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一通り平らげ腹も落ち着いたところで、時間を見れば十九時。程々の時間だ。
野枝小道には明日、不審者の話はする。心配は心配だから一緒に帰るのは続けるし、知っているならどういうつもりなのか、知らないのならどうするのか話をする。
これらを踏まえて明日は行動する。悩むのは明日だ。
「んー、そろそろかなぁ」
柚子姉には知り合いとご飯食べてくると連絡してあるもののぼちぼち心配のメッセージなり電話が掛かってきそうだ。
柚子姉の心配しいは昔からで、あまり遅くなるのも良くないしぼちぼち帰らないと。
「なあ、身近なやつの一大事も大事だけどよ。あっちの方はどうなんだよ」
「あっちって?」
「こないだ書いてたやつだよ」
あー、そうね。何があろうと僕は作家志望で学生だ。物書きするのと勉学を秤にかけて、いつだって小説を選ぶ男。それが僕だ。少なくともそうありたい。
「まあ順調だよ。ペースを維持できるなら書き終わると思うし、見直しだって木金には出来るんじゃないかな」
金髪頭はふうん、とつまらなそうにストローを咥えてぶくぶくとやる。炭酸に混じって大きな気泡がぼこぼこと弾ける。きたねえ。
「アクシデントに意識がいって書けねえなんてなるなよ。それはそれだからな」
「心配してくれるの?」
「お前よりか大人なんでね」
それはそうだ。大学生だし。でもまあ言ってしまえば大学何年にしろ年の差なんて大きくても五歳に収まる。少なきゃ三歳差だ。
そこにどれほどの差があるのかは分からないけど、僕よりかは頼れる大人というやつにあたるだろう。
「あれって、その作家先生に読ませるんだろ」
「うん。鼻明かすぞ、とか思ったりしてたけど、現役作家のダメ出しって価値凄いよな多分とか思ってるのがここ最近だね」
「その後は?」
後、とは?
怪訝に首を捻れば、顔を顰めて金髪頭は溜め息を吐く。
「書き上がったやつ、どっかの賞に投げんのか? それともどっかに投稿すんの?」
「それ、あんまり考えてないんだよね。読んでもらったら、どうしよっかな。直近に無いなら投稿しちゃってもいいか」
「そんならせっかくだから読ませろよ」
「えぇ……気が進まないんだけど」
「ばっか、こういうのはな、無駄に堂々と胸張って読ませりゃいいんだよ。そんで感想聞いて、思った通りの反応を得れてるのか確認しておけよ」
ごもっとも……。
自分の著作なんで書き終わって一週間は読みたくない。もう書きたくねえ、苦しい嫌だなぁとか思いながら書いたものの見直しなんて正直気が進まない。
幾らか時間経って他人事ぐらいの感覚になってからが見直しの本番なのだ。どっかの偉い人もそんなこと言ってた気がするし。
「俺が読む分にはついでに誤字脱字指摘してやっから」
「……まあ、そう言ってくれるなら帰ったら送るよ」
「お前ネット投稿のお作法みたいなのは知ってんの?」
お作法? 特別にそんなものが設けられてたっけ。
なんかどこかで発表あるのかな……。
「ある程度の文の塊で一行空ける、だとかそういうやつ」
「あー。あれかぁ」
投稿ジャンルでPVの差が激しいとは聞いてたけど、あの文化いまいち分からなくて見なかったことにしてるんだよな。
「一見意味分からねーやつだがよ。スマホ、パソコンで表示が違えから空けないと読み難くなるんだよな」
「それって、書き終わった文を改行してけってことでしょ? 段落ごと?」
「人による。人によるんだよな、あれ。俺としちゃ段落でいいと思うけどな……まあ実際上げる時に調べろ」
知らないんかい。いいけど、僕も知らないし。
「あと投稿時間とか曜日でPVは結構違ったりするんだが……ま、しゃらくせえから気にするだけ損だと俺は思ってる」
「なんかあれだっけ、完結するとPVは増えるとか一日に二回アップを続けるとかが強いって聞いた気もする」
「それって作家の考えることかって思わねえ? 昨今の作家は自分のプロデュースまでしなきゃなんねえのはどうなんだよな。俺はよー作家になるにあたってなにをすりゃいいんだ? いや書くにゃ書く。書き終わって、送って、結果が出るまでの間にまた書いてそんでなんだよなSNSやれってかぁ? いや書けよってえ話でーくっそぅ」
「えっなに、怖いんだけど」
ぶつぶつと言いながら頭を掻いてテーブルに頭をゴンと叩きつける金髪頭。
通り掛かりの店員がギョッととして僕を見る。
見るな。見るならこの金髪頭を見ろ。……よく見たら生え際黒いじゃん。プリン頭って呼ぶのも近いな。
「あーいってえ。やーたまにはこうやってスッキリしないとなぁ」
頭を摩りながら金髪頭は身を起こす。
「いや悪いし……てか僕チャリだし。気持ちだけもらっとくよ」
「ならいいか、気を付けて帰れよ」
「それじゃ。キリのいいとこまで送るので何卒ね」
さっきからスマホの主張が激しいんだよな。
柚子姉からの『門限!』とだけ書かれたメッセをちらりと見つつ席を立つ。
すぐ帰ります、っと。
時間が経てば恐ろしく思えたあの男も霞むもので、というかよくよく考えれば僕を気遣っていたとも取れるし? 野枝小道の何が危険やねんという疑問は残るけど、まあ興味があるのは僕ではないのは確かだろう。
よし。怖くない。ちゅうか自転車だし。
「おい!」
振り返れば金髪頭が立ち上がって近づいてくる。
別に見送りなんて要らないのに。あったけえな……。一人、小説に向き合う孤独に沁みるぜ。
「金」
「あっはい」




