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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 由甫啓


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7/8

 小説を書こうと決めたら書いている間、少なくとも勢いが残っている限りは小説を読まないように僕は気をつけている。


 自分の中にある物語の要素を形作る時、なにかしらのインプットを行うと僕は途端に興味がそっちに行ってしまう。そうなると今手につけているものを早く終わらせてしまいたくなってしまう。インプットしてしまったそれから受けた刺激をすぐ様に形にしたくなってしまう。メモ書きに残しておこうとか色気を見せてしまうともう駄目で、別のまだ未完の今まさに着手している作品から徐々に意識が逸れてしまう。


 書き始めならそれは僕に物語へと盛り込もうという意欲に繋がりはするのだが執筆が滞って、もう何も思いつかない。これ以上向き合いたくないなんて時にそれをしてしまうと物語の成り損ねみたいなものだけがフォルダに積み重ねられてしまう。


 その悪循環は恐るべきことに中々に抜け出せない。つまるところ僕は、弱い……っ。


 それが投稿をしてから癖になってしまったもので、短編を完結させて終わらせる癖をつけようとしていたわけで。

 何が言いたいかって、本日金曜を迎えるこの日までなかなか進まなかったのを反省せんとねってことです。四十二文字の三十四行で作成された原稿を五ページ。月曜から書き始めて金曜を迎えてそんなもん。もっと書けよ僕。


 ということを僕は文芸部の部室内で先輩に話していた。釈明だ。見苦しい言い訳でもある。


「よーは、私に野枝小道の勧誘を押し付けて小説書いてましたってことだろ? 小説書くのは良いんだよ。むしろ書けって思う。だけど、それはそれだよな?」

「まあ、はい」


 ぐうの音も出ない。相談とかすれば良かったとも思う。いやあでもね、僕には難しかったと思いますよ。なにせまだ本は返ってきてないし。……また買えっていうのか野枝小道。姑息な奴め、売上を産む為に僕の家へ本を帰さないってわけか。やー現実逃避に『かえる』で言葉遊びは楽しいね。いや、本当すみません。睨まないで。


「お前と違って私はしっかり話したぞ。『栗本から聞いていると思うが』と言ったら『何も聞いてませんが』と返された私の気持ちが分かるか? おまけに側に居た小さいのに威嚇されたんだぞ!」


 先輩も小さいですけどね。

 憤懣やるかたなしとばかりの遠藤先輩に、偉いなあと思う。月曜日にはあったんです。一肌脱ごうって意思が。ただ遅々として進まないとはいえ少しでも書いていれば小説は完結するけど、野枝小道の勧誘はそうじゃないのでモチベーションがですね……。


「すみません、お力になれず」


 口だけの謝罪を遠藤先輩は鼻で笑う。ぐぬぬ、反論のしようがないぜ。


「ふん。因みにだが、勧誘は失敗した」


 あー、まあそうだよね。現役作家が今更こんなとこに所属する理由が無さすぎる。


「だが、呼ぶことには成功した。そしてもう時期に来る」


 ん、なんで? 決裂したのでは。


「失敗したが、一つ条件を提示された。それをクリアできるのはお前だ」

「えっ。面倒くさ」

「面倒じゃない! 文芸部と作家先生の為になんとかしろ!」


 控えめなノックが響く。

 こっちこいと先輩が手招きするので渋々先輩の隣に着席する。二人して窓に背を向けて座っちゃって面談かな? 面談か……。


「入っていいぞー」

「では、失礼します」


 部室内に入ってきた野枝小道は僕たちをちらりと見ると、鬱陶しげに前髪を払った。顔が良いから所作のひとつひとつが様になるなこいつ。


「どーぞ、座ってくれ」


 それでは、と野枝小道が座る。僕の前に。本当に、用事あるのか? なんだ、僕の本を貰い受けるのが条件だったりする? 気が進まないけど、そんなでいいならあげても良いかも。よほどサインの出来が良かったとみえる。


「さて、だ。早速本題にはいろーぜ。条件ってやつはなんなんだい」


 遠藤先輩の言葉に野枝小道はええ、と頷き僕を見る。


「非常に遺憾ではあるのですが、釘本さん」

「あっ栗本……」


 じろっと睨まれたので推し黙ることにする。空気を読むのは大切なのだと最近ちょっと反省しつつある。


「あなた、帰りは駅の方ですよね」

「まあそうだね」


 なんで知ってるんだろう。ミステリ作家にはその辺の情報は筒抜けなのか。


「暫くの間、一緒に帰りなさい」

「えっなんで」


 疑問を挟むなと遠藤先輩の肘が僕の脇腹を刺す。ちょっと痛い。


「嫌なら結構です」

「いやいや、びっくりしただけだもんな! な!」


 にこにこと僕を見ながら足の甲を軽く踏んでくる先輩が断るなと目で言ってくる。


「ええと、いつまでかな」


 少し考え込む野枝小道を先輩がお祈りするように見ている。部活、というか部室での思い出とか大切なものがあるんだろうなと思えば、さすがの僕だってちゃんとしようと思う。

 僕の知る文芸部なんて遠藤先輩の根城でしかないもんな。……そういや去年の部誌オール遠藤ってことは当時の三年生は居なかったか活動してなかったと考えられるわけで。二年生でたった一人で活動してたんだもんな、この人。


「もっともな質問です。……一先ず一週間。来週の月曜から金曜までの一週間、としましょうか」

「分かった。それが終わったらってことでいいのかな」

「ええ、入りましょう。この文芸部に」


 野枝小道が手を差し出してきたのでその手を掴み握手する。こいつもこいつで、何の意味があるんだろう。その思惑はまったく分からないし、僕の帰りを一週間共にすることにどれほどの価値があるか分からないけど、そんなことでいいのなら構わない。

 実は返そうと思ってて、そのタイミングを測ってるシャイガールの可能性だってあるし。まあ、ないか。返せよとはどっかで言おう。


「うっし! じゃあ頼んだぞ栗本!」


 嬉しそうに遠藤先輩が僕の肩を叩いた。


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