十六話 ~魔獣の森⑤~
16.
数年前。魔界、各所で食い逃げが勃発した。それだけなら何ら問題ではない。
しかし、数週間後。これが大きな事件として国民に広く伝わった。
食い逃げ犯は一人で魔界が誇る精鋭部隊を壊滅させたのだ。
結局、この事件は(旧)魔王が出向いた事によって解決へと導かれた。
「…モルガナ様も食べなよぉ。お腹空いてるんでしょぉ?」
そう言ったのは先ほど、ロデーと名乗った女性。もう何口目か分からないが。物凄い勢いで
焼いたドラゴンの肉を食べている。
「………。」
ぷいっ。とそっぽを向くモルガナちゃん。しかし、腹に空気は読めない。
ぐぅ~。と、盛大な音がその場に響いた。
言うまでもないだろうが、モルガナちゃんの顔は赤くなる。
そして、こちらも空気が読めない。
「ほら、遠慮はいいから。私、一人じゃ食べきれないと思うし。」
ロデーは言って、焼けた肉を差し出した。
このペースなら一人で食べきってしまいそうだけどな…。
直ぐ後ろで倒れるドラゴンの死体に目を回す。呆れ半分。尊敬半分。
今度はロデーの方へ目を移した。
「ん?君も食べていいよぉ。塩も恵んでくれたし。てか、何で人間がモルガナ様と
一緒にいるのぉ?」
何を勘違いしたのか。モルガナちゃんに差し出した肉が今度は俺の方へ回ってきた。
確かに腹は減っているが、モルガナちゃんが食べていないのに俺が先に食べる訳には
いかない。
とはいえ、親切心を無下にはできまい。
礼を言い、木の枝に刺した肉を受け取る。モルガナちゃんが食べたら口にしようと
心の中で呟く。
「そうだね。自己紹介がまだだった。俺は鴨田 商。君達とは異なる世界から来た。
店舗コンサルタントだ。
今はとある理由からモルガナちゃ…。魔王様の支援やサポート等をやっている。
先ほどは窮地を救ってくれてありがとう。」
名刺があれば渡していただろう。
「異なる世界…?店舗コンサル…?」
当の本人は頭上にクエッションを多くだして、きょとんとしていた。
それでも肉を食べる動作を止めていないのはさすがだと思った。
「あー。じゃぁ、ちょっと長くなるかもだけどこれまでの経緯を説明するね。
モルガナちゃんもいいよね?」
一応、主の了承を仰ぐ。
返事こそ返ってこなかったが、こくりっ。小さく首が縦に動いたので俺は
これまでの事をなるべく。分かりやすく。丁寧かつ端的に説明した。
「…へぇ。モルガナ様が召喚魔法をねぇ。」
話を最後まで聞き終えたロデーは相変わらず、肉を片手に頷いた。
「……。」
モルガナちゃんは相変わらず、不機嫌。一体、この二人に何があったのやら…。
「まぁ、そういう訳で俺達は魔族を探してるんだ。ロデーさんも魔界復興に
力を貸して貰えないだろうか?勿論、その分の報酬は確約する。」
詳細な素性はまだ把握できてないが。先刻、見たあの実力は本物だ。
本人、曰く。魔王の幹部って肩書もあるし。絶対に仲間になって欲しい。
「ん~。楽しそうだし私はいいんだけどねぇ…」
チラリ。モルガナちゃんを目に困惑した表情を浮かべる。
どうやらこの案件は二人の仲を良好にする事が第一条件らしい。
「言いたくないならいいんだけど、モルガナちゃんと何かあったの? というかロデーさんは
どうして魔界の森にいたんだ?」
「あー。それはぁ…」
手にした肉もそのままに。返事を渋るロデー。始めに言いたくなければいいと
言ってしまった手前。これ以上、質問を重ねるのは得策とは言えない。
ので、聞く相手を変える。
「モルガナちゃん。昔、ロデーさんと何があったの?」
ロデーが答えを渋る理由はモルガナちゃんが大きな理由だ。質問を投げた瞬間、明らかに
モルガナちゃんを気にしだした。
「モルガナちゃん?」
返事が返ってこないので、念を押す。
「…った…だ。」
数秒、待っていると。小さな声が返ってきた。
だが、焚火の音で断片的にしか聞き取れない。
「ごめん。もう少し大きな声で頼めるかな?」
苦笑を顔に、やんわり問いを訊き返す。
するとモルガナちゃんは急に立ち上がり、ロデーを指さしこう言った。
「コイツはお父様を裏切ったのだ!勇者と闘うのを恐れた腑抜けだッ!」
怒りの声を高らかに上げたモルガナちゃん。その目には涙が流れていた。




