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●しろくろ○  作者: 三角まるめ
追憶編
88/150

第-1005 -ⅯⅤ話 追い詰めて、追い詰められて

謎の男、ガレインから逃げるため、隠し洞窟の奥へと戻っていく王女達。さららに何か策が浮かんだ様で……。

 ガレインは子供達を追って隠し通路の奥へと進んでいった。この中を見られた以上は、たとえ子供といえど生かしておく訳にはいかない。

 この空間はとある術を生み出すための彼の実験室だった。そのためには様々な知識が必要だ。だから彼はこの大図書館の地下でひっそりと行う事にしたのである。世界中からありとあらゆる知識が集まるこの場所は実験をするには持って来いなのであった。

 ふたつ目の書庫に着いた。所々、棚から本が抜け落ちている。しかも一冊や二冊ではなくまとめられて。おそらくあの子供達が散らかしたのだろう。彼は舌を打った。

「あのガキ共……俺様の大切な本を……!」

 怒り混じりにそう呟くと魔術で本を浮かせ、元の位置に戻していく。腹立たしい事に、全ての本棚に手を加えられている。

「ページが破れて読めなくなったらどうしてくれるのだ……!」


 そうして三つ目の書庫まで彼は歩いてきた。今の所子供達の姿は確認出来ていない。しかし……彼はにやりと笑った。どれだけ奥に隠れた所で無駄だ。逃げれば逃げるだけ出口から遠くなる。

 ここもやはりこれまで同様本が散らかされている。時間を稼いだ所で行き止まりには変わりが無いのだ。無駄な事を。

 何かを企んでいるのか、と彼は考えたが、そうであった所でどうせ子供の発想だ。たかが知れている。それにしても……。

「……イラついてくるな……」

 五つ目の本の溜まり場に近付き浮かせたその時。

「……!」

 隠されていた地面に魔法陣を発見した。

「……なるほど」

 今までは無く、急に現れた仕掛け……ふとした拍子で気付かずに足を踏み込むと術が発動する様になっていた。本はこれを隠すため……少しは頭を働かせるらしい。

「こんな小細工、俺様に通用するものか」

 以降はこの魔法陣のトラップが度々現れる様になった。しかし相変わらず子供達はいない。巨大な魔法陣が描かれた実験場も通り過ぎる。一体どこで出てくるのやら……。

 五つ目の書庫。一応警戒しつつ本を片付けていく。すると今度は、魔法陣ではなく「ばーか」という文字。

「……」

 イラッ。

「馬鹿じゃないわ!」

 叫び声が洞窟内に木霊(こだま)す。あいつら……見付けたら絶対殺してやる……! 奴らはおそらく本棚の陰にでも隠れているはずだ。そうして彼の目を何とかすり抜けてここから脱出する……逃すものか。

 だが、ガレインのこの予想は裏切られる形となった。七番目の書庫に入った途端、頭上に気配を感じたからだ。

「!」


 書庫の入口の上に滞空していたルルゥは男を視界に捉えた瞬間、脳天を目がけて拳を振り落とした。だが、ガレインはそれに気付きすんでのところで一歩退きかわす。ちっ……()けられた……!

「意外だったぞ……まさか入口で待ち構えて、攻撃してくるとはな」

「褒められてるのか? ……それは!」

 すぐに空中で体勢を立て直し左手でパンチを繰り出す。あっさりと掴まれる……だが。

「!」

 それと同時に電流を放ちダメージを与える。これにはさすがに対処できなかったらしい。

「ぬううっ!」

 ガレインの手が緩んだ隙に素早く後退した。このまま狭い通路に入り込まされちゃ動きにくい。

「……その年のわりに、珍しい術の使い方をするな、貴様」

「……また褒められてるのか?」

 すぐに本棚の陰に隠れる。これで無闇(むやみ)に攻撃はしてこれないはずだ。ちなみに、ルルゥは魔術で翼を黒く染めているため、ガレインからは悪魔にしか見えない。

「……なるほど。俺様が本を傷付けられない事を踏まえて書庫で戦いを挑んできた訳か……賢明な判断だ。だが貴様も本棚が障害となって攻撃をしにくくなっているのも確か」

「……!」

 その通りである。さて、予定ではここで少しだけ戦って程よくぼろぼろになって奥まで逃げなくてはいけないんだが……どうしたものか。

 姿を現し戦いを仕掛けた以上、あの男は今の時点では俺が自分に勝とうと、もしくは自分から逃げ切り出口の方に向かおうとしていると思っているはずだ。

「貴様、ひとりか? ……残りのふたりは奥にいるのか?」

「あのふたりは俺が守る」

「ふっ……威勢のいい台詞だ」

 これであいつの中の俺がひとりで逃げ切るという可能性はほぼ無くなった。つまり戦うという選択肢に絞られた訳だ。

 とりあえず、あいつに向かっていくか。そう決断したルルゥは自らガレインに迫る。しかし、本棚のせいで直線的な動きしか出来ない。これはやはりどうもこちらも戦いづらい環境だ。

 すでに書庫の中に入っていたガレインの後ろに回り込む。足音でこちらの動きが予測されているため、待ち伏せられた形になってしまうのだが、そんな事は百も承知だ。

「何か企んでいるのかと思えば、ただ正面から突っ込んで来るだけか」

「ああ、真正面から突っ込んでやるよ」

 そう言いながらルルゥは本を一冊見せる。

「お前の大切な本と一緒にな」

「! ぬうう……卑怯な!」

 悪人のこいつに言われたくないな……だけど、これで魔術は塞いだ。体術戦に持ち込める。

「そんなに大事なら返してやるよ」

 足を止めずに本をガレインに投げ付けた。彼は慌てて手に取る。おかげで隙だらけだ。電撃を一発胸部に浴びせる。ばちばちと空気が焦げる音が聞こえた。

「あいたああああっ!」

 ……何だか、弱い者いじめをしているみたいだ。殴り飛ばされたガレインはそのまま本の山の上に倒れ込む。あ、そこはちょうど……。

「うぎゃああああっ!」

 魔法陣が仕込まれている場所だった。地面から鋭く尖った岩の針がぶすぶすと彼の体に突き刺さる。

「……ラッキーだ……」

「ぐ……ぬぬ……おのれええええ!」

 立ち上がったガレインは翼を広げ、ルルゥ目がけて勢いよく跳んだ。思ったより速い。彼は急いで本棚の間に逃げ込むが、このままでは十中八九捕まってしまう……。

「くっ!」

 必死に本を抜き落とすがそんな物はお構い無しにガレインは突撃してきた。首根っこを掴まれた彼は壁に打ち付けられてしまう。

「うぐうっ!」

 腕のリーチが長い……! やはり、子供と大人では体格差がありすぎる。だが、これでもう十分この男は感情的になっている。あとは何とか奥まで誘い込めれば……!

 しかし、身動きが取れない。先ほどからガレインの腕に電流を走らせているがまるできいていない。徐々に力が入らなくなっていく。

 その時、天井の一部が崩れ、岩がガレインの頭部を襲った。王女が魔術で攻撃したのである。大体予定通りのタイミングで出てきてくれた。

「ルルゥ!」

 ガレインがよろめいている間に彼の手から解放されたルルゥは彼女と合流し、洞窟の深部へと走る。

「お前……もう少し早く出てこいよ」

「いいでしょう!? 逃げられたんだから」

「それは成功するまでわからないけどな」

「貴様らあああ!」

 後ろから怒号が聞こえてくる。しっかりと追いかけてきているらしい。そうでなくては困る。


 ガレインは怒りに身を任せながら子供達をどんどんと追いかけ、とうとう最深部である自室まで追い詰めた。無駄な足掻きももう終わりだろう。

 最後の通路を抜けた時、来るな、という声が飛んでくる。彼の就寝用のベッドが置かれている小高い崖の上に子供達が三人固まっていた。

「……いい加減諦めろ」

 そう言って彼が踏み入ろうとした時、違和感を持つ。入口の真正面にある本棚から全ての本が抜け落ちていたのだ。それらはどこにあるのかというと、彼の足元だった。今までと同じ様に小さな山になっており、その間からかすかに魔法陣と思しき物の一部が見えていた。

「……なるほど。一歩でも入り込めば術にかかるという訳か。だが、所詮は子供の考え……」

 彼はその場から動かずに本を正面の棚へと戻した。あとは地面の魔法陣を破壊すればいいだけだ。

「最後のいたずらも失敗に終わったな……」

「あら、そうでもなかったみたいね」

 先ほどは姿を見せなかった三人目の黒髪の少女が答える。急に強気な口調だ。

「強がりはよせ……!」

 突如、彼の体がぴくりとも動かなくなる。術にかかってしまったのか。

「……? 何だ……?」

 足は動かしていない。地面以外に魔法陣などどこにも無かったはずだ。足元をもう一度見るとそこには魔法陣の一部しか(えが)かれていなかった。フェイクだ。これではたとえ陣の上に入っても術は発動しない。

「あなたが自分で発動してくれたのよ」

「……! まさか……!」

 ガレインは顔を上げた。綺麗に整えて収納されている数多の本の背表紙を用いて、複雑な魔法陣が出来上がっていた。

「追い詰められたのはあなたの方よ」

 彼女の言葉の直後、魔法陣が光を放ち凄まじい力で彼は本棚へと引っ張られ始める。

「ぬっ、ぬおおおおお……! なっ、何だこれは……!」

 必死に抵抗しようとするが体は全く動かない。完全に術中にはまってしまっていた。

「ひっ、引き寄せられる……! 吸い込まれる……! こ、この術はっ……!」

「そんなに本が好きならさー、もういっその事本になっちゃいなよ」

「なっ、ふ、ふざ……ふざけるなっ……こ、この俺様が……こ、こんな術……ぐ、ぐぬぬ……ぬおおおおおおおおっ!」

 ぐいんと一気に引き寄せられ、ガレインの体のほとんどは本棚の中心に入っていた本の中へと吸い込まれていた。だが、彼はまだ諦めず、かろうじて右手ひとつで本棚の天板を掴んで耐えていた。

「き、貴様らあっ! こ、殺してやる! か、必ず俺様が……!」

 しかし抵抗空しく、彼はとうとう本の中へと吸収されてしまった。

「……封印完了、って所かしら」

ガレインさんはお馬鹿でほんと助かった……。

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