十八話 ~魔獣の森⑦~
18.
魔族と人。その容姿に違いはほぼない。あるとすれば尖った耳。紅い目。尖った犬歯。
そのくらいだろう。
だが、そんなモノ幾らでも変えられる。何なら魔法で思い描く姿に変身もできる。
こうして魔族は人の世界に溶け潜んでいた。
その行為は人に歩み寄りたい。その表れなのかもしれない…。
とある異端者の記録より抜粋
「はぁ…はぁ…。おっ!光じゃ!やっと出れるぞ!」
この森を彷徨って、早。五日目の朝。ようやくその出口が目に見えた。
疲れ切った表情を浮かべていたモルガナちゃんのテンションも目に見えて高い。
「モルガナ様ぁー。走っちゃ危ないよぉー。」
光に向かって急ぐモルガナちゃんにロデーはおっとりした声を上げた。
「五月蠅いッ!私に指示するな!」
振り返り、あっかんべーと。舌を出すモルガナちゃんは正に子供だ。
そんなやり取りを俺は二人の後ろで眺めていた。
「もうっ。モルガナ様はぁ~。」
まるで母と娘である。そんな事を思っていると彼女が俺に首を向けてきた。
「本当に行くのぉ?」
おっとりとした口調。だが、その真意を見抜けない程、鈍感ではない。
「あぁ。ロデーの協力だけじゃまだ足りない。というか、街に行く目的は魔族集め
だけが目的じゃないんだ。って、コレ前にも言ったよね?」
「うん。でもぉ…。」
ロデーがこうまで渋るのには勿論、訳がある。
ソレは強さの問題ではない。人間が魔族に対する仕打ち。扱いにあった。
「大丈夫。少しでも危険だと思ったら引き返す。俺だってモルガナちゃんに
嫌な思いはさせたくない。勿論、ロデーにもね。」
「うん…。」
返事は相変わらず。
だが、ここでロデーの意見を尊重しては前には進めない。
魔界を出た目的は二人にも言った通り。出て行った魔族を連れ戻す事が第一。
だから、魔獣の森でロデーに会えたのは良い誤算だった。
だが、もう一つ。俺はこの世界の人間社会を見てみたいと思った。
ソレは勿論、いずれ人間を魔界に客として呼び込む事前準備にある。
その事に関してはあの夜、二人にも言った。
ロデーは渋ったが、意外にもモルガナちゃんは積極的だった。
「…モルガナ様が言ったから君の意見に一応、賛同はするけど。私はやっぱ、人間を
魔界に招くなんて絶対、したくない。」
ロデーは感情を押し殺した声でそう言った。
その気持ちは分かるとは言わないが理解はできた。俺が逆の立場だったら多分、彼女と
同じ気持ちだ。
あの夜。こっそり、俺だけに伝えてくれた人間が魔族にしてる行為を知れば尚更。
「まぁ、ロデーの言い分は正しいよ。でも、武力で人間に戦いを挑んでたらキリがない。
時代は…未来は繰り返されるんだ。」
俺だってこの考えがバカげた理想論だってのは分かってる。けど、また魔族が戦いを
挑み。仮に人間に勝利したとしてどうなる?立場が逆になるだけで何も変わらない。
イタチごっこを繰り返すだけだ。
和平がどれほど大変な事かくらい大人の俺は痛いほど理解していた。
けど、ココで誰かが声を上げなければ気付かれもしない。
「ロデーは人間の俺を信じられないかもしれない…」
「そんな事はない!モルガナ様をあそこまで元気にしてくれた君には
感謝してもしきれない。」
意外にも好印象な事に驚くも、今は照れてる場合ではない。
軽く礼を言って話を戻す。
「ありがとう。でも、いいんだ。異世界の人間だろうが俺は人間だ。
魔族が嫌悪を抱く事は自然な事だと思う。」
ロデーが何かを言ってきそうだったので、ソレを遮り。言葉を続ける。
「けど、モルガナちゃんの事は信じてあげて。あの子は前に進もうとしてる。
偉人になるのは俺じゃない。子供で。魔族で。君達の王。 魔王モルガナだ。」
そう。俺は彼女のサポートに過ぎない。
全力でサポートして彼女を誰よりも優れた王にする。ソレが俺がココに呼ばれた理由。
モルガナちゃんが俺を呼んだ意味なのだ。
「…君はどうしてそこまでモルガナ様に尽くすの?聞いた話じゃまだ出会って数週間でしょぉ?」
その問いに関しては本当にそうだ。どうしてかはイマイチ分かってない。
けどその解答は前に悩んだ時に導いた。
「子供が泣いていた。助ける理由はソレだけだよ。」
ここまで共に過ごした中で生まれたモルガナちゃんに対する想いはきっとソレだけ
じゃない。けど、原点はそうだ。
理由を知り、彼女の想いを受け取った。そして俺が決めた。
モルガナちゃん《この子》を助けたい。と
「で、ロデーはどうなの?」
不十分な問いを投げる。だが、直ぐに返ってきた。
「勿論、私もだよぉ。」
朗らかに微笑む彼女の表情を見て、どこか安心した。
モルガナちゃんを支える者が俺以外にもできたのだ。
「なら俺達は仲間だ。よろしく。相棒。」
拳を片手に慣れない事をする。新たな仲間にテンションが上がったのかもしれない。
「……うん。なんだか照れるねぇ。」
流石のロデーもコレには羞恥心が生まれたらしい。それでも、頬を染めながら拳を
合わせてくれた。
この歳でこんな青春じみた事をするとは…。人生なにがあるか分からない。
「…おい。主ら、何をしておる?」
不機嫌な顔をしたモルガナちゃんがそこにはいた。
「モルガナちゃん!?どうしてココに?」
森を脱けた筈では?
「いつまで経っても主らが来んから様子を見にきたんじゃ。」
「あぁ…。」
明らかにご機嫌斜め。 まぁ、そうか。
いつの間にか足を止めて、ロデーと話し込んでいたし…。
「モルガナ様ぁ。私達を心配してくれたのぉ?」
空気を読めない発言がモルガナちゃんの機嫌を更にそこねる。
薄々は気付いていたが彼女は天然らしい。真面目になるとそうでもないんだけどな…。
「…ふっ。」
!?
その朗らかとした光景に思わず笑いが零れた。二人の視線が俺に向く。
「なんじゃ。何がおかしい!」
怒りの矛先が俺へとシフトチェンジ。そんな彼女の感情を抑えるかのよう
頭にぽんっと手を置く。
「行こうか。モルガナちゃん。」
こうして俺達は一人の仲間を加え、魔獣の森を脱けた。




