表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翠玉の魔術師《ヒストリア》  作者: アオルヤ
第1章 少年期編
8/8

第七話 「ラニアの街」

 


 思い立って、出立の準備が終わるまではそう長い時間はかからなかった。

 ただ、向こうにいる、母さん達と知り合いの神術師と連絡をとるまでに約1ヶ月かかってしまった。

 その間、俺は村民に別れの挨拶をして回っていた。



「レオ坊…おめぇもか…」

 俺が村を出ることをロイスさんとバオさんに告げると、

 2人はシルヴァの失踪についても話してくれた。


「前々から予感はしてたんだ…あいつが村を出る気なんじゃねえかってのはな。おそらく両親を探すつもりだ。見つけ出してどうするつもりなのかは俺にはわからん復讐なのか、捨てられた理由を知りたいだけなのか」

 シルヴァは両親に捨てられ、孤児となってるところをこの村で拾われた。

 そのことについては、いつになっても俺に話すことはなかった。

 だから俺はシルヴァがどんな気持ちで出て行ったのかはわからない。


「だが俺はおどろいてねえ、レオンが村を出ることも驚かねえ。ただ、無茶はするな!いいか、絶対にたぞ」

「それから、たまには村に帰ってくるんじゃぞ?ワシは長生きじゃからいつ帰ってきても問題ないが、爺さんは死んどるかもしれんからのう」

「誰が死ぬか!婆さんより早く死なんわい」

 2人の笑顔はいつもより何処か寂しそうだった。




 ---




 村を出る日が来た。

 母さんたちも上手く連絡が取れたようで、まずはその神術師の元へ訪ねることとなった。


「レオン、お前はきようだからな、きっとうまくやっちまうだろう。だけどな、辛くなったらいつでも父さんたちのところへ帰って来ていいんだからな!」

「わかってるよ大丈夫」

「それが怖いんだよ。頭がいいから俺らに迷惑かけまいとするだろ。いつでも頼れ、俺らは親だ」

「わかった、何かあったら手紙を出すよ」

 父さんがうろたえるのは何時ものことだが、それをしばらく見れないと思うとなんだか寂しいかもしれない。


「《風帝剣》が聞いて呆れるわね、心配しなくてもレオンならしっかりやるわよ。ね?レオン」

 代わって母さんはさほど心配もないようだ。

「ああ、大丈夫。頑張ってくるよ」

「頑張りなさい!」

 母さんが俺を抱きしめる。

 なんだか今日は気恥ずかしく思えた。


「おーい、馬の用意が出来たぞー!」

 馬を馬車にくくりつけた村人がこちらへ来る。

 ラニアの街まで出稼ぎに行く村人の馬車に乗せてもらう手はずになっていた。

 ラニア王国までは歩いて2週間、馬で1週間ほどだ。

 そんなに長旅ではないが、俺にとっては初めての遠出なので、少し緊張する。


「よし!」

 俺は気合を入れて、馬車に乗り込む。

「じゃあ、達者でな」

「行ってらっしゃいレオン!」

 2人が手を振る。

「行ってきます!」



 俺は村を後にした。




 ---




 旅は順調で6日ほどでラニア王国に着いた。

 初めての野宿は寒くて、大変だったが何事も経験だと思う。

 天候もうまく晴れの日が続いた。

 本当に万事うまくいった。



 ラニア王国首都、ラニアの街。

 ミール村から北東に位置するこの街は

 ゼアリム大陸の北端に位置するにもかかわらず、とても多くの人が訪れる。

 その大きな理由として、ここで取引されるものにはほとんど税がかからず

 商人は大きな利益を得ることができる、というのが挙げられる。

 そのおかげで、国は商業国として日々発展している。



 ラニアの街は大きな壁に囲われていて、大きな門が来る人を待ち構えていた。

 もんの両脇には守衛が2人ずつ立っており、街に入ろうとする旅人に声をかけていた。


「あれは何をやっているんですか?」

 僕をここまで送ってくれた村人のカールさんに尋ねる。

「ああ、あれはな積荷や荷物を確認して、不法な品を持ち込むのを禁止してるんだ。」

「不法な品?」

「ああ、この街は関税って言う、売り買いをする時にかかる税が極端に少ない。だからそこに漬け込んで、危ないもん取引するブラックマーケットが出来やすい。それを防ぐ目的だな。」

 仕組みはわかりずらいが、この街は関税が少ないらしい。

 だから犯罪的な取引が行われやすいのだとか。



 無事に検閲を終えて門内にはいると、そこには多くの人がいた。

「すげえ人だろ?村の100倍は人がいるぞ?」

 カールさんは自慢げに話す。


 区画的に分けられて整理された町並み。

 その一軒一軒が白い壁に、青い屋根という初めて見る組み合わせだった。

 そして道を覆う、露天の数々。

 さらに遠くに目をやれば、ラニア城が太陽の光を受けて青い屋根を輝かせていた。


「うわ…すごい。」

 ゴクリと唾を飲み込む。

 人が多いとは聞いていた。街が大きいのも知っていた。

 だが、実際に目の当たりにすると大きな衝撃をうけるものだった。

 これからここで俺は暮らして行くのか…と、思うと期待で胸が高鳴った。



 しばらく街を行くと、商会の建屋についた。

 どうやらカールさんは積荷をここで降ろすようだ。

 せっかくなので俺もここで降ろしてもらうことにする。


「本当にいいのか?なんならその神術師が見つかるまで手伝うぜ?」

 ありがたいが、俺は彼の申し出を断った。

 自分で覚悟を決めたのだ。一人でやれることは一人でやろう。

「そうか、わかった。頑張れよ!」



 カールさんと別れた俺は、まずは神術師を探すべく行動に出る。

 と、言ってもこれだけ人の多い街だ。

 声をあげて探しても見つかるわけがない。

 先に宿屋を探した方が良いだろうか。

 お腹も空いたのでとりあえず昼飯も兼ねて、酒場のような建物に入った。


「いらっしゃーい!」

 扉を開けると、耳と、尻尾のある元気な女の子に出迎えられた。

 癖のある亜麻色の髪を、肩まで伸ばしており、

 活発そうな印象を与えるの獣人族アニマの女の子。

 年齢は俺よりも少し上くらいだろうか。

「お客さん、本日は、宿ですか?お食事ですか?」

 どうやらこのお店は宿屋と食事処を兼ねているらしい。

「宿もやってるの?」

「うん!看板見なかった?『お食事と宿の夜想亭』だよ!」

「じゃあ、しばらくの間ここに滞在したいんだけど、料金とか詳しく説明してくれる?」

「おとーさーん!宿のほうのお客さんだよー!」

 どうやらこの子のお父さんが店主のようだ。


「あいよ!泊りのお客さんはどちらでい?」

 奥からガタイのいい、以下にも猟犬、と言った印象を持たせる獣人族アニマの男性が現れた。

 年齢は30代と言ったところか。


「君がお客さんかい?こらまた随分お若えこって。で、どんくらい滞在する気だい?」

「今日ラニアに着いたばかりでして、具体的な予定はまだありませんが、1ヶ月以上はお世話になるかと思います」

 お金は…まあ、仕事を見つければなんとかなるだろう。

 村を出る時にそれなりに持たせてくれたので当分は心配ないが。

「1ヶ月ねえ…ふむ、坊主名前は?」

「レオンです。レオン=クロスナー」

「そうかい、わかったレオン、とりあえず部屋は貸そう。ところで昼飯は食ったか?」

「いえ、まだです」

「そうか、部屋は2階だ。荷物を置いたらここに来い。詳しい話をしよう」

 そう言って店主は店の奥に行くと、鍵を持って戻ってきた。

 俺はその鍵を受け取って、2階の部屋に向かう。


 指定された部屋に入る。

 大きさは畳6畳ほどで、南に窓、

 家具はベッドと机、そしてタンスとテーブルが置いてあった。


 ひとまずここに荷物を置き、下へ戻る。

「おー来たか、まずは自己紹介だな。俺がこの夜想亭の店主のギル=テールベルトだ。で、こいつが娘のウルだ」

「ウルです!よろしくね」

「まー、仲良くしてやってくれ。でだ、料金の話だが、朝晩飯付きで1日700ゴールドでどうだ?」

 民衆が1日生活するのに平均500ゴールド程度なので、破格の値段と言えるだろう。

「そんなに安くていいのですか?」

「おう!俺もこの額でしっかり儲けが出るんだ、それでいいだろ?」

「はい!喜んで。よろしくお願いします!」

 ギルさんはかなりいい人なようだ。

 いい宿屋を見つけられてひとまず安心だ。


「よし、じゃあ昼飯つくっからちょっと待ってな」

「はい、お願いします」




 ---




「ごちそうさまでした!いやー美味しかったです」

「おう、そうだろそうだろ?こう見えても料理人だからなあ!」

 とても美味しかった。思わずたべすぎてしまった。

 午後はどうしようか…。

 うーん、街を見て回るかな…。


「テールベルトさん」

「ギルでかまねえ」

「はい、ギルさん、午後は街を見て回ろうと思います」

「おう、行ってこい行ってこい。あ、人さらいには気をつけろよ。お前さんくらいの子供は狙われやすい」

 人さらいか…

 話には聞いていたが、酷いことをする人もいるんだなあ


「その点なら大丈夫ですよ。俺、強いですから」

「そうか、でも気をつけるにこしたこたねーぞ」

「そうですね、ありがとうございます。夜には帰りますね」

「おう、あんまり遅くなる前に帰ってこいよ!」



 店を出て、露店を歩く。

 様々なものが所狭しと売られていた。

 青果物に、肉類、香草、武器、防具、…

 すごいな…

 ここなら世界中のいろんなものが手に入りそうだ。

 目的もなく、街を歩いていて思い出した。


 そういえば神術師の居場所を聞くために夜想亭にいったのだった。

 すっかり忘れていた。


 まあ、それは帰って聞くとして、もうしばらく街を見て回ろう…と、思った時だった。



「きゃー!」

 俺の歩く道のすぐ先の路地から女の子の声。

「おい、しすがかにしろ!」

「やめて!はなして!」


 路地に駆けつけると、3人の男が女の子を連れ去ろうとしていた。

 これが人さらいか…。

 様子を見ていると1人の男がこちらに気づいたらしい。


「んーだてめえ?ガキはむこういってな!」

「おじさんたちなにやってるの?」

「あ?お仕事だよお仕事。お利口だからむこういってなって、ね」

 男たちは俺をあしらおうとしている。

 どうしようか…。

 人を呼んできたほうがいいのだろうか。


「たす…けて…」

 口を縛られてる女の子が俺に向かって叫ぶ。

「おい、だまれガキ!」

「坊主!お前もさっさと消えねえと痛い目にあうぞ!」


 上手くやれるか自身はなかったが、

 女の子を放ってはおけなかった。


 狭い路地だ、剣は使えない。

 なら魔術だ。

 男たちはを無力化させることを優先して…


「おい、おっさん!その子はなせよ」

「ああ?クソガキがな〜にいっちゃってんだ?おい、ぶっ飛ばしとけ」

「あいよ」

 男たちのうちの1人が俺の方へ寄ってくる。


 よし、1人目だ。

「『アースランス』!」

 俺は男の子右側の壁からアースランスを繰り出す。

 男は頭を隣の壁に強く押し付けられて倒れる。


「魔術師だ!ガキが…やりやがったな!?」

 正確にはってない、やってない。

「…殺すぞ」

「ああ」


 2人でかかってくるようだ。

 狭い路地でどうやって2人でかかってくるのかわからないが、適当に倒せるだろう。

 そう、たかをくくっていた。

 しかし、後方にいた男が突然消えた。


「!?」


 転移魔術か!


 俺の背後に現れた男は短剣を振り抜く。

 ヤバイ!

 俺は背負っているショートソードを抜いて応戦する。

「へっ!剣も使えるのか!やるじゃねーかクソガキ」

 さらに前方にいた男も短剣を取り出して襲ってくる。

 これはまずい。


 俺は…人を…斬るしかないのか…?


 そう思った時、


 一閃。


 鋭い光が走り抜けた。


 そして、男2人は倒れた。




「大の大人2人で子供を襲うなんての…恥を知りなんまし。」

 声の主を見ると、耳長族エルフの女性が立っていた。





ヒロインの出番なんてものは1ミリもなかった。



評価感想よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ