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●しろくろ○  作者: 三角まるめ
●○●○
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第43話 名も知らぬ少女

クロに好きな人なんていなかった! あ~よかった!

 ある日の放課後の帰り道。家路を歩いていたクロの足が突然止まった。

「? どうしたの?」

「……何かいる」

 シロの問いかけに彼は曲がり角の奥を指差す。彼女はその先を見た。

 人がひとり、うつぶせのまま道端に倒れていた。

「! そ! そんなのんきに構えてる場合じゃないでしょ!」

 事の重大さをクロに言い聞かせるとすぐにシロは倒れている人物の元へと駆け寄った。クロも続く。

「だ! 大丈夫ですか!」

 体を抱きかかえる。見た所、シロやクロと年は大して変わらない少女の様だ。

「大丈夫ですか! しっかり!」

 ゆさゆさとシロは彼女の体を揺すった。すると意識はあったらしく、彼女は蚊の鳴く様な声で一言。

「……お腹空いた……」

「……は?」


 その小さな体の一体どこに入るというのか、彼女は出された料理を次から次へと平らげていった。

「ぷっは~~~~~~! 食べた食べた!」

 膨らんだお腹をさすりながら満足そうに言う。彼女の前には皿が山の様に積まれていた。

「そない小さな体によう入りますなあ」

 食器を下げながらギルバートが感心した声を出す。

「いや~、おじさんの料理がおいしいからだよ」

「嬉しい事言ってくれはるやないですか。せやけどその様子やとデザートは無理そうですな」

「デザート!? あのねえおじさん、女の子にとってデザートは別腹なの♡」

「まだ食うのかよ!」

「見てるこっちが気持ち悪くなってくる……」

 彼女を挟んでカウンター席に座っていたシロとクロはそのあまりの食べっぷりに呆れていた。

 その後、ギルバート特製「心も体もホッ。とケーキ」五枚を彼女は見事完食した。

「げっぷ!」

「きゃっ!」

「きったねーなー!」

「あははごめんごめーん。いやーおいしかったよ」

 少女は改めてギルバートに礼を述べる。

「嬢ちゃんもえらい美味そうに食べてくれはったなー。ところで、お代ちゃんと払えるん?」

「え?」

「……いくら?」

 顔を引きつらせるクロに彼はさっとレシートを渡した。

「……出世払いで」

 金額を確認したクロがぼそりと言う。

「おい!」

「だってこいつがこんなに食うとは思ってなかったんだよ!」

「え? あたし?」

 少女は自分の事なのかと自身の顔を指差す。

「あたし何か悪い事した? いや~あたしって罪な女」

「……はあ……まあどうせ払えんやろうと思っとりました。まあ、夏のあれ(・・)で一発当たったさかい今回までチャラにしときます」

「あ……ありがとうギル……」

 どうやら海で収穫した素材を使ったオリジナル商品がヒットしたらしい。

「それに……嬢ちゃんがほんま美味しそうに食べてくれはったし」

 そう言い残して彼は食器を洗いに厨房へと歩いていった。

 居雑貨屋香林の園は突然の暴食娘の来店で臨時休憩となっていた。店長であるギルバートが調理に集中するためである。今店内にはシロとクロと少女以外誰もいない。

「何せ1ヶ月ぶりだしねえ、ご飯食べたの」

「えぇっ!?」

 少女の発言にシロは驚いた。

「お前なー、もうちょいまともな嘘つけよ」

「え? ……あーごめんごめん」

 あ、そうか、嘘に決まってるよね……クロのツッコミを聞いてシロは信じた自分が恥ずかしくなる。

「さて!」

 少女は無邪気そうに笑うとくるりと椅子を下りてふたりの前に立った。左右で結われている黒い髪が宙でふわりと踊るのを見たシロは、新体操のリボンみたいだな、とその華麗さに魅入った。

「改めて、助けてくれてありがとね! え~と……」

「あ、シエルです。愛称はシロ」

「……クロノ」

「そう! シロにクロね! ありがと!」

「お前もそう呼ぶのか……」

 クロは溜め息をひとつつく。

「にしてもお前……何でぶっ倒れるまで何も食わなかったんだよ」

「え? え~とそれは……ひ・み・つ♡」

「……は?」

 彼はイラついた声を出した。あ、クロってこういうの駄目なんだ、とシロは思った。私、普通に可愛いと思ったんだけど。

「あの……あなたの名前は?」

 今度はシロが彼女に尋ねる。

「あたしの名前? えっとねー……」

 少女はこめかみの辺りに人差し指を突き立て考える仕草をとった。

「何でそこで考えるんだよ」

「……………………何だっけ」

「は?」

「ん~……みち子……? いや違うカレン……? でもない……シルフィーユ……? でもなくて……さらら……じゃなくて……ん~わかんないっ!」

「お前ふざけてんのか?」

「ちょっ、ちょっと待ってクロ!」

 立ち上がるクロを慌ててシロは制止した。

「もしかして記憶喪失……とかかもしれないじゃん!」

「ふざけんな! そんな簡単に記憶喪失なんてなるかよ!」

「そうそう。人の記憶ってのは意外に消えないもんだよ」

 クロに続いて彼女も腕を組みうんうんと頷きながらシロの意見を否定する。

「でもねえ、それはきっと誰かと接した思い出があるから。誰にも触れられなかったら、きっとそれはもう必要の無い情報として脳に蓄積されていくんだろうねえ」

「あの……あなた、何を言ってるの?」

「だからあたしは自分の名前を思い出せない。あたしはもう、誰からも必要とされてないんだよ」

「……?」

「助けてくれたお礼、じゃないけど、ひとつ君達にとんでもない事を教えてあげようかな。あのね、あたしは人間じゃない、って言ったら信じる?」

「え?」

「だから、あたしは……悪魔なの♡」

はい。やっとこさ出せましたこの娘。このエピソードは自分でも先がわからずに手探りで書いております。

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