第LⅩⅩⅩⅣ話 救出
天使と悪魔の真実が判明しました。
神殿の中央棟一階、東側にある小さな備品庫にてベルはあぐらをかいていた。両手には特殊な拘束具が付けられており、このせいで得意の放電を封じられていた。本来の神としての彼女ならば公服を着ている状態であぐらなど以ての外なのだが、テロリストに対して礼を意識する必要など全く無いためこの様な態度を取っているのである。
無言で睨み付ける先には機関銃を携えた見張りの男がひとり。しかし睡魔に襲われているのか、腕を組んだまま首を上下に動かしている。何とか逃げ出せないものかと思案するが、やはり力を封じられ、相手が武器を持っている以上難しい。それに扉の外にも見張りがいるはずだ。この倉庫には窓が無い。出入口はひとつの扉のみ。
「……」
何も出来ない自分が歯痒い。おそらく今頃はとっくにイージスが彼女を救出するために動き出しているだろう。彼らを信じて今は待つしかないのか。
その時ふと扉が開き、うとうととしていた見張りの男ははっとして顔を上げた。
「何だ? もう交代の時間か? ……! な、何だお前……!」
彼が言い終えるか言い終えないかの内にばちばちと火花が散ったのが見えた。男はその場に倒れ込む。
「姉貴!」
「……クロ!? お、お前、どうしてここに……!?」
「助けに来たんだよ」
「助けに……って……どうやって……まさか転送装置で……? ……アホか! どうしてそんな危険な事を……!」
「今まさに助けられてる姉貴が言える事か?」
「ぐっ……! わかった、今は感謝する」
両手を縛られた状態で彼女はゆっくりと立ち上がる。
「……大人しく捕まってんのはそいつのせいか?」
「ああ、そうだ……非常時に私達の力を封じるための科技研特製手錠……お前にやったネックレスと似た様な仕組みだ。ただこっちはロックを解除しないと外せない」
「……ライデンバッハのじいちゃんが言ってた内通者って奴の仕業か」
「やはりそうか、関係者が……イージスの動きは把握しているのか?」
「まさに今神殿のどっかにいると思うよ」
「……なら彼らと合流を……だがその言い方じゃ連絡は取れないのか」
「まあ、勝手に来たし」
「……はあ」
ベルは無茶な事をしでかした弟の顔を見て溜め息を漏らす。
「イージスの予定だと姉貴を助けた後は結界の制御室に行ってバリアーを解く手筈になってる。だからとっととそこへ向かおうぜ。それにイージス隊員なら騒ぎを聞き付けてあれこれ機転を利かせてくれるかもだし。制御室で合流出来るかも」
「騒ぎを聞き付けてって……騒いだのかお前……」
「さすがに中央棟に入ったら多少は強引にやらないと無理だったよ。ここに目星を付けて、近くのスプリンクラーを作動させて駆け付けた奴らにびりびりと。だから呑気に話してる場合じゃねえ」
「ならとっとと行くぞ。案内する」
「ああ」
クロは瞬時に神薙を転送させた。
「もう細かい事は気にせずに強行突破だな」
「窓を開けてくれ。飛ぶぞ……そういえば、よく私が中央棟にいる事がわかったな」
「え? えーと……それはか、勘だよ!」
「………………はあ……」
もう一度溜め息をつき彼女は翼を広げた。
〈こ、こちら中央棟マーク! 何者かが棟内に侵入した模様です!〉
「!」
パスコードの解析を続けていたライアとギンの元に通信が入った。
「神を捕らえている備品庫の周囲の様子は?」
〈それはまだ……あ……ちょっと待って下さい……!〉
「?」
〈今通信が入って……ど……どうやら神が……逃げ出した様です!〉
「!!」
〈……ライアさん、どうしましょう……!?〉
「……神を救出した今次に取る行動は……結界の解除……こちらはもう少しで解析が終わりそうだ。A~Cグループはこちらの防衛に。残りは全員制御室へ」
〈了解しました!〉
焦りを募らせながらふとライアは窓の外を見た。すると一瞬、何かが彼の前を翔け去っていった。今のは人だ。ふたりいた。女神ベル・ヴォルトシュタイン。そしてもうひとりは……。
「……まさか……クロノ・ヴォルトシュタイン……!」
今回からまた現代です。





