六話 ~紹介②~
06.
きっかけは不明。魔族と人類の争いは先祖代々受け継がれるよう、続いていた。
始めこそ魔族優位の戦いであったが、人類は戦術と技を練り上げ。戦況を五分。
互角にまでした。
中でも人類最強と謳われる五人の勇者等は魔族を次々と殺していった。
勇者を倒すべく、魔王は幹部を送るがコレも討伐される。魔王はやむなく全魔族を
魔界に召集した。コレは来るべく時に備えての事だった。
程なくして、勇者率いる人類が魔界に到達。戦争が始まった。
理由は無い。ただ倒すべき存在。ソレだけがこの戦いをこうも長引かせた。
そしてついに勇者等は魔王に辿り着く。この時、魔王は一人だった。
コレは人類側の戦術だった。己の力に絶対の自信がある魔族は徒党を組まない。
コレに対し、人類はチームを組んで個の魔族に挑んだ。
それでも魔王は強かった。五人の勇者を何度も追い込み、劣勢の状況でも
互角以上に戦ってみせた。
が、最終的な勝利は勇者等が納めることとなった。
魔王が倒れたという報せは直ぐに広まった。人類の士気は上がり、逆に
魔族の士気は下がる。
こうなっては一方的だった。
降伏する者。逃亡する者。果敢に戦う者。どちらにせよ残った魔族の
未来は決まっていた。
「…これが十年前の事じゃ。今じゃ魔族は人類に怯え暮らしておる。何人おるのか
どこにおるのかも分からん。分かっておるのは魔界に魔族はおらんという事だけじゃ。」
長い話を終えたモルガナちゃんは、短い息をその場で吐いた。
「なるほど…。人類も魔族もただ、昔の因縁が残って戦っている。つまり
明確な理由はどちらも分からないという事だね?」
「あぁ…。少なくとも私は知らん。」
まぁ、ソレに関してはその時考えればいいか。
「分かった。ありがとう。辛い事を聞いて悪かったね。
今、飲み物でも淹れるよ。ホットミルクでいいかい?」
一先ず、この街がこうなった現状。今、現在の魔族と人類の関係性は分かった。
まだ、訊きたいことは山ほどあるが。焦って訊くものでもない。
「ところでモルガナちゃんはよく勇者に見付からないで十年もいられたね。
人類は魔界に一度も来なかったのかい?」
魔王の娘なんて人類側にしたら真っ先に排除したい存在だろう。
それを今の今まで見付からずにいられたのは単にモルガナちゃんが
隠れるのが上手いだけとは思えない。
魔界にずっと住んでいるとも言うし、お尋ね者が一箇所から動かない
なんて危険もいいところだ。
「あぁ。私はもう死んでる事になっておるからな。」
「は?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
「言ったろ?ココの店主が囮になってくれたと。」
「いや、聞いたけど。それは単に勇者等の気を逸らすって意味だろ?
ソレがどうして君が死んだ事に繋がるんだ?」
モルガナちゃんはヤレヤレと言いたげに呆れた表情を見せる。
「店主の得意とする魔法は変身魔法じゃった。これだけ言えば分かるじゃろ?」
「…なるほど。店主はモルガナちゃんの姿になって殺された。
だから人類…。いや、魔族にもモルガナちゃんは死んだ事になっているのか。」
店主は本当にこの子を護りきった。だが、その行為はあまりにも…
俺は出来たてのホットミルクを二つ。卓上に置きながら改めてモルガナちゃんに
目を向ける。
「なんじゃ?」
無言で暫しの間、見つめていたからであろう。不審がられた。
まぁ、当然か。
「あ、いや。何でもない。ミルク熱いから気を付けてね。」
俺は真意を気付かれる前に話題を逸らす。
店主はこの子を護った。だが、その代償は、この子をこの世から消す事だった。
亡霊となって生きる事がどんな感覚なのかは分からない。けど、良い気は
しないだろう。
「そうか…。なるほど。そうなると順序が逆か…。」
「なんじゃ。ぶつくさと。」
ホットミルクを小さな手で覆い、必死に冷ましてる姿は何とも
親心をくすぐられる。
というのは、どうでもよくて。
「モルガナちゃん。この世界に魔力の探知とかできる人っているのかい?」
「あぁ。おるぞ。勇者メンバーにも探知能力に長けておる者はおった筈じゃ。
だが、それがなんじゃ?」
「モルガナちゃんは魔力コントロールとかって出来るのかい?
魔力を消したりとか。そういう。」
「あぁ、なるほど。そういう事か。何故、私が勇者等に見付からなかったと
言いたいんじゃな?」
「まぁ、そういうことだね。」
魔界に勇者が攻め込んでこない理由は魔界に魔族がもういないと検証されたからだ。
だが、人類も馬鹿ではない。一度や二度は魔界に魔族が隠れてないかの
確認は来た筈だ。それなのにモルガナちゃんが気付かれなかったのは恐らく…。
「あぁ。主が思ってる通りじゃ。私に魔力は流れておらん。中級魔法まで使えると
言ったのは術式を書いての詠唱魔法のみじゃ。私、個人の力を使って出せる魔法は無い。」
そう言ったモルガナちゃんの表情はとても穏やかだった。




