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●しろくろ○  作者: 三角まるめ
完結編
136/150

第100 C話 運命のたたかい

「来い……神薙」

 カードの読み込みと共にクロの右手に斧槍が握られる。相対するシロは変わりなく彼を睨み付けていた。そこに迷いは窺えない。

 しばらくの間見合った後……クロはぐんと彼女に迫った。彼女には魔術がある分距離を取っているとこちらが不利になる。常にある程度の間合いにまで詰めておかなければいけない。

 しかし予想に反してシロも彼の方に飛び込んできた。面食らうがすぐに神薙を構え振るった。

 ところが、シロはある地点で一旦着地して急ブレーキをかけた。くそっ、攻撃のタイミングが狂った。このままでは突き出した槍先は彼女には届かない。

 かと思えば彼女はまたしてもすぐに前へと地面を蹴った。そのまま眼前に振られた刃をすり抜けクロの懐へと入り込んでくる。

「エヴォッシュ」

「!」

 シロが呪文を唱えた。クロの体は衝撃と共に後方に弾き飛ばされてしまう。何とか手放さなかった神薙を地面にぶすりと突き刺し、それを軸としてぐるりと体を回すと彼はすぐに再び彼女へと向かう。だが目の前で突如風が畝った。この術は……一度受けた事がある……!

「くっ……くそおおっ!」

 巻き起こった旋風に包まれ今度は上空へと飛ばされ、見えない壁に強く体を打ち付けられた。これは……結界なのだろうか。空間が隔絶されている。

「近付けねえ……!」

 これが魔術……普段はあんなに大人しい奴なのに、敵に回すとこれほど強いとは。

「! マ……マジかよ!」

 間髪を入れずにサッカーボール大の火球が次々と襲いかかってくる。クロは空を翔けた。

「あっちっ! くそっ、羽がちょっと燃えちまった!」

 翼に気を取られている間にごん、と頭に衝撃が走った。飛び回っている内に見えない壁に自分からぶつかってしまったのである。

()っ……!」

 動きの止まった彼の体を炎が包み始める。

「うわあああああっ!」

 

 焼かれた小さな影が河原の草むらへと落ちていくのをシロは確認した。炎はそのまま燃え広がっていく。だが、ふと背後に気配を感じて振り返った。

 その時には既に遅かった。火だるまになっているはずのクロが目の前で拳を握っている。シャツが無い……焼けたのは服だけか。

「……!」

 防御が間に合わない。しかし目が合ったクロは一瞬拳を振り下ろすのを躊躇った。

「……っ!」

 私も何をじっとしているのだ。今の隙にこちらから攻撃を仕掛ける。

「っっっっっっっくしょおおおおおおおっっ!」

 結局それも追い付かなかった。頬にばちんと衝撃。拳の痛さと、電撃の痛さと、呪いの痛さと……まさかこんな形で初めて顔に触れられるなど思ってもいなかった。

「ぐうっ!」

 シロは倒れ込んだ。


「はあ……はあ……はあ……!」

 クロの体は震えていた。どうして俺は今、こんな事をやっているのだろう。加減はしなかった。これが俺の答えなんだから……!

 彼は火球に追われながら神乱を撒いていき、草むらの中に姿が隠れた際に上着だけ脱いでシロの後方に高速で移動したのである。

「…………どうしたの……」

 シロは殴られた頬を手でさすりながらふらふらと立ち上がろうとする。一度がくんと膝を折りかけたがすぐに体勢を立て直した。

「どうして、そのまま攻撃してこないの……」

 そのまま彼女はゆっくりと右腕を上げた。魔術を使おうとする所作だ。発動される前にクロは電撃を放って彼女を感電させる。

「うあああああああ!」

「……お前は……今のお前は敵だ……! イージスに引き取らせて…………それでお前がどんな目に遭うのかは知らねえ……それでも……!」

 その時クロは足元をぐっと掴まれる。シロは目の前に倒れいている。彼女ではない。くるぶし辺りに草が巻き付いていた。

「!」

 足だけではない。瞬く間に両腕も絡まれ捕らえられてしまった。河原の草が突然伸びている。

「っ! な、何だ、これっ……!?」

「……魔術で、草を急速に成長させたの……多分、クロの力くらいじゃ千切れないくらいには(つよ)くなってると思うよ」

「くっ……! ただの草が……!!」

 引き千切ろうとクロは両腕を動かすが、縛り付けられて上手く力を入れられない。それどころか逆に腕の方が草に引っ張られていく。

「ぐ……ぐあ、あああああああ……!」

「苦しくしてごめんね。拷問は好きじゃないの。なるべくそっと死ねる様にとは思ってるんだよ」

「くっ……くかがががががが……!」

 言葉にならない痛み。このままではこちらの腕が千切られるのも時間の問題だ。

「くおおおおお……ぬああああああっ……!」

 神乱によって上空へと移動する。自力が無理なら電磁力で無理矢理千切り離してみせた。一瞬でクロの姿は地上から消え、彼の四肢を縛っていた草はじゅっと燃えてしまった。

「……また、一瞬で消えちゃった……クロはやっぱり凄いね。強いね」

「はあ……はあ……!」

「……モファ」

 シロが自らの周りに手を振りながら呪文を唱えた。彼女の指先から無数の泡が生じ、一帯をぷかぷかと浮遊し始める。

「触れるとすぐに破裂してすっごく痛いよ。高速で移動してどこに行くのか、どこから来るのかわからない……なら、全方位に罠を張ればいい」

「……おもしれえ……やってやろうじゃねえか……!」

 ふたりの攻防は続いた。互いが傷付き、互いを傷付けながら。


 全ての泡が弾けて消えた時、クロは地面に倒れていた。最後の泡の中心に突っ込んでしまい衝撃を殺せなかったのである。一方シロは何度も電撃を浴びせられながらも依然として立ち続けていた。

「……ちょうどだね」

「……!?」

 シロは左手を頭上に掲げた。その掌に火の玉が生成されていく。それはどんどん大きくなっていき……先ほどの比ではない、もっともっと巨大な、直径十メートルほどにまで膨れ上がった。

「…………嘘だろ……」

 左手。灼熱の巨大火球はシロの左手に作られている。これまで術を行使していたのは右手だった。彼女はクロとの応戦に右手で魔術を即座に発動しつつ、同時に左手の方ではずっとこれほど大きな術の構築を行っていたのだ。

「…………やっぱり、お前は凄い奴だ……」

 そうして放たれた小さな太陽がクロの全てを……影すらも焼き尽くした。

 はずだった。


 火球が消滅した後、一帯が焼き尽くされた後、穿たれた地面の上にクロの姿は変わらずあった。それを見たシロは初めて動揺を見せた。

「最強の盾……神居」

 斬った物に対して一切の干渉を断つ神器。クロは自らを斬り、巨大火球から身を守ったのであった。

「……!」

 シロの顔には焦りの色が広がっていく。確実に仕留めるためにじっくりと練っていた、あれほどの大きな術。相当魔力を消耗したのだろう。はたして彼女にはあとどれほどの戦う力が残っているのだろうか。

 クロは一旦地面に突き刺した刀を支えに立ち上がり、それを抜いてから彼女の元へぽつぽつと歩み寄っていく。

「い……いやああああああ!」

 シロは叫びながら魔術を発動した。鎌鼬が襲ってくるが、それは決してクロの体には触れられない。そうして彼女の目の前まで来た。

「…………俺の負けだ」

「…………え……?」

「あんだけ神乱で暴れまわった後に、この神居……正直今の俺にはもう全然力が()え。ちょっとくらいなら電気は流せるだろうけどな」

 そう、戦う力が無いのはクロも同じであった。鞘に刀を納める。これで神居の不干渉状態は解除された。

「だから俺の負けだ……殺せよ」

「…………え…………?」

「それがお前の望みなんだろ?」

 満身創痍の状態でクロは全てを受け入れようとしていた。シロが願っている事なら。それで彼女が苦悩から解放されるのなら。彼はどこかでこうする事を望んでいたのかもしれない。

「…………」

 ふるふるとシロは右手を上げ、クロの心臓の位置まで持ってくる。そして静かに呪文を唱えた。

「バッツ」

 彼女の右手がぴくりと反応し、指先がぴんと伸びる。このまま俺は、こいつに殺される。

「……クロ、ほんとにいいんだね……」

 シロは声も震わせていた。

「ああ……やれよ」

「……ありがとう」

 ぎこちない笑みを見せた彼女の頬にまた涙がこぼれる。

「ばいばい」

 そして彼女は、とどめの一撃を振るった。

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