第一話 6
6
手入れのされていない荒れた庭である。
もとは文字どおりの荒れ地だったが、風に乗って迷いこんできたススキや狗尾草が芽吹き、いまでは庭全体に生い茂っている。
そのなかに名も知れぬ黄色いちいさな花が覗き、粗暴ではあるが、むしろ若々しい命に満ちていて、決まった法がないだけにいくら眺めても飽きることがない。
そのような庭を望む座敷に、ひとりの女が座っている。
無地の和服を着こなし、すっと背を伸ばしている。
静かな威厳を湛えた姿だが、顔を見れば存外に若い。
まだ十前後、子どもらしい丸い顔つきの少女である。
目は薄く閉じられ、見るともなしに庭に顔を向けていた。
眠っているようでもあり、深く思い悩んでいるようでもある。
と、座敷の襖がすっと開き、年老いた男が顔を出した。
男は自分の孫ほどの少女の背に向かって深々と頭を下げ、座敷に入ってくる。
「ご報告します。連絡を絶っていた榎田と山神の組ですが、先ほど両名の死亡を確認いたしました」
少女は目を開け、はっきりと庭を見た。
報告されたふたりの死が、その少女にいくらか衝撃を与えたらしい。
「学園か、例の部隊にやられたのか」
鈴が転がるような、いかにも少女らしい声と、それに似合わぬ落ち着いた言葉だった。
「どちらでもないようです」
「どちらでもない、とは?」
「キーストーンが目覚めたのでしょう」
「ほう」
驚きとよろこびの笑みが少女の顔に広がる。
「目覚めさせたのはだれだ」
「その場に居合わせた学生ということですが、詳細はまだ」
「学園の生徒か、別の学生か?」
「それも調査の最中でございます」
「ふむ。まあ、どちらでもよい。そうか、あの石が目覚めたか」
「どうなさいますか」
「どうもこうもない。向こうが動き出したのであれば、こちらもそうするまで。キーストーンの宿り主については今後も調査を続けよ。詳細が判明し次第、こちらから動く。もう逃げまわるばかりではない」
少女はにやりとして、言い放った。
「全面戦争だ」
そして歴史は大きなうねりへ突入していく。