第88話 愛を断ち斬れ
フェイスとライアがついに再会を果たしました。
「私の事を覚えているかライア・レオニス!」
「…………ああ……!」
「……そうか……! ならば説明は不要だ!!」
フェイスは刀を握る手に力を更に込める。だがその刀身はライアの元には簡単には届かなかった。彼も負けじと受け止めている。その腕はフェイスと同じほど、いや、もしかしたら彼女よりも細いかもしれないがその見た目に反してなかなか力があった。次第に押していた刀を返されやがて弾かれた。その隙に彼は斬りかかってくる。だが切っ先が触れる寸前で彼女はそれをかわした。
次にライアは身を翻しこの場からの離脱を始めた。彼女はすぐに後を追う。
「待てえええっ!」
ライアは何も答えないまま飛んでいく。今彼が優先すべき事は一刻も早くここから逃げる事だ。足止めをくらっては捕まってしまうからだ。だがまるで自分の事など眼中に無いかのごとく感じてしまいフェイスは怒りを募らせていく。
「……っ! ふざけるなっ……!」
こんな所まで来てようやく相まみえたのだ。これがおそらく最初で最後のチャンス。何としてでも討ち取る……彼女は力強く翼を動かし、風を上手く捉えて加速し彼に迫っていく。
「……くっ!」
ライアは突き放そうとするがふたりの差は徐々に縮まっていた。これ以上逃げ切る事は不可能だと思ったのか、途中で彼は減速して再びこちらを振り返った。フェイスとまた目が合う。彼女はこの間に魔術を使おうかと一瞬考えたがそんな思いはすぐに風と共に流れていく。不意打ちなどせずにこのまままっすぐ斬りかかる。これまでの自分の憎しみを全て刀に乗せて。
「はあああああ!」
ふわりと上昇してライアはそれを避けた。フェイスはすぐにブレーキをかけて彼に向き直る。その時にはすでに彼は目の前まで来ていた。振り下ろされた刀を素早く刀で防ぐ。
「……意外に力があるな」
「伊達にこの8年間修練を積んだ訳ではないっ!」
「そうか……それは僕も同じだ」
「全ては……この時のために! ウォレップ!」」
やはり力の差はあった。フェイスは自分自身に筋力強化の魔術をかけ刀身を押し返した。
「……っ! ソフィ……!」
「気安くそう呼ぶなあっ!」
刀を振り、身をかわし、距離を置き、また刀を振る。ふたりの剣戟は続いた。
「なぜっ……! なぜお前があの夜、あの場にいたんだっ!」
「……言っただろう……僕が彼らに手を貸したんだと……!」
「どうして……! どうしてそんな事を……!! わたしは! ……わたしはお前を信じていたのに!」
「……それを君に説明する義理は無い!」
「……っ!」
彼の言葉に更に頭に血が上った。だがそのせいで動きが荒くなってしまい気付いた時には右肩から血が噴き出していた。
「ぐうううっ!」
「今更僕の目の前に現れるな!」
「くっ……そ……!」
間髪を入れずにもう一太刀が来る。
「うああああああああああっ!」
ところが彼女はその刃を避けるのではなく、逆に自ら突っ込んでいった。予想外の行動にライアは一瞬たじろぐ。彼の刀は彼女の体に袈裟をかける様に大きな傷を付けていく一方で、彼女の刀もまた彼の左胸を目がけて伸びていく。肉を切らせて骨を断つ―――その一突きはただ我武者羅に繰り出した物だった。





