三十二話 ~砂漠の国 オアシス 食前~
32.
母親は私を産んで直ぐに死んだ。栄養。魔力。その全てを私が奪ったらしい。
そんなんだから私は誰からも恐れられた。誰も私に近付かない。ずっと独り。
生きていればお腹が空く。というか、生まれてからずっとお腹が空いてた。
だから食べた。店に並ぶモノ。店で出された料理。狩った生物の肉。
食べて。食べて。食べた。
けど満たされる事はなかった。 永遠に…。
「…なんやコレ?」
突然、出現した漆黒の渦。ヤマカはその渦に入る事がどうしても出来なかった。
「闇の壁。魔族に伝わる絶対防御魔法だね。光の魔法で
消す事が出来るらしいけど。スネークは使えないよね?」
そう教えてくれたのはイヤー。その後に私は少しなら使えるけど?と
軽く提案を付け足す。
「せやな。私の属性は毒と風。光魔法は使えん。ココは任すわ。」
と、言った直後。
「水の散弾銃」
「…ッ。」
「わっ!」
闇の中から多数の水の矢が飛んできた。
不意打ちではあったが。ヤマカ等はその水の矢を全て躱すか打ち消した。
後ろの兵が何人か喰らって、血を流していたが当の彼女等は無傷。息も上がってない。
「さっきはありがとねぇ。まさか君達がいるとは思わなかったよぉ。」
闇の中からゆっくりと姿を見せるローデ。この場にいる全ての者が
彼女に視線を向ける。
「様子見とかいいから皆。本気できなよ。じゃないと 死んじゃうよぉ。」
!?
その場にいた全員が身構えた。それが合図と言うようにロデーは動く。
「水の鞭」
出現させた長い水の鞭での乱撃。
常人では目で追う事は困難だろう。現に雑兵である。兵士の大多数が鞭の餌食と
なっていた。
「ぎゃぁぁッ。」
「わぁぁぁ。」
水だからと言って、決して侮ってはならない。その威力は見たら瞭然。
石壁を抉る程である。
鎧を着こんでいようが関係ない。喰らえば体は真っ二つか大怪我のどちらか。
「…増加」
兵士達の悲鳴には耳も傾けず。ロデーは一つ、水の鞭を増やす。
「ラヴィット。生きとるか?」
「生きてるよー。」
音速の鞭を避けながら、会話をする二人の勇者。その声にはまだ余裕が見受けられる。
魔族は耳が良い。その声はロデーにも聞こえていた。
「海神の怒り」
ロデーはそう言い。体内の魔力を水に変え、大放出した。
ソレは見た通りの大洪水を完成させる。廊下という一方通行の戦場では
逃げるのは不可。
ロデーより前にいる全ての者はその波に飲まれた。
「速度強化」
慈悲は無い。ロデーは更に鞭の速度を上げる。ロデーが見ているのは勇者、二人。
その首だ。半端な攻撃では意味が無い。
事実。水に飲まれた二人の勇者は少しの焦りを感じていた。
呼吸困難な水で音速の鞭が休む事無く襲う。幾ら身体強化の魔法を付与していたとして
ソレを完全に避けるのは二人とて容易ではない。
『…ッ。やっぱ完全には避けれんか。このままじゃジリ貧やな。』
なんとかロデーの攻撃をしのいでいるヤマカは打開策を考える。
彼女の持ち味はスピード。そして気配の遮断だ。
だが、今。この状況ではその持ち味は大した脅威にはならない。
『…愛剣使うか。』
ヤマカがそう思った瞬間。
「太陽フレア」
一瞬、目を覆う程の光が辺り一帯を包む。
そして次の瞬間。閉じていた目を開けるとヤマカを包んでいた水は無く。
棒立ちしているロデーの姿が見えた。
「私の水を蒸発させる程の炎魔法かぁ。流石だねぇ。」
水が無くなり、周囲には湯気が立ち昇る。周囲の温度が少し上がっていた。
「これ以上、好き勝手はさせないよー。今度は私達の番だから!」
魔力放出をした為、イヤーの体温は上がっていた。
その為、頬は赤く。彼女の体からは湯気が上がる。
「スネーク。アイツ、強いよ!出し惜しみしてる余裕ない。全力で行こう!」
体温上昇と比例してテンションも上がっていた。
暑苦しいなぁ。と、ヤマカは思う。
「せやな。私も愛剣抜くわ。」
言って、ヤマカは何も無い空間に手をかざす。
「開放レイピア。」
そう言うと全身を黒に染めたレイピアが彼女の手に握られた。
「太陽の加護」
一方のイヤーは腰に差す剣を抜き。その刀身を炎で纏わせていた。
彼女はその場で剣を振るい、火花を飛ばす。
じゅわっ…
飛んだた火は音を立て、床を溶かした。
「残ったのは私等、二人かー。王様に怒られちゃうかなぁ?」
「使えない兵を寄越した王様が悪いやろ。」
「酷いなー。スネークは。」
そう、談笑をする二人だが意識はロデーに集中していた。その為、ロデーも迂闊には
攻めれない。
そんな彼女等はロデーに目を向け、剣の切っ先を向ける。
「こっからが勝負だよ。」
「覚悟せぇよ。」
この場を見る誰もが思う。それは正に物語の主人公と悪の対峙。
コレがどこかの物語ならロデーは倒される筋書きだろう。
そんな事を思いながらロデーはある事に気付く。
「…あぁ。お腹、空いたなぁ。」




