第ⅩⅨ話 星に願いを
屋上に上がると360度のパノラマが広がっていた。
「うわ~~~~~街がきれいだね!」
シロはうきうきした声を出していた。確かに彼女の言う通り、なかなかいい景色だ。ただのビルの中から漏れる電灯の光や、ネオン、外灯なども、こうやって遠目から見るとこんなに情緒的になるものなのか。
「んじゃやるか」
クロは手に提げていたビニール袋から缶ジュースを取り出し、オレンジジュースをシロに手渡した。彼はもう一方のグレープジュースを手に持つ。
「ありがと」
彼女は缶を両手で受け取ると涼しそうに声を出した。
「乾杯」
プルタブを開けるとそう言って缶をこん、と軽くぶつける。大人の真似事だ。
「確かにきれいだな」
一口ごくりとジュースを飲んだ後、彼は夜景を見ながらしみじみと言った。静かな風に乗って甘い香りが流れてくる。ジュースではない。きっとシロのシャンプーの匂いだ。心地よい。
この時、少年の心臓は確実に高鳴っていた。小さな衝動が体中に広がっていく。それを引き起こしたのは間違いなく、今彼の隣にいる少女だ。自分でも自分の心の中で何が起こっているのかいまいち理解出来ていない。これは一体何なのか。いや、わかっているのかもしれない。でもやっぱりわからない。俺はどうしたいんだ。
ただ、どうしても彼女の事を思い出さずにはいられなかった。
「なっ、何……!? な、何か付いてる?」
彼の視線に気付き、シロは照れた顔をした。ちょっとじろじろと見過ぎたか。
「……いや……ちょっと……」
昔の事を思い出しててさ、そう言おうとした時、彼の意識は空に取られた。
「お! ……始まったな」
「え!?」
シロも焦って空を見上げた。
星々が彼らの頭上に降り注いでくる。この街などすっぽりと覆い尽くせるほどに。
「……」
ふたりとも言葉を失っていた。それだけ心を奪われていた。
そういや、あいつ、星が好きだったな。
彼は心の中でぽつりと言った。





