やってやる。俺に怖いものなんて()え。上級生相手にけんかだってやってんだ。たかが同い年の女子に話しかけるくらい何て事。やってやる。やってやるぜ!


「いやあ、今日は本当にいい天気だなあ……ぶつぶつ……」

「……」

「おっとすいません、よそ見してました……ぶつぶつ……」

「……」

「おっす、おはよう……ぶつぶつ……」

「……なあ、郷田さんほんとにどうしちまったんだ……?」

 翌朝の通学路。郷田は谷口と内藤に構わずひとりイメージ・トレーニングに勤しんでいた。

「もうかれこれ10分はこんな調子だぞ……」

「郷田さんの事だ、これも強くなるための修行なのかもしれねー」

 と内藤。

「そうなのか? ただの独り言にしか聞こえねーけど」

 谷口がそう返した時、郷田の言葉が突如として途切れた。そして続け様に笑い始める。

「ふふ、ふふふふ……!」

「……ご、郷田さん……?」

「ふふふふ、ふはははははは! 完璧だ! これで勝ったな!」

「ほ、ほら! やっぱそうだったんだよ!」

「ええ、そうなのか……?」

 学校に着くと郷田は力強い足取りで教室へと入った。シロの姿を捜す……が、見当たらない。どうやらまだ登校していないらしい。着席して彼女の入室を待つ事にした。

「あ、おはよう茜君」

 既に自席でくつろいでいた薫が話しかけてきた。彼は郷田の後ろの席である。

「谷口君に内藤君も」

「おう、薫」

「いやあ、またみんな同じクラスで嬉しいよ」

「……クロノの奴さえいなけりゃな」

「またまたそんな事言って。嬉しいんでしょ」

「あ?」

 谷口と内藤がおかしそうにくすくすと笑い出した。

「おい! 何で笑うんだよ!」

「クロノ君もあんな風だけど、何だかんだで喜んでると思うよ」

「へっ、どうだか」

 鼻で笑って椅子に腰かける。谷口達は自分の席へと向かった。彼はそのまま適当にだらだらするフリをしつつ、彼女が来ないか入口に注意を払っていた。

 待つ事十五分。人も増えてきた八時前、ついに愛しの天使がその可愛らしい姿を現した。

 ドクンッ。鼓動が強くなる。き、来た……! よ、よし、さりげなく、さりげなく近付き、さりげなく話しかける……! ごくりと唾を飲み込む。汗まみれの拳を握りしめ、僅かに震えながら郷田は立ち上がった。

 しかし次の瞬間彼は目を丸くする。シロの直後に思わぬ人物が親しそうに話しながら登校してきたからである。

 クロノ・ヴォルトシュタイン。完全に予想外だった。

「なっ……!」

 動揺した彼は再び腰を下ろした。ど、どういう事だ……何であいつがエリシアさんと一緒に登校してくんだ……!

「……お、おい薫」

 すかさず後ろにいた薫の襟の後ろを掴む。

「いっ!? どうしたの茜君!」

「ちょ、ちょっと来い!」

 そのまま廊下へと引きずっていった。


「おい薫、あれはどういう事だ?」

 登校時間という事もありまだ人気の少ない渡り廊下の談笑スペースまで薫を連れてくると、郷田は開口一番に問い質した。

「あ、あれって?」

 薫は状況を飲み込めずに聞き返す。

「何でクロノの野郎があ、あのエ、エリシアさんと一緒に登校してきてんだって事だよ……!」

「え? ああ、あのふたりは一緒に住んでるんだよ」

「何いっ!? ど、同棲してる……だとっ……!?」

「ど、同棲ってそんな……え、ええと……昔から家族ぐるみで仲が良くて、そ、それで同じタイミングで日本に来たから一緒に暮らしてるんだよ」

「確かあいつの家族はアメリカに残ってんだよな!?」

「え? えー……うん……そうだったかも……」

「やっぱ同棲じゃねーか!」

「そう言われればそうかも……」

「そ、それであのふたりはどういう関係なんだ!?」

「えっと ……友達だよ、ただの」

「ほ、ほんとにか!? ほんとにほんとにそうなのか!?」

「……」

 薫はぽりぽりと頭を掻き、少ししてからまた口を開いた。

「……ってクロノ君は言ってるけど、僕は違うんじゃないかなあって思ってる」

「……ち、違うって、どういう事だよ……!?」

 郷田の胸中に暗雲が立ち込める。

「うーん……クロノ君、シエルさんの事になると必死になるし、あれはつまりそういう事なんじゃないかなあ」

「そ、そういう事っつーと……」

「好きなんじゃないかなあ」

「っ!?」

 頭に(いかずち)が落ちた。思考が止まってしまう。

「僕はお似合いだと思うんだけどなあ。何かいい雰囲気だし。色々大変みたいだけど……! あっ何でもない! ……それから、僕が今話した事、クロノ君には内緒にしててもらえるかな。何言われるかわかんないし」

「……」

「茜君?」

「……! あ、ああ。そ、そうか……」

「? 大丈夫? 何か顔色が……」

「だ、大丈夫だ。あ、ありがとな」

 気の抜けた声で返事をし、郷田はとぼとぼとひとり廊下を歩き出した。

「茜君? どこ行くの? 教室はこっちだけど……」

「ちょ、ちょっと風浴びて来るわ……」

「? はあ」


 郷田はホーム・ルームをサボり屋上に来ていた。春の朝日が彼を照らすが、それとは対照的に彼の心の中はどんよりと曇っているのだった。

 お似合いだと思うんだけどなあ。何かいい雰囲気だし。

 薫の言葉が耳の内に響く。いい雰囲気、という事はまさか、彼女もクロノの奴の事を好きなのだろうか。

 ……なら俺は、このまま何もせずに黙って引き下がる事しか出来ないのだろうか。

「……」

 頭が痛くなってきた。


 それから数日後、彼はある決意を固め、放課後帰り際のクロに声をかけた。

「クロノ」

「ん? ……何だ郷田か。何だ?」

「……ちょっと付き合えよ」

「? 何だよ……!」

 クロはいつもの様に鬱陶しい顔をしてみせたが、彼の目を見て何かを察したのか、表情を引き締めた。

「……」

「ちょっと、話そうぜ」

次回、完結です。

「あかしろ」が。

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