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●しろくろ○  作者: 三角まるめ
完結編
130/150

第94話 予感

シロとクロがいちゃいちゃするだけのお話でした。

 サングリア地方に広がる大森林を奥へ奥へと踏み入っていくと大サンガス山への登山道が姿を見せる。そこから道なりに進んでいき七合目辺りに「星降りの地」と呼ばれる場所はあった。1000年前、終戦の前夜に空を翔けた流れ星が落ちたと伝承に残っている地。イヴはフェイスと共に大魔城へと1000年振りに帰還し、その後魔王アレクサンドの協力を得て兵を引き連れこの場所を訪れていた。

 ぽっかりと穿たれた地面を囲う様に柵が設置され、石碑には「星降りの地」としっかり書かれており、その横に立てられた板にはつらつらと説明文が添えられていた。ここは現在ひっそりとした観光地となってはいるのだが、こんな辺境の地に訪れる者はそうそうおらず、辺りには彼女らの一行以外の人の姿は全く無かった。

 1000年という歳月が流れているにも関わらず不思議な事にこの地はそれから一切の変化をしていないという。当時の墜落の衝撃で周囲の魔力の場が狂い天然の結界の様になっているのか、はたまた大地の意思で守られているのか……そこまでの詳細はイヴにもわからない。ただひとつ言える事は……ここが、ルルゥの魂が最後に散った場所、という事だ。つまりはルルゥに最も近い場所。これから彼女はこの地で眠りに就き、大地に眠る情報を辿っていく。不老不死になった時とは逆に今度はこちらから記憶の中に潜り込んでやろうという算段だ。そして必ずルルゥの記憶を見付け出す。天界の書庫に忍び込んだ時に流れ込んできた彼の記憶を。そこにはきっと呪いを解く答えがある。

「よーし、そいじゃみんな設営よろしくー」

 イヴの合図の(のち)兵達がぞろぞろと柵の中へ入っていく。本来は立ち入り禁止なのだが特別に許可をもらっている。やがて穿たれた地面の中心部に簡易的な天幕が張られた。

「うむ、ご苦労……そいじゃ早速始めるから、しっかりあたしを守っとくれよ」

「かしこまりました」

 偉そうに兵に声をかけ、イヴはひとりその中に入っていった。中は案外広く思ったよりは過ごしやすそうだった。

 ……ただちょっと暑いな……すぐに彼女は扉の役割を担っている部分の布を捲り上げた。

「ちょいと! もうちょい涼しくなんないの?」

「そっ、そう仰られましても」

「『風起こし』とか持ってきてないのかい?」

「申し訳ございませんが……」

「だったら買ってきて! このままじゃ蒸しイヴちゃんになっちゃうよ!」

「し、しかし町まではかなり距離があるのですが……」

「行けない訳じゃないだろ? 何のための翼だよ」

「かっ、かしこまりました!」

「ったく……そいじゃ今度こそ始めるから、風起こしが来たら何か適度な感じで微風をちょうだいね」

 門番に強引に冷房器具の買い出しに行かせた後代わりの者に彼女は言伝をした。

「そ、そんなアバウトな……」

「あと定期的に布を上げて換気する様に。ほんとは乙女の寝顔なんて見せたくないんだけどまあしょうがない」

「乙女って、イヴ様今一体おいくつだと……」

「何か言った?」

「い、いえ何も! 換気の件かしこまりました!」

 注文を終えイヴは再び布を下げた。

「ふ~っ……まったく近頃の兵士達は……よし」

 用意された寝具に身を預ける。もしも一月経っても目を覚まさなければそのまま大魔城に連れ帰る様に頼んでいる。出来るだけ魔力の場が強いこの地から遠ざける様にと。それでも目を覚まさなければ境界に連れていく様にも指示をしている。なーにきっと大丈夫さ。

 イヴは静かに目を閉じた。


「寝れなーい!!」

 しかしその後そう言って外に飛び出すまでにそれほど時間はかからなかった。

「ぜんっぜん寝れない! って訳で疲れたいからみんな今からあたしと鬼ごっこしよー!」

「は!?」

 突然の提案に戸惑う兵士達。

「鬼はあんた達全員! あたしを捕まえられた奴が勝ち! 範囲は……そこら辺ね! そいじゃスタート! あ、参加しなかった奴の顔は覚えとくからね!」

「そ、そんな唐突な……!」

「うっふふ~、あたしを捕まえてごら~ん」

「イッ……イヴ様……! ……は~~~~~……」

 皆溜め息を隠す事はしなかった。


 一方その頃フェイスは高く積まれた本を抱えながらアインシュタット大魔城の廊下を歩いている所だった。視界は完全に本によって塞がれているがそれでも彼女は器用に運ぶ。角を曲がろうとした時に誰かの驚いた声が聞こえてはっとして足を止めた。あやうくぶつかる所だった。

「も、申し訳ございませんでした!」

「……フェイス? もう大丈夫なのか? 休暇を取っていると聞いていたが」

 声ですぐに誰かわかったが、フェイスは本の陰から相手に顔を見せる。サバスだ。魔王の側近であり彼女の上司に当たる人物。

「これはサバス殿。はい、本日より職務に復帰致しました」

 天界での事件の後大魔城に戻ったフェイスはイヴの「鶴の一声」により数日の休暇を与えられたのだった。事件からまだそれほど日数が経っていない事をイヴが慮ってくれたのだ(もちろん事件については魔王には話していない)。とにかく一度心身を休ませよという事になった。それにしても初対面の王に対していきなり指示を出すイヴの態度には驚いた。さすがは古代の王女というべきか。彼女の事情や経緯を聞いた魔王は半信半疑だったが強引に納得させられた。それに愛娘のシロによる書簡が決め手となったのは間違い無かった(彼は娘からの直筆の手紙だと大層喜んでいた)。

「そうだったのか。しかし復帰したばかりだというのに働き過ぎではないか?」

「いえ、大丈夫でございますこの程度。魔王様がどうしてもお調べになりたい事があるとの事で」

「そうか、ならばいいが……ところで、シエル様はお変わり無かったか?」

「え……はい、お元気でございました」

「ならば問題は無いのだが……いや、イヴ様の事もあるし、もしかしたらシエル様のお近くにも他の悪魔がいたりするのではないかと思ってな」

「……ああ……その事につきましては何とも……」

 街で商いをやっている者がいるという話をシロから聞いた事がある。

「もしいたとしてもシエル様に協力的ならばよいのだがな……もう出発した所かな」

「そうでございますね…………? 出発……? 何のお話でございますか?」

「ん? ……おお、お前は聞いていなかったのか。休暇中だったか。一度シエル様の身の周りを改めて調査する事になったのだよ。仮に他の悪魔がいたとして、シエル様の意向に背く様な者なら侵略も捗らないだろうと」

 不意にフェイスは抱えていた本のバランスを崩して二冊ほど床に落としてしまった。

「……と仰りますと……?」

「ふたりほど人を派遣する事にしたのだ」

「……!? ど、どうして(わたくし)に命じて下さらなかったのでございますか!」

「お前は休暇中だっただろう。それにお前の負担を少しでも減らそうという事もある」

「そ、その事についてお嬢様はご存知なのでございますか」

「もちろ………………あ…………」

「…………『あ』とは」

「…………シエル様にお知らせするのを忘れていたかもしれん」

「…………」

 今度は残りの本を全て落とした。


 何も起こらなければいいのだが……そんな訳にはいかないのである。

随分お待たせしてしまってすみません。そろそろ更新を再開します。

今回より完結編です。

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