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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 由甫啓


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6/8

ぜーんぜん、進まんかった。馬鹿ほど眠い。書いては消してを何度もやって睡眠時間を削っただけだった。

 でもまあ、こういうの書きたいな、って指針は決まったように思う。

 僕は冒険譚がなんやかんやと好きなのだ。指輪を捨てに行くやつも北の国に生まれた夜警の私生児だって好きなのだ。

 やっぱりファンタジーですよ。普通の、王道の。変に奇を衒わないやつ。


 眠いまなこを擦りながら登校しクラスに入れば何人かちらちらと見てくる。

 なんだ、寝癖とか凄かったりする? めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、と頭を触る。良かった跳ねてない。


 席に着いたところで、爽やかな匂いと共に髪を短く刈り込んだ健康そうな男が近づいてくる。いや、クラスメイトだけども。このよく日に焼けた健康そうな……なんだっけなあって。喉元まで出てる。もう一声。


「おはよ、栗本」


 機先を制された。これで僕もまた答えざるを得ない。やるな、この──なんだ? 何某くん……昔から、名前を覚えるの苦手なんだよね。別に普通に喋るしそれなりの人間関係を自負しているけど、学校だと小説ばっかり読んでるからさ。顔は覚えてるんだ。顔は。


「う、うん。おはよう、えー仁科、くん?」

「なんだよその、歯切れの悪さはよー」


 ったくーと肩をすくめてくる。なんだ距離感近いなスポーツイケメンめ。スポーツイケメンってなんだ。

 名前が合っていたらしいことに一先ず安堵する。これが違うと非常に気まずいことになるから前途洋々と言ってもいいぐらいだろう。


「なんか、あいつらが聞いて来いって言うからさ」


 と親指を立てて肩越しに示す。

 見れば教壇の前で屯してる女子二人が手を振ってくる。仁科君が振り返さないから代わりに小さく振ってみる。


 あっ、なんか分からんがウケたらしい。爆笑してる。まあ、女子高生というのは割り箸が転べば笑う年頃だから。……やっぱ髪の毛跳ねてる? どうだろ、跳ねてないと思うけど。


 頭を撫でてる僕が余程不思議に見えたのか仁科君が困惑している。やめよ。僕は至って普通の学生なのだ。


「それで、なにが知りたいの?」


 居住まいを正す僕を怪訝に見つつも仁科君は、こほんと咳払いで仕切り直してくれる。良い奴だぜ、仁科君。聞かれても僕はいやまあ、と濁しただろう。恥ずかしいから。


「ほら、昨日の帰り際に高嶺さんと話してたろ?」

「高嶺さん?」


 誰? えっ、なんか勘違いしてない? 野枝小道はそんな名前じゃないぞ。


「ああ、美人で有名だけど態度が冷たい……ではないか。直截っていうの? ズバッとものを言うから身の程を知るべしって一部の男子が口にしたんだよ。俺たちには烏滸がましい高嶺の花だって。それが定着して高嶺さんって呼ばれてるんだよ」

「なるほどね」


 すばりじゃん。あまりにまんますぎる。等身大の自分を曝け出しすぎだろ。誰に対してもそうなのか。ちゅうか、あれだね。あだ名で呼んでるのか本名で呼んでるのか絶妙に悩むあだ名じゃん。


「で、そんな高嶺の花が栗本に連れて行かれたわけで」


 そこで言葉を切ると顔を近づけてくる。イケメンが急に顔を近づけてくるとちょっとドキッとする。顔面偏差値を落としてほしい。その気がないのにドキッとするから。なんか清涼剤の匂い纏いやがって。


「あいつらがさ、付き合ってるんじゃないかーって」

「えっ違うけど」


 僕が、野枝小道と? いやー無いですわ。初恋ですよ。それは間違いない。だけどですよ、今も愛してるってーと話が変わるってもんですぜ仁科さんよう。

 なにせ、小学も低学年の時だからね。それに、あれはきっと──。


「もうすぐ朝礼だぞー準備しろよー」


 という担任の言葉に、仁科君が顔を離す。


「急に変なこと訊いて悪いな」

「いいよ。仁科君も大変だね」

「な、自分で訊きゃいいのに。俺を介す意味が分からん」


 じゃな、と軽く手を振って席に戻る仁科君の振る舞いはちょっと流石に格好良かったので小説で使おうと心のメモ帳に書き込んだ。なお、気付けば書いたページと記憶ごと消え去り、なんか小ネタがあったはず……という実感だけを残す欠陥品である。


 その後は特に何することもなく、学校の課す諸々をこなした僕は帰りがけに隣のクラスを覗き込んだ。まあ、一応ね。


 僕は自分のクラス以外に興味がない──知り合いが居ないのは一学期だからだ──ので覗き込むという不躾な行為に若干の抵抗感を覚える人間であることを留意してもらいたい。つまりは遠藤先輩。僕にゃ難しいです。


 昇降口から遠回りになるのは承知で、さも用事があるんですよこっちにね。という僕の自然な行動は思わずぴたりと固まった。


 野枝小道。彼女はクラスの一番後ろの席で、それはいいとして机に突っ伏していた。その長い髪は余すことなく垂れ下がり机を覆い隠すように広がっている。床スレスレまで伸びた髪のカーテンから友達らしい小柄な女子高生がぬっと顔を出した。目があう。思わず驚きから目が見開いてしまう。


「えぇ……」


 あっ引っ込んだ。

 ……単純に怖かったから見なかったことにしよう。あれは話しかけるとかそういうものではない。


 本当に高嶺の花か? それは高山に咲く綺麗な華ではなくてラフレシアのような大輪の花じゃないだろうか。近付きづらいどころじゃない。先輩も流石に分かってくれるだろうから今日は帰ることにする。


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