二十四話 ~砂漠の国 オアシス 勧誘~
24.
この世の全てが憎かった。俺を捨てた親。見て見ぬふりをする同族種。逃げる人間。
殺しにくる勇者共。天気に。食い物。この世の全ては俺の敵だ。
そんな俺に手を差し出した奴がいた。
「…主、カルマか?」
牢には美少年が一人。周囲の牢にも今は誰も入っていない。
「あ?アンタは…モルガナか?」
少年は少し驚いた表情を見せると。俺達を再度、観察するよう見た。
「モルガナちゃんの知り合いって事はこの人は…?」
「うん。私と同じ、幹部の一人。名前はネシス・カルマ。竜族と魔族のハーフだよぉ。」
「竜と魔族のハーフ…。」
その情報だけで目前の美少年がとんでもなく強いというのは分かった。
改めて見ると鋭い吊り目は紅く。尻尾と角が生えている。衰弱しきってる筈なのに
この異様な悪寒。それは、ドラゴンと対峙した時を思い出すものだった。
「ロデー、お前。生きてたんだな?」
「まぁねぇ。カルマも生きてたんだねぇ?」
少年はロデーの態度が気に入らなかったのか舌打ちを一つ鳴らすと。
今度はモルガナちゃんに目を向けた。
「モルガナ。何でロデーといやがる?」
その問い掛けの真意が分からないモルガナちゃんではない。少しの沈黙の後。
真剣な眼差しで少年を見た。
「全て知り、受け入れたからじゃ。」
少年は少し、呆けた顔を見せるとまたも大きな笑い声をこの狭い牢獄に響かせた。
「ははははッ!そうか。大人になったな!あの泣き虫だったガキが!」
「なっ、泣き虫ではない!私はお主が苦手だっただけじゃ!」
「けっ。で、その苦手な俺に何の用だ?ココから出してくれんのか?」
少年は体を動かし、拘束されている鎖をガシャリッ。と鳴らした。
「それは…」
モルガナちゃんは困惑した表情で言葉に詰まる。ロデーも答えを出せないといった様子。
「はい。そのつもりで来ました。」
!?
三人の驚く表情が見なくても分かる。
「てか、お前はなんだ?魔族じゃねぇだろ?」
鋭い目が俺を睨む。鳥肌が立つ程の威圧感。無意識に半歩、後退していた。
「仰る通り。私は人間です。ですが、安心して下さい。私は別世界からモルガナ様に
召喚された者です。」
「召喚だ…?」
「そうだ。コイツは私が召喚魔法で詠んだ。味方だ。」
疑いの目を見せる少年にモルガナちゃんはフォローを入れてくれた。
「…まぁいい。こいつ等が操られてる素振りもねぇし。一応、信じてやる。」
少年はまじまじと俺を見ると、不機嫌ではあるが納得の言葉を口から漏らす。
「で、俺をココから出すってのは何だ?気休めや冗談だったらぶっ殺すぞ?」
そんな体力は絶対無い。だが、思わず信じてしまうくらいの威圧感。存在感が彼には
あった。だが、交渉相手…勧誘する仲間にビビる訳にはいかない。
深呼吸を一つ。後退した足を一歩、詰める。
「…看守は一人。時間は掛かりますが、睡眠魔法をモルガナちゃんは使えます。
カルマさんには、ロデーの変身魔法で眠らせた看守の姿になって貰います。
門までの経路は記憶したので問題ありません。」
考えた計画を手短に、この場の三人に伝える。
「後はカルマさんを縛ってる鎖ですが詳しく聞いてもいいですか?」
これほどの男を拘束している鎖がただの鎖な訳がない。
「…この鎖はアンチ魔道具の一つだ。馬鹿みたいに硬ぇのは勿論。
常に魔力を吸い上げてきやがる。」
「なるほど…。つまり二人の魔法では壊せれないという事ですね。」
可能性としては考えていた。だから、対応策も一応、あった。
「…じゃぁ、ロデー。頼めるか?」
俺は腰に刺した武器屋で買った剣をロデーに渡す。
「え!?」
ロデーは一瞬、驚いた素振りを見せるも。俺が言わんとすることを理解してくれたのか
小さく首を振ってくれた。
「…あぁ。うん。でも出来るか分かんないよぉ。」
不安そうな表情。だが、この中で腕力が一番あるのは彼女だ。男として情けないが
彼女に頼るしかない。
「大丈夫。ロデーなら何でも斬れるよ。」
不安なままでは斬れるモノも斬れまい。その気にさせるのが今、できる最善だ。
「馬鹿かっ…!そんな安い剣で斬れる訳ねぇだろ!それにこんな奴に助けられるとか
俺が赦さねえ。」
少年は荒々しい声を大きく上げる。さすがに看守にも気付かれたか?
足音が近付いてくるのが分かる。
「出してくれって言ったのは冗談だ!ココに来る奴には全員、言ってんだ!」
彼の言葉は止まらない。彼の想いは止まらない。
「どうせ魔王が死んだ世界に生きる意味はねぇ!このまま世界を憎んで死なせろよぉ!」
ガキンッッ!!
鉄と鉄が合わさる音が大きく響く。
ガシャンッ。
そして彼女は剣を何振りかし、牢を構築していた鉄を足に落とした。
「…うるさいなぁ。」
「おま…。」
剣を肩に背負い、ロデーは少年を見下ろす。
そして…。
ガキンッ!
「お前…。そんな剣でよく…。」
鎖から解放された少年は困惑した目で彼女を見る。
「死ぬなら私達に協力してよ。それに魔王様は死んでない。」
普段とは違うロデーの表情。その声からも怒りが感じられる。
しかし、よく斬れたなぁ。自分で言っておきながら驚きを隠せれない。
と、束の間。
「君達。何をしてるんだ!」
看守が俺等に腰の剣を抜きながら迫ってきた。
「…かの者を眠らせたまえ!」
「ッ!?」
間一髪。モルガナちゃんの睡眠魔法が間に合った。
全てがギリギリの作戦だ。入念に計画を練るのが俺のスタイルなのだが…。
「はぁ…はぁ…。カルマ!」
モルガナちゃんは魔法を使う度に体力。精神を使う。強力な魔法ならその疲労度は
並大抵のモノじゃない。それでも彼女は少年に言う。
「お父様に比べて頼りないかもしれない…。現に魔法を一度、使っただけで
この有様じゃ…。」
息を切らし、それでも少年に伝える彼女。その姿はまるで…。
「私は弱い。」
だから。とモルガナちゃんは続ける。
「私に力を貸してくれ。」
少年に手を差し出すその姿はもう立派な王の姿だと俺は思った。
「…ねぇ?魔王様は死んでなんかないでしょ?私は今の魔王様に全てを捧げる。
カルマ。君は?」
差し出された手を見る少年の目に憎しみはあったのだろうか。
少なくとも俺には…。
「けっ…。馬鹿じゃねぇの。」
小さく。唾を吐き出し。彼は次に大きく笑った。
「はははははッ。でも、馬鹿は好きだ。良いぜ。協力してやるよ。モルガナ様。」
少年は立ち上がる。鎖から解放されたからではない。
憎しみも消えた訳ではない。ただ、体が少し軽くなっているのを少年は感じていた。




