十一話 ~出発の前準備~
11.
この世界には三つ超大国と呼ばれる国がある。
一つはアイアン王が治める『セルシニア』。魔王討伐の英雄。勇者を複数人輩出した
国として世界樹の枝を多く貰う事に成功。小国から成長させた。
二つはガネーシャ王が治める『ウィルダン』。この国はどの国よりも金があった。
故に栄え、人が最も多く集まる。住みたい国として名高い。
三つはネイティブ王が治める『ナイル』。武力に力を入れている軍事国家である。
常に戦争を仕掛け、領土を拡大。個の力は二つの国に劣るモノの武具や兵力の多さは
この世界で一番である。
「…魔界を出よう。」
この世界に召喚され、早いモノで一か月が経とうとしていた。
魔界を復興させるという計画は未だ、難航を極めてはいるが順調といえば
順調である。だが、何分。人手が足りないのが痛いところ。
荒れた街を綺麗にするにも俺達だけでは無理という結論に至った。
「危険じゃ。」
俺の言葉にモルガナちゃんは実に淡泊に返事を返した。
「いや、言いたい事は分かるけど。このまま魔界にいるのは効率的じゃない。
とにかく今は人手が必要だ。その為にはココを離れた魔族を探す必要がある。」
「まぁ、それはそうじゃが…」
歯切れの悪い返事。一か月の修行でモルガナちゃんは強くなった。
とはいえ、強さの上限はない。結果がない限り、この葛藤は永遠に続くだろう。
「大丈夫。自信持ってよ。一か月。寝る間も惜しんで二人で頑張ったよね?
今のモルガナちゃんは強いよ。」
自信のない者にはとにかく向上心を上げる。コレは鉄板であり、常套句。
「うむ…。そうか…?」
心の揺れが声にも分かる。後、一押しだろう。
「そうだよ!このまま魔界にいるなんて勿体無い!俺は魔王。モルガナちゃんを
世界に見せびらかしたいんだ!」
「世界に私を…ふっ」
モルガナちゃんの表情に生気が戻った。
「はは。そうだな。そろそろ、私の存在を世間にお披露目するか?」
よしっ。と、内心。ガッツポーズをし。言葉を続ける。
「じゃぁ、とにかく。この店だけでも最後。綺麗にして行こう。
せっかく魔族が戻って来ても呼べる場所が無かったらがっかり
するからね。」
「分かっておる。てか、今。やっておろうが!」
一か月間、何も修行だけをしていた訳ではない。修行の合間に常に通っている食堂。
その店内を二人でオープンできるまでに掃除していた。勿論、それには理由がある。
「しかし、何でこの店なんじゃ?思い出の店を綺麗にするのは私個人としては
嬉しいが。他にも店はあろう?」
トンカチを手に空いた床を修繕する姿はもう様になっている。
「まぁ、理由は幾つかあるんだけど。
最大の理由はモルガナちゃんの思い出の場所だからかな。」
「は?」
「大事な場所なら手を抜いて修繕もしないでしょ?」
「どんな場所でも手なんか抜かぬわ!」
冗談めっかしに言った台詞にトンカチが飛んできた。
オイオイ。せっかく綺麗にした店を壊すなよ。
とはいえ、今のは俺も悪い。
「でも。他の店だったらこうまで真剣に取り組んでたかな?」
修行の合間は勿論。それこそ俺が注意するまで寝ずに修復作業をしようとしていた。
ソレはこの店にそれだけ愛があったからだ。
「魔界に魔族を呼び戻す事になったら。先ずは現住民である
モルガナちゃんが接客…。接待をしないとならない。
そうなった時、この店ならやりやすいでしょ?」
「私が皆に料理を振るまえというのか?」
「そっ。離れた心を呼び戻すには何かを与えるのが一番効果的なんだよ。
モルガナちゃんのシチューは美味しかったし。絶対受けは良いと思うんだ!」
「国民の胃袋を掴めという訳か?」
「まぁ、そういうことだね。」
まぁ、胃袋も心も掴んじまえば一緒のようなもんだし。間違ってはないだろう。多分。
「なるほどな…。この店を修復していたのはただ私等の拠点を住みやすいモノに
するだけではなかったのか。主は色々と考えておるのじゃな。」
「住みやすいようにするって目的も勿論、あるけどね。でも、二人しかいない中で
最適解を導き出す。ソレが俺の仕事のやり方なんだ。」
モルガナちゃんは俺を見る。その目は何かを言いたげだった。
「…主が呼ばれて本当に。良かった。」
瞬間、間の悪い怪鳥が汚い鳴き声を空に轟かせる。開放的な店である為、
その声は店内によく響いた。
「ん?何か言った?」
流石に聞こえなかった。
「なんでもないわ!それより、早く完成させるぞ!明後日には出発だ!」
「うん。魔王らしくなってきたね。モルガナちゃん。」
元気に指示するモルガナちゃんの姿を見て俺はそう口にした。




