第7話 少年と魔法使い
魔導書を作り始めて二日ほど経った。家の掃除洗濯料理のほうは少華が担当してくれたため、俺は魔導書を作ることだけに集中することができた。一日目の最後のほうで少しギスギスした空気が流れていたけど二日目の朝起きると、俺も少華も何事もなかったかのように普通に接した。
「連、聞いたぞ、今お前の家にめっちゃ可愛い子が居候してるんだってな」
高校でクラスメイトの賢太が珍しそうな顔で聞いてきた。俺が女子と接すること自体珍しいから驚いたのか。
「どこから聞いてきた情報なんだよ。俺は誰にも話してないぞ」
「いや、本人からだよ」
「本人?」
「昨日久しぶりにマスターの話を聞きたくなったから行ってみたら、マスターの側に美人さんがいたんだよ」
ああそうか。少華はマスターのお手伝いもするって言っていたような気がするからそれかな。
「お前が女の子とつるむこと自体珍しいからな。気になってたんだよ」
「聞いてもなにも出てこないぞ。少華は魔術協会の関係者だから」
すると賢太は微妙な顔をした。どう意味でそんな顔になるのかは察しが付く。魔術協会の関係者の中でも魔女たちは周囲の男たちに対するあたりが強い。男が憎いとか嫌いってことではないと聡さんから聞いたことがあるから大丈夫なんだろうけど、理由が気になるところだ。
「魔女か……俺、あんま魔女にいい思い出ないんだよなあ」
賢太は魔法使いとしての資格がある。だから俺ともこうして交流がある。賢太は昔、希少な魔法を使えることからとある魔女に追い回された経験がある。そのときに酷い頭痛とめまいがして魔術に対して少し心の抵抗感が生まれたらしい。
「その時の状況は知らないけど、何とか逃げ切ったんだろ?」
俺はそう聞いたんだけど。
「逃げ切ったと言うより、俺に勝つ決め手に欠けて諦めただけだと思うけどな」
「そうだったら怖いな。また狙われるかもしれないぞ賢太君」
「本当に怖いこと言うなよ。俺もそんな気がしてるから毎日思い出すたび緊張するよ」
「一応、身体の周りに結界を張ってんだろ? それが聞いてるうちは安全なんじゃ」
「あのな、魔女の恐ろしいところは魔術じゃないんだぞ。その執念深さが怖いんだよ」
「つまり、結界があろうと関係なくしつこく追い回されると?」
「ああ」
「そっか」
「そうなんだよ」
「ふーん」
「……」
まあ頑張れ。俺は賢太の骨だけは拾ってあげることにした。
「お前、俺を見捨てる気か?」
「まあ、頑張れよ。俺を勝手に巻き込むことだけはやめて欲しいけどな」
「やっぱり見捨てる気だろ! ……よし、もし魔女に攻撃されたらお前の家を俺のシェルターとするから」
「おい、やめろよな。俺も魔女の恐ろしさは知ってるから嫌なんだよ。お前が死んでも葬式に行くから一人で頑張れよ」
「こういう時は二人で頑張ろうぜって言うべきだろうが。その少華っていう美人さんも信頼できるかわからないんだろ」
まあ確かに会って二日目だしな。少華が悪い子には視えなかったけど、性格を理解しているわけじゃないからな。まあ理解したところで女の子のことなんてわかったもんじゃないけど。
「俺、少華は信用できると思うよ、たぶんね、感だけど」
「感か……お前の勘は当たるからな。なら、星はなんて言ってるんだ?」
俺は少し集中して宇宙の星々にアクセスした。少華が安全か。信頼できる相手なのかと。
「……大丈夫って言ってるけど、一応」
「一応か……一応」
「なんで二回繰り返すんだよ」
どうやら賢太はめちゃくちゃ不安のようだ。なぜ賢太が魔女に追い回されたのか。その真相を知ってる俺は心の中で吹き出すのを必死でこらえるのが大変だ。ぷふっ。




