特別編 いつかの、いずれかのきみとのせかい
あれから二年が過ぎた。
「ふあ~あ……だりー」
目覚まし時計の音を聞くのは久し振りだった。あいつ、しばらく仕事してなかった分、やたらと大音量で鳴りやがったな。そんなに熱心に仕事に打ち込まなくてもいいっつの。
「あち~……」
汗が染みたTシャツの胸元を手でぱたぱたと引っ張り彼はリビングに向かった。朝食を取らなければいけない。
今日から二学期が始まる。
「……何でお前が俺の席にいんの……?」
「よう」
郷田はさもそこが自分の席であるかのように彼の席に座っていた。彼は容赦無く一蹴する。
「ぶ!」
「ようじゃねーよ。そこは俺の席なんだよ」
「蹴る事ねーじゃねーか」
そそくさと郷田は隣の席へと移った。本来の席はそこなのだ。
「ったく、軽いジョークが通じねーのか。せっかく俺が2ヶ月振りに登校してきたお前の緊張をほぐそうとしてやったのに。夏休み明けは結構緊張するだろ?」
「お前が自分の緊張ほぐしやってるだけだろーが」
席に着きながら彼は溜め息をつく。何でよりにもよってこいつが隣なんだ。
彼らは今、聖道学園高等部に通う一年生だ。
「おっはよー」
「おはよ」
「おー、おはよ」
その時陽菜と結が教室に入って来る。
「おい、俺にあいさつは無しかよ佐倉に紫宮」
突っかかる郷田に対し、結はわざとっぽく笑いながら返した。
「あー郷田、いたんだ」
「うるせー! お前らもっと俺を丁重に扱えよ」
それからホームルームが始まるまでしばらく四人で話した。話題は夏休みの宿題からこの2ヶ月間に起こった時事についてまで様々であった。
「よーし席に着けー」
チャイムが鳴ると共に担任の教師が教室に現れる。生徒達は皆それぞれ自分の席へと座っていった。
「今日は転校生の登場だー」
この発言に一同がざわつく。しかしその中で唯一、彼だけがさほど動揺せずに机に伏していた。
「入ってくれ」
教師の声に促され、ドアを開けて生徒がひとり入ってきた。ぽつ、ぽつ、ぽつと小さな足音が続き、少しして止まると緊張した声での自己紹介が始まった。
「おい」
隣席の郷田が生き生きとした表情をして小声で彼に話しかけてくる。
「今俺の目の前に、天使が降りてきた……!」
彼はゆっくりと顔を上げて、転校生の姿を下からじっとりとした目で眺めていった。
相変わらず背が低い。それが最初の感想だ。そして次に気になったのが髪形。かつては後ろで結っていた物が今はそのまま背中まで垂れている。何だか少し大人びた様だ。だがそれは同じく、彼女からも彼自身がそう見えているのかもしれない。
そうだ。お互い少しだけ、大人になった。ただそれだけだ。
「……ばーか、あいつは天使なんかじゃねーよ」
彼はついつい笑みをこぼす。
「悪魔だ」
新しい日々が始まる。
今回は特別編という事で、学生時代に書いていたオリジナル版の最終話を修正した物になります。このラストもなかなか好きだったので、せっかくだから発表しちゃおうと。ただ、キャラの名前含めて設定がだいぶ変わっているので大幅にカットしてしまいましたが……。
決戦編でパラレル・ワールドに触れたので、このお話は本編とは別の境界の、少しだけ未来のお話という事になります。その内描かれる本編の最終話はこれとはまた違った感じになると思います。





