大玉アボカド、広告の品
石南美央は、夕食を準備する途中、アボカドをまな板に置いた。ハンバーグの仕込みが終わりあとは焼くだけ。追加で調理しなくても常備菜がある。副菜として調理してもよいし、しなくてもいい程度のアボカドだ。
石南がこれを買ったのは昨日夜、値段は138円定価。
「スーパーマーケットのアボカドって基本全部固くないです?
「色が変わって皮がこれくらいになったら、食べごろですよって、
「どうせ家で熟成させるなら、普通に今日でも食べられる野菜果物を買いたいです」
石南はアボカドが熟すのを待つのが嫌いだ。
熟すまで常温で置いておくのが不安であり、食べたいときに熟していないし、熟したときに食べたいとは限らない。そんなところが嫌いだ。
ビニール袋から出して、そのままにまな板の上に置いている。皮に張り付いたシールもそのままに、不安定に置かれている。
まな板の上に置くために持った感じはまだ少し固くて、指先に硬い感触が残る。
食べ頃かどうか、いまいち分からない。
石南は包丁をさっと流して、まな板の隣に置いてみる。
「切って焼いてしまえばいいでしょう」だが、種に当たる手応えの気持ち悪さとか、うまく半分に割れるか不安とか、そういうことを想像すると、手が止まる。
ここで一度、彼氏が言っていたことを思い出す。
アボカドは、持ってみれば分かる、と。
「いいよ。もっかい持ってあげる」持ってもわからないけどね、と石南は想像の中の彼に応答した。左手で持ち上げてみたが、やはりわからなかった。
「キミって嘘つきだったから、これくらい、別にいいけどさ」
指に少しだけ力を入れると、皮の下でやわらかく沈む感触があった。気のせいと勘違いするほどではないけれど、もう二度と同じところを押してはいけない気がする程度には、頼りない。
――押しちゃだめだよ。固さだけ感じるんだ。
彼がそう言って、石南の指を上からおさえたときのことを思い出す。石南の手全体を覆い隠すように手のひらで、重ねてきた。あたたかかった。
「固いとダメ?」石南は聞いた。
「ダメっていうか、まだだね」そういって、彼は石南から受け取ったアボカドをもとの売り場に戻した。「もうちょっと待ったほうがおいしく食べられる」
そのときの手つきが丁寧だったことを覚えている。
そのときは、そういうものかと思った。
石南は彼が選び取ったアボカドをまな板の上に置いたまま、見ている。その料理法を検討している。
彼はアボカドを好んだが、調理法は任せきりだった。おいしく食べてくれるところは好きだった。
まな板の上に置いたまま、しばらく見ている。さっき押したところが、わずかに色を変えている。
結局、包丁は使わずにしまった。アボカドも冷蔵庫に戻した。
指先に残ったやわらかさがむずかゆくて、少しだけ力をいれて冷蔵庫を閉めた。
あんまり思い出すなよ、里心が付くから
じゃあ溜めておけばいいの?
友人は面食らったように言葉を止めた。あきれた表情を維持して「そうだよ、ためておくんだよ」といった。




