二十五話 ~砂漠の国 オアシス 朝露~
25.
砂漠の国のコンダ王は誰よりも臆病だった。食事は何人もの毒味役をきちんと通し、
王室には妻でさえ入らせない。これがコンダ王の短所であり、長所である。
だからこそ、今。コンダ王は気が気でいられなかった。
「…あー。痛い。胃が痛い。リオン、何とかしてくれぇー。」
白髪交じりのいい歳したおっさんが泣きつく姿は物凄くカッコ悪かった。
こんな倍近く歳の離れた子供に、プライドとかなのか?
「善処します。」
とは言え、高い金で雇われた主人。そんな失礼な事、言える筈もなく。
リオンは短く、頭を下げた。
この国に昨夜、起きた事は大きく分けて三つ。
一つは地下に幽閉していた旧魔王幹部の一人。ネシス・カルマの脱獄だ。
状況から協力者がいての脱獄と見られた。コレに関しては心当たりがある。
絶対に公言しないが。自分の責任だとリオンは自覚していた。
二つはその代償で得た地図だ。これでこの国も勇者がいる三つの超大国に一歩
近付けた。コレはあらゆる面での交渉材料となろう。
そして、三つ目だが…
ガヤガヤ。ざわざわ。
朝の街は常に賑わっているが、今朝は違う意味で賑わっていた。
それもその筈。この国に魔王とその幹部三人がいるというのだから。
「魔王の奴、まだ生きてたのか?上の連中は何をしてんだよ!」
「怖いわぁ。この国にいるんでしょ?」
「ママァ。この国、滅んじゃうの?」
苛立ち。不安。恐怖。そんな会話が街を染める。店も殆ど閉まっていた。
「いやぁ、まさかだねぇ。モルガナ様、記憶消去魔法は覚えてなかったとは…」
「ぐぬっ…。仕方ないだろ。繊細な魔法は難しいのじゃ。それに洗脳系の魔法は
禁術じゃろうが!」
俺達は今、変身魔法で各々、姿を変え。堂々と街に潜伏している。
探知系の魔法を扱える者がいれば、大ピンチに陥る状況だが。まぁ、大丈夫だろう。
というかまだ、この国を離れる訳にはいかない。
「モルガナちゃんは悪くないよ。誤算は看守に魔王って言葉を聞かれた事だよ。」
そう。魔王の存在が露見したのはロデーが言った「魔王様は死んでない」という
台詞を聞かれた事にある。それもタイミング悪く。睡眠魔法が掛かる前。眠る直前に
聞かれたので記憶に大きく残ったという事だ。
「てめぇのせいじゃねぇか!」
新たな仲間。今は美少女に姿を変えたカルマが勢いよく
ロデーに声を浴びせる。
「それはカルマのせいもあるでしょぉ。グチグチ。男の癖にいじけてるからぁ。」
「はぁッ!俺のどこが女々しいって!」
ロデーとカルマは双方、変身魔法で性転換している。
ので、今の見た目でその台詞は似合わな過ぎて笑えた。
因みに俺も女の姿になっている。モルガナちゃんも今は男の子だ。
「まぁ、まぁ。過ぎた事を言い合ってても仕方ないでしょ。
今は、身を潜めて夜を待とう。皆、作戦は大丈夫だよね?」
俺は二人の仲を裂くよう、中に入る。
「私は大丈夫だけどぉ。…本気ぃ?」
「…けっ。俺は暴れられんなら何でもいいぜ。」
各々、それぞれの感情が見受けられる。
モルガナちゃんも珍しく黙っているのはこの先の事を心配しての事だ。
まぁ、俺とてこの作戦は無謀も無謀だと自覚している。だが、見てしまった。
見て見ぬふりはやはり出来ない。
「とりあえず、どこかでご飯でも食べようか?話たい事も沢山、あるし。
三人の具体的な行動も伝えたい。」
夜まで時間はまだ十分ある。それまでに色々と詰めておきたい。
作戦の失敗は冗談なしに死に繋がる。
「あー、でもぉ。お金、もう無いよぉ…」
「あー…」
そうだった。昨日の飯屋。宿屋。腰に刺さる剣の購入でロデーの持つ所持金は底を尽きたのだ。
今ある俺等の所持金はロデーから貰って、使わなかった金貨数枚。それと…
「私の金を使え。」
モルガナちゃんがお金の入った巾着をじゃらじゃらと掲げる。
「だから、それは駄目だってばぁー!」
すかさずロデーがソレを否定。前にもあったやり取りだ。
「いいのじゃ。というか、出させろ。王が臣下に対価を払うのは当然じゃろ。」
「けっ。お子様が言うねぇ。」
そう言うカルマの表情は嬉しそうだった。
「まぁ、それと。先祝いみたいなもんじゃ。今日が終われば私等、魔族は人類に大きな
存在を示すだろう。じゃから。なっ。」
じゃらりっ。とモルガナちゃんは、巾着を鳴らす。
「そういう事ならぁ。」
モルガナちゃんの発言にロデーは渋々と納得した様子を見せる。
「でも、安心してね。私、あまり食べないから!モルガナ様のお金は減らさないよぉ!」
「遠慮するな。腹いっぱい食え!」
迫るロデーを煙たがるモルガナちゃん。この光景ももう目に馴染みつつある。
けど、モルガナちゃんの言う通りではある。
この作戦が終われば、世界はきっと大なり小なり変わる事になる。
何故なら今日、俺達は
魔族を解放するのだから。
夜はまだ先だ。だが、必ずくる。それまでに準備をしよう。
俺の仕事は皆を死なせない事。それと絶対にこの作戦を成功させる事にあるのだから。




