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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 由甫啓
起承転結の「起」なにこれ?

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9/11

 調子に乗りそうで癪だと言ったが僕は時と場合に応じて本音を切り替えれる男である。

 実利がありそうならそっと意見を変えられる、それが大人というものでありプロを目指せる人間の在り方ではないだろうか。


「それなら早速だけど聞いてもいいかな」

「はい、なんでしょう」

「プロットとかってどうしてる?」

「本でも読んでみては? 幾らでも作法について書かれたものはありますし、自分に合うものを選べばいいかと」


 ええ、応えないやん……。流石の僕もエセの関西弁が出るぞ。

 なんやこいつ、と見る僕を野枝小道はふっと笑う。


「冗談です。そういうのは好みがありますからね。あなたに合うものを探すべきでしょう。私の場合、先ず場所と登場人物を決めます。その後に誰かしら殺します。それを殺したのは誰だろう? と思いながら書き出してしまうんですよね、私」


 こわっ。そんな書き方でオチがつくのか? いや、つくんだろうな。何せ、天才なのだし。


「そんな書き方で齟齬は出たりしないの……?」

「まあ天才なので。というか小説なんてのは勢いですよ勢い。思いつくままに書き切って、最後に程よく体裁を整えてやるんです。足らないところは足して、余計なところは削って」


 勢いねえ。僕に欠けてるものがあるとすれば、それは勢いであるかもしれない。他にも色々足りてないけども。まあ、なってやると言う覚悟だけは自信がある。すぐに萎れるけどすぐに持ち直す僕の覚悟は中々のものだと思うし。


「思えば同年代の作家志望というのも初めてですね」

「そうなんだ」


 僕も同年代の作家は初めてです。


「栗原さんはライトノベルで文壇を目指してるんですか?」

「まあ、そうね」


 文壇とか言われるとなんとはなしに息が詰まるな。なんかお堅い感じが凄いし。


「投稿歴が薄いのは年齢を思えばそんなものかといったところですが、ウェブサイトに投稿なんかしたりしているんですか?」

「小説投稿サイトにしておりますけど」


 なんかってちょっと余計じゃない? 棘のある女だぜ。


 ふうん、と顎をさする野枝小道。


「これは前々から思っていたことなのですが、小説家になろう! とか言ってる場合じゃないと思うんですよ。小説家になる! と言い切るべきだと思いませんか?」


 ……なんか凄く不安になるからやめて欲しい。不思議だ。野枝小道は口を開けば開くだけ敵を作ってそう。


「あっ、あれってどうなのかな」

「あれとは? ほら、もう駅前なんです。早く言ってください」

「ウェブ掲載ってさ、なんか改行するじゃん。敢えて行間を空けるみたいな。あれってさ、やっぱやった方がいいのかな? ちょっと抵抗感あるっていうか」


 ああ、と野枝小道がうんうん頷く。


「ウェブ掲載したことないのでそういった特殊な作法があるのは存じてますが、私知らないんですよね。なにせネットに掲載したことないので」


 なんだろう。遠回しの自慢か? 私はそんなとこでまごつきませんでしたよ、直で出版に漕ぎ着けましたから的な。


 目の前を僅かに行く野枝小道は間違いなく僕よりも優れた作家だろう──職業的に作家ではなくとも小説を書く人間は等しく作家だと僕は考えている──けどいづれ抜くつもりの背中はうんと遠いんだろう。


 その影も踏めないくらい遠くにいる天才作家先生が居て、何やら評価されているらしい先輩が部室に行けば会える。きっと凄く恵まれている環境だ。

 打てば響く言葉は生憎帰ってこないが、身近で書いている人間が明確にいると、薄らと危機感を煽られる。


 高校三年間で、なんなら助走みたいなもので大学に入ってからでも────なんて考えは甘いですよと切り捨てるような美少女同級生が居る以上、書かないわけにはいかない。


 うっし、やるぞ! と決意を新たに一歩踏み出すと目の前にスマホを突きつけられた。


「なにかな」

「なにかな、じゃありませんよ。駅に着きましたから」


 ほら、と再度突きつけてくる。


「さっさと出してください。腕が疲れてきました」


 なんだ? 僕の知らない高校生的流行りに別れ際にスマホで乾杯するとかあるのか。

 こういうアンテナの低さがウケの悪さなのかもしれない。自省しよう。


「ああ、ごめん。どれくらいの強さで当てるの? 縁を軽く──」

「遂におかしくなりましたか? ……あのですねえ、これから一週間共に帰るわけですから連絡先を交換しようって言っているんですよ」


 まあ、知ってたけどね。


「ああ、えっとどうしたらいいのかな。いや、友達が居ないとかじゃなくて、追加とかって頻繁にしないから忘れちゃって」

「嘘ですね。嘘の匂いがします」


 僕のスマホをひったくると、野枝小道は両の手に持ったスマホを同時に操作し出した。これが女子高生か。スマホ使いが尋常じゃない。


「さ、追加しました。現役美少女女子高生作家の連絡先ですよ、咽び泣くといいでしょう」


 帰ってきたスマホを見れば、LINEの連絡先に名前が増えている。

 新規に入った『天才美少女作家』の文字列がちょっと痛々しい。やだな……。人に見られたら僕が恥ずかしいんだけど。


「あなたも部活だったり、何かしらあると思いますから下校の際にはこちらから連絡しますので擦り合わせていきましょう」

「あっうん、分かった。あの、名前なんだけど」

「お礼ですか? お気になさらず、分かりやすい名前に変更したまでです。気遣い、というやつですね」


 いらねえ、気遣いじゃん。これって、勝手に変えたら通知とか行くのかな。あとで調べよ……。


「それでは、また来週」


 構内に入っていく野枝小道の背中に、「また来週」と小さく声を掛ける。

 増えた連絡先が女子のものであると思うと青春みを感じなくもないけど、美少女って言うよりびしょーじょって感じなんだよな。時折言葉で刺してくるし。


 姿の見えなくなった野枝小道を追いかけるように僕も駅へと足をむける。まあ、線路向こうだからね家。別れるのが早いよ。いいけど。


 帰宅した僕は、すぐさまにパソコンを立ち上げた。

 ネットの海に転がった野枝小道の姿は、言うだけのことがあると頷くものだった。

 化粧の場合、なんて言うんだろうね。馬子にも衣装はちょい違うよなと首をひねった。


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