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未来からはるばると

※本作は某まんがと悪役令嬢を混ぜ合わせた、パロディコメディです。勢いだけで書きました。お目こぼしいただけたら幸いです。

「いやあ、ろくなことがないね。クレモンティーヌは7日後、絞首刑になるよ」

 


 ・



 ランスゴール公国で最大規模の領地を誇る、サラバンド公爵家。かつては王をも輩出した由緒正しきこの一族の屋敷は、今や家財の大半が差し押さえられ、使用人たちも解雇されていた。かつての栄華を失った庭園では、手入れをされぬ薔薇が空しく咲き誇り、朝露に濡れている。


「あの女狐、絶対に許さないわ……」


 公爵家の一人娘、クレモンティーヌは独りごちた。彼女は名門に恥じぬ美貌と知性で知られていたが、その性格は苛烈。公爵家の敵と見なせば、手段を選ばない危うさがあった。


 現国王は、公爵家の影響力と王太子の気弱な性格を鑑み、彼女を王太子の婚約者に据えた。しかし、交流を重ねるうちに、クレモンティーヌは悟ったのだ。この王太子は「ぼんくら」であり、国の命運は自分一人の肩にかかっているのだと。



 二人は同じ学園に通った。王族やその婚約者は生徒会への所属が義務付けられていたが、それは学園運営を通じた、国政のシミュレーションでもあったからだ。だが王太子は自己主張が苦手で、ろくな意見も出さない。結局、クレモンティーヌが率先して動くしかなかった。


「このような陳述書では、予算配分など認められませんわ」

「王太子殿下はお忙しいのです。要件は5分以内で述べなさいな」

「……クレモンティーヌ、君は本当に頼もしいね」




 そんな生活も3年目を迎えたある日、一人の女生徒が生徒会に現れた。優秀さを買われてボードン侯爵家の養子となった、元子爵令嬢のライラである。ライラもまた物怖じしない性格だったが、クレモンティーヌと決定的に違ったのは、心理戦の巧みさだった。彼女は他人の承認欲求を巧みに満たし、望む方向へ物事を動かす才能に長けていた。



 優柔不断の裏返しは、責任感の欠如である。また、王太子は自分に都合の良いことには鼻が利いた。彼は早々に、厳しいクレモンティーヌより、自分を立ててくれるライラと組む方が楽だと気づいた。王太子は次第にクレモンティーヌを疎んじ、ライラを頼るようになった。そしてついには言い放った。


「クレモンティーヌもライラに学び、もう少し周囲に優しく接するべきだ」と。



 その言葉は、クレモンティーヌの矜持を深く傷つけた。人心掌握の不足は自覚していたが、安易に媚びを売るのは公爵家の誇りが許さない。何より、王太子の不甲斐なさを補うために強くあろうとした自分を、当の本人に否定されたことが許せなかった。



 17歳の少女の怒りは、王太子を飛び越し、ライラへと向けられた。クレモンティーヌは公然とライラを否定し、派閥の生徒を使って彼女を孤立させた。


 だが、報いは早かった。卒業間近のある日、呼び出されたサラバンド公爵家一同に言い渡されたのは、婚約破棄と、王太子とライラの新たな婚約の発表だった。




「お前には期待していたが、失望した。なぜもっと上手く立ち回れなかったのか」


 尊敬する両親からは、厳しい叱責を受けた。その夜、泣き腫らしたクレモンティーヌは、ついに「ライラを亡き者にする」という極論に達してしまった。暗殺者を雇うべく大金を投じたが、その男の裏切りにより計画は王家に露見。国家反逆罪に問われた彼女は、ほぼ有罪確定という絶望的な状況で、自宅謹禁を命じられていた。




 そして、現在。



 誰もいないはずの自室で妙な声が響いたかと思うと、ドレッサーの引き出しから二頭身で頭でっかちな、不気味に丸い生き物が飛び出してきた。


 クレモンティーヌは咄嗟にかんざしを抜き、臨戦態勢をとる。


「な、何者ですの!? 無礼者!刺客ね!?」


「あーあー、ちょっと、その物騒なのをしまってもらってもいいですか? ぼくは、プリえもん!君を恐ろしい運命から救いにきたんだ。なんと君は一週間後、絞首刑になる!」


「…正体不明の不審者に言われて信じられるわけないでしょう。それに、絞首刑なんてありえないわ……お父様たちが何とかしてくださるはずよ!」


「ふふん、証拠はあるよ」

 ドゥルルルッドゥルー!「ビデオ手紙!」



 生き物が腹の辺りを探り、取り出した道具から映像が浮かび上がった。



『……クレモンティーヌ。私は未来のあなた。今、処刑の執行を待っているわ。牢獄で絶望していた時、昔読んだおまじないの本にあった悪魔召喚を試してみたの。そうしたら、このプリえもんという悪魔を呼び出せたの!きっと彼が何とかしてくれるはずよ!未来はあなたにかかっているわ! 信じられないでしょうから、私だけの秘密を教えるわ。昔書いて、焼き捨てた小説の登場人物の名は、パンナコッタ・デ・ゴザールと、プリプリプリティ・ドンタ……』ブツッ。


 クレモンティーヌは、とっさに道具を叩き落としていた。



「あー! !これ高かったのに!」


「信じるわ。それで、どうすればよくて?」


「話、早…まあ、とりあえず逃げよう。この後、君は王家の牢獄に連行されるんだ。見つからないように姿を消すのが一番さ!」


「却下。逃げ出せば両親もただでは済まないし、家も潰れるわ。そもそも、こうなったのはあのライラとかいう女のせいよ! あの女こそ絞首刑になるべきだわ!」


「つまり、君は名誉挽回を望んでいると……。うーん、そこまでは契約に含まれていないつもりだったんだけど」


「契約?」


「そう。悪魔召喚には代償がつきもの。絞首刑を回避する代わりに、君の寿命の半分をもらうって契約さ!」


「寿命の半分!?……なら、契約書はあるんでしょうね。見せなさい」


「け、契約書……? いや、あの、口約束も立派な契約って言われてますし……」


「契約者である未来の私と、今の私が同一人物である法的根拠は? 内容を知らない相手に、書面もなしに納得させられるとお思い? クーリングオフは可能かしら?」


「…グスッ……あの、ぼく初めて召喚されたからよく知らなくて……」


「言い訳は不要よ。とにかく、私と公爵家の名誉回復。そしてライラの破滅。これが最低条件。わかったわね?」


「はい……わかりました……」


「よし。本契約の成立を証するため、この書面2通にサインなさい。各1通を保有するわよ。いい、契約書は基本よ。二度と忘れないように」


「はい! ありがとうございます!」



 こうして、未来と現在のクレモンティーヌによる共闘が始まった。


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