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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 由甫啓


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8/8

 僕と野枝小道は並んで歩いていた。

 当たり前だ。話が終わって、互いに用がないなら帰り道につくのだ。駅の方までなんてどうしたってこうなる。


 こうなると思ったから部室に居座ろうとしたら、お前も帰れと追い出されたのだ。僕に選択肢は無かったように思う。


 無言で並んで歩くのはちょっと嫌なのでペースを上げると野枝小道のペースも上がり、落とすと同じように落ちる。そういうギミックのステージとかあるよね。配管工のヒゲRPGとかで。これで何か投げてきたらジュゲムだ。落語ではなくて。


 並んでるのに、付けられてるような感じがしてなんか嫌だな……。せめて先輩が居てくれれば。なにが後は若い人達でどうぞだ。


 交わす話題が無い、わけではないけど。本返して、とか。


「気になることが一点」


 野枝小道が呟くように問いかけてきたから、ちらりと横顔を見る。


「なぜ、あの大きい……いえ、小さい先輩は私のことを知っていたのかと。絶賛バカ売れ中の大人気作家であることはあなたが漏らしたのでしょう。ですが面識はありませんし、取材の類は一度しか受けてないのですが」


 ああ、顔知らないのに、ってことね。大したことではない。そんなことも分からないとは大したことないな、野枝小道。と思いつつブレザーから携帯を取り出す。


「それならこれ」


 と水曜の帰りにさり気なく撮った写真を見せる。盗撮じゃない。教室の向こう、変わった形の雲が在ったんだって。たまたま写り込んでしまったのが野枝小道なのだ、ということになっている。


「……あなた、私でなければ出るべきところに出ていましたよ」

「いや、違うんだよ。別に君の写真を撮ったとかじゃないんだって。それに写真欲しかったらサイン会でも撮れそうじゃん」

「撮影禁止としましたね。私はアイドルじゃないので」

「あー、あれだよ。テレビ出たって」

「言い訳甚だしいことです。一回きりでしたし、他の作家の方も居ました。私個人と名指してる画像は実は無いんですよ」


 徹底してる……秘匿するなら出なければ良かったのに……。


「言いたいことは分かりますよ。ですが美少女女子高生作家は貴重なんです。一回だけと強く言いましたし、なんと言いますか化粧って凄いんですよ。ただでさえ美少女と巷で話題なのにあの時の私には絶世のが付いてましたね」


 すげえ、化粧ってそんな変わるんだ。ほとんど魔法じゃん。なんとなく馬子にも衣装とか言いそうだったから危なかった。見てくれに対して口が悪いからそれくらいの距離感が程よいと思う。


「そういやさ」

「はい?」

「こないだ、書けって言ったろ? 何を書こうと思ってさ」

「はあ」

「野枝小道の鼻をあかす小説を書こうと思ってるんだ。書き上がったら読んでもらえるか?」

「……へえ」


 こういうのは言える時に言っておけときいたから、初志を貫く為には自分を追い込まなくてはいけない。

 怪しげな視線を送ってくる野枝小道を僕は見返す。絶対に必ず超えてやるぞ、とか。舐めた相槌打ちやがってを燃料に僕は隣の先達に立ち向かう。


「私の鼻をあかす、ね。まあ期待はしませんが面白いものをお願いしますよ」

「うん、必ずぐうの音も──」

「脱稿はいつになるんですか?」


 思わず、本当に思わず立ち止まる。あー、それもそうか。うん、読めっているならそこがあやふやなのは良くない。


「……一学期が終わる前には」

「遅いですね。条件を追加しましょうか。私の依頼が終わったら、あなたも小説を持ってくること。折角ですから長編の応募要項を満たしたものとしましょうか」


 あ、あかん。とエセ関西弁が胸中を占めている間に、野枝小道は携帯を突きつける。浮かぶ画面は大手出版社のライトノベルの応募部門で。


 応募要項。ワープロで四十二文字の三十四行。八十頁から百三十頁。その文字列は僕の頭を何度も踊ったもので、今現在目の前で突きつけられたそれとまったく同じだ。


「作家になるのなら無駄に足踏みする暇はありませんよ。面白いものを、ちゃんと読ませてください」

「ちょっと期間が短くないかな?」

「これは自論なのですが、時間を掛ければ良いものが出来るなんてナイーブな考えはよしたほうがいいですよ。もし、そうなら高校生、大学生は作家で溢れかえってる筈ですからね。私が師匠とする人は何もない日でしたら十万字は書き出すようにしているようですよ」


 そんなの超人じゃん。僕はそんな凄い人間じゃないぞ。でも、それを適正だとか才能だなんて言わせたくない。今までで一日で一番書けたのは三万字。いけるか?


「因みに、野枝小道先生は一日に何文字書き上げるので?」

「私ですか? 私は一日に一万字を最低限としていますね。筆が乗らなくてもそれぐらいはコンスタンスに出せるようにしていますよ」


 仕事にするって、そういうことか。逆に言えば日々それだけ書けるなら見る目があるって思おう。それくらい僕にだって出来る。頑張る。やれる。


「とはいえ大変だとは思いますし、何某先輩にでも頼るといいでしょう。なんなら、技法的な質問だったり気になることがあれば私でも構わないですよ」


 敵に塩を送るとは……いや、敵とさえ見られてないんだろうけど。


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