2.守りたい人達
翌朝、海斗は両親を一階の居間に呼んだ。
(いったい魔法の存在を今まで隠していた理由は何なんだろう)
海斗の父が車椅子を母に押されながらやって来た。
父は海斗の生まれる前から足が不自由で、母が付きっきりでないと生活出来ないと、海斗は幼い頃から聞かされていた。
白髪混じりの髪で、威厳が感じられる髭を生やした海斗の父、沖田新一郎は渋い声で言った。
「何だ、友達も一緒か? 朝っぱらにそんな真面目な顔してどうしたんだ?」
海斗の母、沖田恵は目をぱちくりさせ、肩まである髪を耳に掻き上げると、甲高い声で言った。
「まさか、お友達に何かひどいことでもしたの? うちの海斗がごめんなさいね」
「ちげーよ! まだ何も言ってねーのに謝るな! いいから母さんはそこに座れよ。父さんは車椅子のままでいいけど」
海斗の両親は顔を見合わせ首をかしげた。母がテーブルを挟んだ海斗の正面に正座した。
「あの、聞きたいことがあるんだけど……
父さんと母さんって魔法使いだったんでしょう?」
「……え、いや。別に。何それ、意味わかんねーし……」
「てか、絶対嘘ついてるでしょ! どんだけ動揺してんの!?」
「そうか、君達か。その服装は魔法学校の生徒だ」
「…や、やっぱり魔法使いだったんだな」
海斗の父は窓の外の遠くを眺めて、過去の記憶をたどり、海斗に語り始めた。
「ああ、そうだ。もうこうなれば隠していても仕方ないな。全て話そう……
これはおまえが生まれる前の話だ。
昔、父さんは魔界アイディールの中のシンという国を護衛するナイトの一人だった。
これでも一流の階級のナイトでな、そしてシンの政治家ともかなり深い関わりがあった。
母さんは秘薬師で、父さん達は婚約をしていた。
しかしまもなく、父さんは他国で内乱があり鎮圧の為に数カ月だけ出向く事になってしまった。
それを聞いた暗黒の魔女ヤディアは使者を出し、母さんを連れ去らったんだ。」
「えっ!? でも何で?」
「母さんは人質に捕られたんだ。
それに父さん達は政治家達とは違い、常時警備員がまわる家は好まなかった。
それで父さんが国から出払っているすきに、たやすくさらわれてしまったんだ。
帰国し、家に帰ると手紙が置いてあり読んでみると、母さんを返して欲しければ一人で、魔女ヤディアが支配する国ヒュドラコスの宮殿に来るよう書いてあった。
単身でヒュドラコスに乗り込むと、ヤディアはいつもあちらから争いを仕掛けてくるくせに、和平条約を求めて来た。
そんな事で済むならと、契約書にサインをするとあっさり母さんを返した。
そして、帰ろうとすると飾られてあった不気味な石像が動き出し襲い掛かってきた。
それはガーゴイルという魔物で、父さんを罠にはめようとしていたんだ。
不意を突かれて父さんの両足は切り裂かれてしまった。しかし、何とか応戦し倒した。
そして、母さんが父さんを連れ出して逃げた。
ヤディアは、『しかしそれではお前はもう戦えまい』と高笑いしていた。
その通りで父さんは大勢の人々を守れない体になってしまった。
それで、魔法とはほぼ無縁の現実の世界に移り住むことにしたのさ。
母さんとお前だけでも守るためにな。
それが魔法や魔界アイディールがあることを隠した理由だ……」