第80 LⅩⅩⅩ話 なすべき事
それぞれの目的のためにクロとイヴは天界へと向かうのでした。
景色が一瞬で変化し、ふたりの目の前には機械とケーブルだらけの光景が広がっていた。神宮殿敷地内にある研究施設の転送室……そこに設置されている透明なカプセルの中に彼らは立っていた。次元間移動は無事成功。装置は正常に作動していた様だ。
「ほえー、ここが天界か」
イヴが興味深そうに室内を見渡す。縁まで歩いていくと上部がスライドし装置の外へ出られる様になった。
「うわっびっくりした!」
「観光に来たんじゃねーんだろ。それにあんまりでかい声を出すな」
この部屋にテロリストの姿は無いがすぐそこにいてもおかしくはない。クロは慎重に扉を開けて廊下の様子を窺った。
「……誰もいないみたいだな」
「ねえねえクロ」
その肩を後ろからつんつんとイヴがつつく。わかってはいたが緊張感の無い悪魔だ。
「何だよ」
「あれって何?」
「ん?」
彼女は転送室内の天井の一角を指差して言った。カメラのレンズがこちらを向いている。
「……カメラだな……」
「……あたし達ばっちり録画されてるんじゃない?」
「…………されてるな……」
血の気がさーっと引いていく。全く考えていなかった。
「……ん? いや待て……」
焦りながらも彼はカメラの近くまで駆け寄ってよく見てみる。ランプが点灯していない。
「……電源が点いてない? いやネットに繋がってないのか……?」
「どーゆー事?」
コンピューターのひとつを適当にいじってみるがネットワークに接続出来なかった。
「もしかして……電磁結界のせいで不安定になってんのか?」
「つまり?」
「とりあえずランプが点いてないって事は録画されてもデータは保存されない訳だ。セーフ」
「おー、よくわかんないけど大丈夫なのね。それじゃあ早速古書庫とやらに出発だ!」
「だからでかい声出すなって……その前に鍵を取りに行かないといけねえ」
「えー、めんどくさい」
「しょうがねーだろ」
警戒しつつふたりは古書庫のキーが置かれている管理室へと向かう事にした。
「それにしても無茶な事言い出すのは相変わらずな訳ねあいつ」
クロとイヴが去った後のロイヤルハイム浅川101号室のリビング。フィリアンヌはもてなしにと出された煎餅をぽりぽりと咀嚼しながらテレビを見ていた。
「……自分でお菓子出しといて何だけど、呑気に食べられるの凄いね……」
「私達には何も出来ないし? イージスも潜入するみたいだし、心配ばっかりしててもしょうがないじゃん。こんなんじゃなきゃあいつとなんかやってらんないわよシロちゃん」
「……まあ、確かに……」
そういえば、つい三ヶ月ほど前にも自分を助けに並行世界に来てくれたっけ……とシロはガレインとの一件の時の事を思い出していた。
フェイスの顔をちらりと見る。彼女は今回のテロの首謀者と推測される人物と因縁があるらしいがそちらも気になっていた。シロは彼女の主でありながら未だにそこまでは詳しく聞いていない。うーん、でもそういう事はやっぱり無理に聞くのはよくないし……でも気になる。
「……もじ……もじ……」
「……お嬢様、私とあの男についての事が気になられているのでございますね」
「えっ! どうしてわかったの!?」
「ご自覚があられない所がまた可愛らしい……」
「それ私も気になってました。8年前の事って何なんですか?」
フィリアンヌが話題に食い付いてきた。シロはフェイスの了承を取り、その身の上を彼女に話す。聞き終えた彼女はかつてのクロと同様の反応を示していた。
「……そ、そんな事が……」
「……はい」
フェイスはゆっくりと頷き話をシロから引き継いだ。
「あの男はその時その場にいたのでございます……ライア・レオニス……私の友人でございました」
「!! ……と、友達だったの……!?」
確かに年齢はフェイスと同じぐらいに見えた。しかしその様な悲惨な場に友人が居合わせていたとは彼女にとってみれば信じがたかった事だろう。
「先ほどは取り乱してしまって申し訳ございませんでした……フィリアンヌ殿、と仰いましたか」
「は、はい……?」
「ご無理を承知で改めて貴殿にお願い申し上げたいのでございますが……私を天界に連れていっては頂けないでしょうか」
「!? はい!?」
「フェイス、あなた……!」
「イヴ様にはイヴ様のなすべき事がございます様に、私にも私のなすべき事というのがある気がするのでございます……あの男と直接会う事が叶わないのであれば、せめて事の行く末を見届けたく思うのでございます。フィリアンヌ殿……いかがでございましょうか」
「そ、それは……えっと……」
フィリアンヌは回答に困っている。
「ならば私がそちらの特務機関とやらにあの男の情報を提供致します……と申しましても8年前の物でございますが……現時点であの男についての情報が不足しているのであれば少しはお役に立てるのではないでしょうか」
「そ、それはそうかもですけど……」
「……フィリィちゃん、私からもお願いします」
家臣の固い意志を汲み取ったシロは共に頭を下げた。それを見たフィリアンヌもフェイスも慌てた素振りを見せる。
「シ、シロちゃんまで……」
「お嬢様!? わ、私ごときのためにその様な事はおやめ下さい……!」
「いいえ、あなたのためだからよ。フェイス、あのライアって人はあなたにとって大切な人だったのでしょう?」
「……はい」
「……あー、はいはいわかったわかったわかりました……」
それを聞いてフィリアンヌは首を縦に振った。
「わかったわ。連れてく」
「! ほ、本当でございますか!」
「そんな事言われちゃ連れてかない訳にはいかないじゃないですか……ただし、くれぐれも慎重にお願いしますよ」
「……はい……! ありがとうございます」
フェイスは深く頭を下げた。
再び天界。時刻は午後二時。イージス本部地下にて選ばれた隊員達が女神ベル・ヴォルトシュタイン救出の任のため神宮へと繋がるドアの前に立っていた。その中にはもちろんライオネスの姿もある。
「定刻になった。これより作戦を開始する」
「了解」
号令の後に施錠が解かれ、彼らは長く薄暗い通路へと足を踏み入れた。
話が全然進んでなくて申し訳無いです……。





