4.アイディール
三人は町外れの神社の方へ向かっていた。
海斗が怪訝そうな顔で二人に話しかけた。
「なあ、こっちってボロボロの神社があるとこだぞ」
平治が言った。
「うん、良いんだよ。なんたってそこに行くんだからね」
「あそこって心霊スポットなんだぞ。オレそういうの苦手なんだって」
アリスが呆れたように言った。
「馬鹿だなあ。だから、誰も近づかないそこを魔界の入口にしたんだろ」
「ああ、なーるほど」
「まあ、たまに誤って魔物が迷い込む事はあるけどな」
「げっ!!」
「冗談。ちゃんと警備員くらいいるよ」
「お前! 驚かすな!」
「ふふ、カイは脅かしがいがあるな」
「なんだ? カイってオレの事か?」
「ああ、いいじゃない。めんどくさいし」
海斗は平治に耳打ちした。
「ヒラ、あいつって相当傲慢だな」
「聞こえてるよ!」
瞬く間にアリスの鉄拳が海斗の腹にめり込み、海斗は後方へ飛ばされた。
「ぬあー!」
「あ、ごめんごめん。やり過ぎちゃった」
「ゴホッ…お前今の本気だっただろうが!」
平治が海斗に耳打ちした。
「そういう奴なんだよ。アリスは」
「あんたもなんか言った?」
「いえ、別に…」
三人は廃墟と化した神社に着いた。そして裏の方にまわった。
「それで、どうするんだ。」
平治が三枚のカードらしき物をポケットから取り出した。
「この入界書を持って入るんだ」
「入るってどこに?壁か?
あー分かった。持てばこう壁の中にスーッと入れるんだろ!」
海斗はテンションが上がっていた。
「まあ、これを持ってみて」
「よし!」
平治は青色のカードをを海斗に渡し、二枚の赤色のカードの内ひとつをアリスに渡した。
青色のカを持つと海斗の目の前の壁に直径2メートルはある黒い穴が現れた。穴はブラックホールをイメージさせる様であり、巨大な台風クラスの威力で空気を吸い込んでいる。
「……あの、まさか……」
アリスが海斗を強引に押した。
「入るに決まってるだろ! 早く!」
「ぬおー! やめろ、マジであぶねーって! うわー………」
抵抗も虚しく海斗は穴に吸い込まれて行った。二人も後に続いて行った。
辺りは何事もなかった様に、廃墟がひっそりとたたずんだままであった。カラス達が鳴きながら空を行き交っていた。
海斗はホウキとカードをしっかりつかみ、穴の中をなすがまま進んでいた。
すると、遠くに光が見え始めた。
(光? 出口か?)
海斗は光の方へ吸い込まれて行き、まばゆい光に目が眩むと、穴の外へ放り出され、地面に倒れた。
「うえっ!」
後からアリス、平治の順に飛び出して来て、海斗の上にのしかかった。
「おぇっ! ぐぇっ!」
「あら、クッションになってたの?」
アリスは可愛らしい声で非情な言葉を浴びせた。
「好きでなったわけじゃねーよ! 早く降りろ!」
海斗がようやく起き上がると、受け付けらしい小さな窓から老人男性に話しかけられた。
「大丈夫かい? また次の人が来るんだから、早くよけなさい」
アリスが肘で海斗の腕を押して小声で言う。
「あんたが、出口でもたもたしてるから注意されたじゃん!」
「しょうがねえだろーが。だったら最初に言えよ!」
「そんくらい常識」
「まあまあ、二人共早く行こう! ねっ!」
吸い込む穴、吐き出す穴がそこにはあり、海斗が入った時の物より巨大だった。
賑やかにそこからは、いろんな人種の人や妖精のようなものが出入りしている。各地に繋がっているようである。
アリスは赤色のカードを窓口の老人に切ってもらうと、自動でドアが開き不機嫌そうに外へ出て行った。
「なあヒラ、何で魔力のないオレは魔界に入れたんだ?」
「ああ、それはカイの青いカードは違うからね。それは魔力のない人用の魔力付きのやつさ。
後はアリスみたいにカードを見せるだけ」
「ふーん」
海斗もカードを見せると、老人が言った。
「君は初めてか。ようこそ魔界アイディールへ。健闘を祈っとるぞ。
ハッハッハ」
(何の健闘だ?)
「ど、どうも」
海斗が外へ出ると、目の前には林があり道が続いてるようだ。
振り返ると洞窟がある。上には山々が連なり、頂上は雪を被っている。
見渡す限り人工物はあまり見当たらず、先程海斗が出て来た施設もふもとの洞窟の中にあった様だ。
(ここが魔界アイディール……)
平治も出て来て海斗に言った。
「自然がいっぱいでしょ。
魔法には自然が必要不可欠なんだ。
この世界の創造者マーリン達も最初に自然を造ったって言われる程だしね」
「確かに自然がいっぱいだ。
てことは魔界って田舎ってことか?」
「田舎じゃないよ! 馬鹿にしてるな」
「なーにやってんの! 早くしろ!」
アリスが後ろを振り返り二人をせかした。
「はいはい。カイ、行こう。街はもっと賑やかだって」
「だといいけど、腹減ったしな。
おーい待てよ、アリス!」
二人はずっと前のアリスまで駆け足で向かった。
段々と空模様が怪しくなり、小雨が降り出してきた。小鳥達の声は聞こえなくなり、木々の風に吹かれる音だけが聞こえている。
「うわー。本降りになってきたな。学校って遠いのか?」
「あぁ結構遠いな。まあ、ホウキに乗ればすぐ着くけどな」
そういうと、アリスと平治はホウキに跨がった。
「カイ、僕のうしろに乗って」
「あぁ…わかった」
辺りの草がざわざわと揺れ、ふわっとホウキが浮かび上がった。
「うわぁ! 高い!」
「雨だし、急ごう! アリス!」
「ああ!」
「あ、ちょっと、待っ…」
海斗達は町へ目にも留まらぬ速さで飛んで行った。
「おーい! 町はまだかー! 草ばっかじゃん」
海斗達はひたすら草原の上空を進でいた。
「うるさいなぁ! もうすぐ着くんだよ!」
アリスは目を細めた。
「あっ、あれだ。あれが王国の城下町だ」
「町ってこの先海じゃんか。しかも崖だぞ!? どこに………」
「えっ! 崖が町になってる!?」
海の険しいがけに溶け込んだような、しかし人が手を入れたような、大きな町が海の近くにたたずんでいる。
三人は雨でも活気づく町の上空を学校へ向かって飛んで行った。
「おー、雨でもすごいなこの町は!」
「あぁ、商業が盛んなんだ。船がいっぱい行き来してるでしょ」
海斗がホウキの上で船を眺めていると、すぐに学校へ着いた。
「着いたよ。ここが学校だよ。早く入学手続きしよう」
「あ、あぁわかった」
平治が入口で職員に、校長と時間を取れるか聞くと、ちょうど今空いているらしく、三人は早速校長室へ向かった。
「へー、この学校、崖を削って出来てるのかぁ。意外とピカピカしてるな」
「ここだけじゃなく、ほとんどの建造物は崖を削って作ってあるのさ」
古風な作りの建物で壁や廊下は白一色で光沢を放っている。
「さぁ、ここだ。入るぞ、海斗」
とアリス少し不安げに言った。それが、海斗にはよく分からなかったが、他とは違って立派なドアをノックした。
「どうぞ」と言う透った女性の声に少し驚いたが、海斗はゆっくりドアを開けた。
「こんにちは。話しは聞いていますよ。あの沖田さんの息子さんなんですってね。初めまして、校長の神野です」
海斗は校長としては若いなと思いながらも、メガネをかけ、終始笑顔が絶えない様子を見て胸を撫で下ろした。
「あぁ、どうも。父のこと知ってるんですか?」
「え? そりゃあ、知ってるわよ。面白いこと言うのね」
なぜか、校長はクスッと笑った。海斗はなんだかさっぱり分からなかった。
「それでは入学の件なんですが…」
「あっ、入学、いますぐ出来ますよね!?」
海斗が聞くと校長の顔が曇った。
「そのことでちょっとね…」
「えっ?………」