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第2話 依頼は少女と供に


俺は喫茶店の奥の部屋に執筆場所を移して一人小説を書いていた。最初はパソコンにもタイピングにもなれず、小説を書くのも一苦労だったが、中学を上がるころには慣れていた。高校に入学するころには十万字の壁を越え、長編ものを書くことにも脳が慣れてきた。ただ書くのに慣れてもアイデアが湧いてこないのが考え物。なにか日常に面白い小説のネタがないか探すのが俺の日課なのだが……それでもこれ、というものが見つかるのは数か月に一回ぐらいだ。


「連、お前にお客さんだぞ」


マスターが扉を開けて知らせてきた。


「俺にお客ってなんだよ、俺はここの店員じゃないぞ」


「いいや、間違いなくお前のお客だ。それもとびきり美少女の」


「いや、美少女とか関係ないし……」


すると一人の綺麗な女の子が中に入ってきた。見たことのない高校の制服をしている。まあ、自分の学校以外の制服なんてロクに記憶してないからあんまり意味がないけど。


「失礼します」


「えっと、俺に何か用か? とりあえず向かいのソファにでも座るといいよ」


マスターが二人分のコーヒーとケーキを机に置いて出て行った。女の子は座り俺をまじまじと見つめてきた。俺の顔に何かついているわけでも珍しい顔をしているわけでもないはずなんだけど……。


「わたしの名前は少華です。辻村少華。あなたに確認したいことがあります。水、電気、最後の一つは?」


今の彼女の質問で彼女がどこに属す人間なのかが分かった。魔術協会の人間だ。ここで質問に気付かない振りもできるが知らない振りをして藪を突きたくない。


「火だろ。俺は西治連。なんにか俺に頼みたい事でもあるのか?」


俺の返事になぜか驚いた顔をする彼女。なぜそこまで驚く。俺はなにも面白いことは言ってないぞ……。


「ごめんなさい、まさかこんなに若い人が、それも魔術協会に属していない人が魔導書を作れるとは思っていなくて……」


「あ~──なるほど、それで驚いたのか」


気持ちはわからなくもないからいいか。さて、魔導書と言う言葉が出たからには魔導書に関するお願いなんだろうが。


「あなたに新しい教育上の魔導書を作って欲しいんです。わたしはその依頼に来ました」


俺はどう返事した物か悩んだ。魔導書とは人の心象心理を誘導する場合によっては危険な代物だ。そんなものをおいそれと作って他人に渡すのはどうなのかと。俺は過去に面白半分に作った催眠方法の書かれた魔導書で痛い目を見ている。もちろん他人にその魔導書を渡したわけでも他人に催眠を使ったわけでもないが……自分自身に使った結果、謎の負のスパイラルに巻き込まれて大変な目に合った。そのときは何とか魔導書を破壊して、俺自身は滝行をひと月続けて事なきえたが。思い出したくもない。


「あまり気が進まないな、えっと少華さんだっけ、君は魔導書の危険性を理解しているのか?」


「少華で呼び捨てでいいですよ。それと魔導書の危険性については理解しているつもりではいます」


「なら、わかるだろ、俺は下手に魔導書を作って被害者を出したくない。だから悪いけど断らせてくれ」


少華はアタッシュケースを机の上に置くとそれを開いた。そこにはなんと札が輝いていた。


「一千万、ここにあります。本部の人は一億あげてもいいぐらいと言っていたんですけど、まだ連さんは学生ですし、お小遣いのこのぐらいがいいだろうとのことです」


「ぐっ」


なぜそこで魔術協会の連中渋ったんだ……。一億でいいだろ一億で……。俺は少し悩みだしてしまった。



一千万貰って魔導書を書くかどうか……。書く……か……。


「少し考えさせてほしい」


「いいですけど、時間はありませんよ?」


そうせかさないで欲しいんだけど。俺は魔導書を作るうえで周りに対する影響を考えながら作るようにしている。今まで作った魔導書の数は百二十一。これを世界のどこかに配置し放置してきた──っていうのは冗談なんだけど……。作ったらいつも俺に加護をくれる精霊たちが燃やして浄化してどうにか処分している。魔導書を作ると精霊たちがその行方を追い行く末を見届けた後にこっそり処分するのだ。だから精霊たちに迷惑を掛けたくないと言う気持ちもある。


「ちなみに、どんな魔導書を所望しているんだ?」


少華は一枚のメモ用紙を渡してくる。俺はそれを受け取り内容を読む。依頼された魔導書の主な内容は三つ。どれも俺の知識の内に収まる物で作れそうだった。魔導書作りにかかる時間は一冊に着きだいたい一日。俺は少華に余裕をもって一周間待って欲しいと頼んだ。


「では、依頼を受けてくれると言うことでいいんですね?」


「いいよ、受けるよ」


依頼された内容はどれも安全面を考えて細工すれば何とかなりそうだったし。


「ちなみに、魔導書ってどう作るんですか?」


コーヒーを飲みながら聞いてくる少華は興味津々そうな瞳で聞いてくるけど、俺もなんで自分が魔導書を作れるのかあんま考えたことがないから答えられないんだよな。


「ただパソコンで文字を打って、考えたことを念じるだけ」


「それだけですか?」


「それだけだ」


「……?」


一週間も時間はいらなそうだと疑問になった様子の少華。


「あの、今からでも作っているところを見せて貰えませんか?」


「あー、悪いんだけど今、ウェブ小説読んでるから今度の機会でいい?」


「……?──っ!」


あ、たぶんサボっていること気づかれた。


「あの、本当に一周間も魔導書を作るのに必要なんですか?」


「超いる、マジ大変だからさ」


「嘘ですよね、さっきからわたしの話をめんどくさそうに聞いていますし。魔導書を作るのも一周間も必要ないんじゃないですか」


「とりあえず、前金としてそのアタッシュケースを──」


「あげませんから!」


俺の目の前からアタッシュケースが遠ざかる。少華が一瞬で蓋を閉じてそれを見に抱えたせいだ。


「わかったよ、少華、君の好きな食べ物は?」


「……メロンパンですけど」


パソコンでタイピングソフトを開いてそこに『わたしはメロンパンが大好き』と書いた。パソコンを裏返して少華に画面を見せる。


「これを見て思うことは?」


「特にないですけど」


俺はその場でパンッと手を打ち鳴らす。そしてもう一度パソコンの画面を少華に見せた。


「どう見える?」


「……(ゴクッ……)特に何もないですけど」


俺はジーと少華を見つめた。


「これが魔導書だ」


「どれがですか!?」

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