さとりヘルム
「プリえもん、何か有用な道具はないのかしら」
「それなら『どこでもふすま』! 行きたい場所を願えばどこへでも繋がるんだ。これで他国へ亡命すれば解決だと思うんだけど」
「却下。名誉が回復しないわ。それより、名前を書くだけで相手が死ぬような黒い手帳はないの?」
「ぼくは上級資格を持ってないから、直接生命を奪うような道具は出せないんだ!」
「使えないわね……ポンコツ。いいわ、そのふすまとやらを出しなさい」
「ジャイアンヌめ……いえ、何でもないです」
ドゥルルルッドゥルー!「どこでもふすま!」
腹から出したとは思えぬ質量のふすまが現れる。
「その叫びは必須なの? 耳に障るのだけど」
「マニュアルで決まってるんで……すみません」
クレモンティーヌは熟考した後、ふすまを開けた。たどり着いたのは、宰相の執務室。
「まずは裁判資料の改ざんよ。私がライラの暗殺を依頼したあの裏切り者の資料に、こっそり手を加えるわ。あの男は重度の妄想癖と虚言癖があるという、医師の診断書を差し込んで。それから、私との金銭取引の証拠は……抜き取る。よし、次はあの男が散財したカジノの帳簿を書き換えに行くわよ」
・
『おめでとう、私! 未来が変わったわ! さっき絞首刑が「王家管轄の修道院での生涯幽閉」に減刑されたの。凄い、命がつながったわ!』
「全然よくないわよ!」
またしても届いたビデオ手紙に、クレモンティーヌは毒づく。未来の自分は、随分と期待値が低いらしい。
「やはり、ライラを叩き潰すしかないわね。あの女、きっと他国の工作員か何かよ。人心を探るような道具があれば、正体が暴けるはずだわ」
「ちょうどいいのがあるよ!」
ドゥルルルッドゥルー!「さとりヘルム!」
「これを被れば、相手の心の声が丸聞こえになるんだ。便利でしょう?」
「たまには役に立つのね。褒めてあげるわ。……けれど、淑女が被るにはあまりに不格好ではないかしら?」
文句を言いながらもヘルムを被った瞬間、クレモンティーヌの頭に直接声が流れ込んできた。
(あーあ、こき使われてやってらんないよ。ていうか今時悪魔召喚なんてやる奴まだいたんだ。だるいし、さっさと終わりたいわー)
「は……?」
「え……?」
「この私を侮辱するなんて。あなたが悪魔でなければ、即刻鞭打ちの刑ですわよ。覚えておきなさい」
クレモンティーヌは、ヘルムを整え、どこでもふすまを通り抜けた。
ボードン侯爵家。ライラの自室。
コンコン。
「はい、何かしら、お父様?」
「お邪魔するわ、ライラ・ボードン」
「クレモンティーヌ様!? なぜこちらに……謹慎中では?その被り物は?」
「単刀直入に伺うわ。あなた、侯爵の指示で私を失脚させ、王太子を傀儡にして国を乗っ取るつもりね!?」
「……何を仰っているのですか? 誓ってそのような野心はございません。そもそも、私がクレモンティーヌ様の代わりに王太子妃になるなんて、分不相応です。どうにかして辞退できないか、考えあぐねていたところでしたの」
(急に乗り込んできて陰謀論とか、クレモンティーヌ様ご乱心!? てかそんなわけないじゃん。あんなバカ王子の尻拭いなんて、婚約者という名の奴隷みたいなもんだし。マジ最悪。なんでこんなことになったの!)
「……そうなの? では、なぜ王太子はあんな態度を……」
「王太子殿下のお考えは分かりかねますが、国の利益を優先されたのでしょう。……ところで、この際ですから、失礼を承知で申し上げますわ」
「ええ」
「私は、クレモンティーヌ様に憧れておりました。凛とした佇まい、的確な指示。生徒会に入った時は、あなたと共に働けることが喜びでした。クレモンティーヌ様、王太子のような男のために人生を棒に振るのは、あまりに浅はかです。もうおやめなさいな」
(仲良くなれなかったのは、絶対あの王太子のせいだし! 八方美人でことなかれ主義のクズ男め!)
「あなた、王太子が好きだったのではないの?」
「あり得ませんわ。私の好みは筋肉質な男性です。こんなことになるなら、もっと早く本音を伝えるべきでした。……クレモンティーヌ様こそ、王太子を慕っていたからこそ、私を疎ましく思われたのでしょう?」
「……そう、なのかしら。婚約者として大切には思っていたけれど、あれは「情」だった気がするわ。私が支えなければ、という義務感。……八方美人のことなかれ主義、不思議と納得がいったわ」
「…クレモンティーヌ様。あなたが憎まれ役を引き受けていたこと、分かっておりますよ。大変でしたわね」
(あれ? 王太子の悪口、口に出てたかな?)
「ですが、暗殺依頼はやりすぎです。公爵家の資産を差し押さえる絶好の口実を王家に与えてしまいました。私の証言だけでは、王家の決定は覆らないでしょうね」
(クレモンティーヌ様、ほんと猪突猛進なんだから。猪令嬢ね!)
クレモンティーヌは、ゆっくりとヘルムを脱いだ。
「……あなたともっと早く話をしていれば、きっと友になれたわね。今日は、ありがとう」
彼女はある決意を固めた。




