二十八話 ~砂漠の国 オアシス 接触~
28.
売買に掛かる時間はモノによって様々。土地やら大きなモノによるとその期間は数ヵ月は
軽く掛かる。文献を漁った時に把握したが、この世界でもその点においては変わらないようで
大きなモノ。複雑なモノになれば正式な手続きが完了するまでの時間はかなり掛かるらしい。
ドォンッ!!
門の方で大きな音が聞こえた。カルマとヨルガ等による戦闘が始まったのだ。
「……」
「カルマなら大丈夫だよぉ。」
口に出さないが不安そうな表情を浮かべるモルガナちゃんにロデーは優しく言った。
「それはまぁ。心配してはおらんが。人を殺しておるんじゃよな…。」
実力がある者同士の戦闘において被害を出さないなんてのは夢物語だ。
どちらも譲れない。正しいと思ってるから衝突が生まれる。
戦争や争いは理由こそ違えどどれも単純だ。
「その気持ちだけで十分だよ。モルガナちゃんは優しいね。」
数ヵ月前までは人間に復讐を。根絶やしにしてやる。みたいな勢いだったのに…。
優し子に育ってくれて、本当にもう…。
等と思っていたら何故か蹴られた。痛いな、もぉ。
「それより、無人っておかしくない~?本当に全兵力を正面門に注いだのかなぁ?」
俺達は今、王宮までの庭園を駆けている。それまでの間。一人として出会っていない。
王に仕える兵士はなにも砂の騎士団だけではない。
兵力は確かにいる筈だ。のにここまで誰とも出くわしていないというのは
ロデーの言う通り。おかしい。
「分からない。けど、進むしかないよ。」
思えば疑問点は幾つもあった。中でも一番の疑問点は俺達の行動を全て先読み。
対策をされていた事だ。
カルマを脱獄させたのは昨日。それと同様に俺等の存在がバレたのも昨日。
普通なら俺等を捜索するのが定石だろう。だが、ヨルガ等はそれをせず王宮で
俺等を待っていた。
コレは俺等の目的をあたかも知っている動きだ。
「王宮だ。気を引き締めて行こう。」
庭園を抜け、王の住む城に辿り着いた。奇襲を仕掛けるなら木々が広がる外の方が
良かっただろうに。相手側にその動きはやはりなかった。
明らかに誘われている。
とはいえ、ここで引き下がる訳にはいかない。
ギィィィ…。
重い石扉を開け、足を踏み入れる。昨日、見た光景が目に懐かしい。
だが、昨日とは全く違う。常に警戒心を保つ必要がある。
「…妙にあかるいな。」
モルガナちゃんの言う通り。外が暗すぎたのもあっただろうが、中は異様なまでの
明るさが目立っていた。
「発光する魔法石が天井にあるせいだねぇ。」
なるほど。あっちの世界でいう電球の役割がこの世界では魔法石で補っているという訳か。
「魔王城にはないのか?」
魔界は常に夜は暗かった。だからこの世界では月明りと松明で過ごす。そんな江戸時代の様な
生活がデフォルトだと思っていた。
「ん~。魔法石は貴重だからねぇ。昔は魔王城にもあったけど今は主に人間が独占してるし。
それにほらぁ。魔族は夜目が効くからそんな必要ないんだぁ。」
言われて納得する。確かに夜目が効く魔族にこれほどまでの光は逆に眩しいのかもしれない。
そう考えると外で奇襲を仕掛けてこなかった理由が分かる。
「戦闘に支障があるなら言ってくれよ?対応策を考えるから。」
言ってはみたがサングラスは用意できないし。どうしたもんか。
「ん~。断言はできないけどこの位なら大丈夫だよぉ。この国には
勇者はいないし大丈夫。大丈夫ぅ。」
「ならいいけど。」
頼もしいのか、何のやら。と、会話をしつつ歩を進めていると。
前から足音が複数聞こえてきた。
「二人とも下がっててぇ。」
ロデーが俺等を手で後退させる。足音の数からして数十。もっとか。
やはり、俺等の行く道がバレている。
「ロデー援護は任せろ。」
「えぇ~。モルガナ様に応援されるのぉ?嬉しいなぁ。」
「ばっ!そういう意味ではない!普通に援護じゃ!え・ん・ご!」
全く、この二人は緊張感がまるで無い。まぁ、ただの王兵にロデーが苦戦するとは
思えないが…。
グサッ。
「えっ…?」
ロデーの顔に緊張が走る。
見ると腹部に短刀が刺さっていた。
まだ足音は聞こえる。つまり兵はまだココに辿り着いていない。
その前にロデーは何者かに攻撃を仕掛けられたのだ。
「ロデーッ!」
モルガナちゃんの悲鳴にも似た声が廊下に響く。
「あちゃぁ…。油断したなぁ…。でも大丈夫、このくらいならッ…!?」
浮かべた笑みが直ぐに苦悶の表情に変わる。
「無理わせぇへん方がええで。その短剣にはヒュドラの毒をたっぷり染み込ませておる。
幾ら魔族やからって直ぐに解毒はできんやろ?」
「…ッ…はは。コレは…ッ。少しヤバいかなぁ。…君、作戦云々はもう捨てて。モルガナ様と
逃げてよぉ…ッ。」
笑ってはいるが強がっているのは誰が見ても明らかだった。
「…勇者か?」
ロデーを一瞬で倒せる人間など限られる。俺は考えるまでもなくそう言葉を問いた。
「…ッ。」
ロデーは声には出さず首を縦に振った。声を出すのも辛いのかもしれない。
「モルガナちゃん。ロデーの解毒は出来る?」
「…あぁ。出来るが時間が掛かる。」
モルガナちゃんは涙で顔がグチャグチャだった。
「なら、任せたよ。」
俺はモルガナちゃんの頭を一つ撫で、立ち上がる。
「ま、待て!主、何をする気だッ!」
言わずとも俺がやろうとしている事が伝わったのだろう。引き止める声は真剣というよりも
懇願に近いものだった。
「もう、嫌じゃ!喪うのは嫌じゃ!頼むから止めてくれ!」
「…モルガナ様の言う通りだよぉ…ッ。私はまだ大丈夫。完全に毒が浸透する前に
彼女を倒せれば何とかなる…。」
モルガナちゃんの手とロデーの手が俺を行かせない。
だが、服を引っ張るその優しい手を俺はそっと引き離す。
「大丈夫。死ぬ気はないよ。それにロデーも死なせない。モルガナちゃんは治癒に
集中して。そして出来るだけ早くロデーを復活させて。」
「主はそうやって一人で犠牲になるつもりか…。そんなの私は赦さんぞ…。」
そう言うモルガナちゃんではあるがロデーを気にしている。
状況は最悪。この状況は言うなれば詰みだ。
だが、だからと言って思考を停止するのは違う。
「俺を信じて。」
証明は出来ない。だから言葉を伝える。真っすぐな言葉はちゃんと届くのだ。
「…ッ。 ……主はズルいな。」
モルガナちゃんは悔しそうに小さく声を漏らす。自分の非力さ。無能さを卑下している様子が
見てとれた。
「…頼むから死ぬなよ。」
その言葉は願いにも似たものだった。
「言ったでしょ。その気はないよ。」
言って俺は前を向く。
「お待たせして申し訳ございません。以外にお優しいんですね?」
初対面の相手には基本、敬語で接するのが俺のポリシーである。それが仲間を
刺した相手でもだ。
「まぁ、もう勝負は着いたようなもんやしなぁ。後生の別れくらいはさせてやんよ。」
まるで蛇のような鋭く細い目が俺を見る。
「それはどうも。」
「あんた、魔力ないやろ?そっちの子も無い。私の相手、出来んの?」
唐突に確信を突いた台詞。魔力の探知ができるのか…?
とはいえそんなのいずれはバレる。問題はない。
「まぁ、やるしかありませんから。あ、自己紹介とかしますよ。」
俺は相手の返答を聞く前に言葉を口にする。
「僕は鴨田 商。魔王幹部の一人です。」
「ほぉ。幹部ねぇ。ほな、私も名乗っとこうか。スネーク・ヤマカ。勇者や。」




