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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 田甫 啓
起承転結の「しょー」だな!

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 共通の目的をもって僕を打倒した後、約束事により決められた通り、二人で帰宅の途についた。

 これから一週間は野枝小道と下校を共にする。


 ……まあ、もしかしたら登下校になるわけだけど。

 野枝小道の気まぐれ一つで僕の登下校の時間は変わるようになっているのは如何なものか。

 いくら部のため──しかも週二しか行ってない──とはいえなにか僕にもメリットがあるようにしなくてはと授業の間に考えていた。小説のことを考えずにだ。


 校門を越えた今、まさに暖めた考えを表に出す時だ。

 この場で相応しい質問……。

 それは創作の質問以外にない。

 なんといっても現役作家だ。売れっ子だ。新鋭気鋭の作家先生だ。

 打てば響く答えってやつが貰えるのは間違いない。


 ということで、

「野枝小道せんせー、質問があるんですけど」

「構いませんが」

 じろり、と眼光をむけてくる。無駄なことを言ってくれるなよ、という圧がある。こわみがある。


 これはこいつが作家だからだ。

 僕は知らないうちに現役作家に対して気遅れを感じているのだろう。

 こいつは作家。僕はアマ。といったカテゴライズに圧を感じているのだ。

 同級生の、それも女子にビビってるわけじゃない。

 作家にビビってるのだ。

 何故なら僕は作家じゃないから。


 いや、作家ではある。小説を書くのなら須らく作家であるし、その上で商業作家に僕はなりたいのだ。

 沢山の人に読まれてえよ僕は……。それで生活することに憧れしかない。


「やっぱり、作家になるのには流行りっていうかトレンドは抑えた方がいいのかな」

 いつだってこれは気になってるし、気にしてる。読んでるとちょっと自分でも書いてみようかななんて思うし。


「まずは作品を生み出すところからだと思いますが。自分の作品を幾つも手掛けて、やっとその応用とするのが賢いと私は思いますね」


 それはそうかも……。

 人に言われて理があるなと思ったら、そっと受け入れる素直な奴。それが僕なのだ。

 長いものに巻かれるともいう。


 野枝小道は長い指を顎に当て、少し考える。


「あなたの言うところのトレンドというのが、ウェブだったりライトノベルの現状というなら止めた方がいいと思いますね。何を無理してレッドオーシャンに飛び込む必要があるんですか? 誰もが書いているジャンルに飛び込んで勝ち上がれるなら、どこの賞レースでも勝ててるはずですから」


 つらつらと、澱みなく吐き出された言葉はきっと純粋にただそう思っているのだろうと知れて。

 それでもそうは行かないから、人気のジャンルは賑わうのだ。誰もが手に取るコンテンツであるからして。

 ブルーオーシャンに来る人は、読み手にしろ書き手にしろどうしたって少ないわけだし。


「そうかもだけど、やっぱり人気のジャンルってのはPVが稼げるわけだよ。読んでもらうのがまず大前提じゃないかなって」


「そのぴーぶいが何か知りませんけど、沢山の小説が陳列されてる中で貴方だけの独自性が出せると言うならいいんじゃないですか? 埋没して名前も覚えられず、読んだ後に『アレみたいだね』『なんとかとソックリ』何て言われたら私は不快ですが」


 目の前に居たら手が出ますよ手が、と言いながら拳を突き出し腕を振り回す。

 当たりそうで嫌だし、見られたら僕まで恥ずかしいしやめてほしい。

 これが、あれだろうか。羞恥心を捨てよ創作者たるもの自らの裸を晒し出す気概を持て的なあれか? ……ちょっと肩とか回しちゃおっかな。ほら、パソコンに向かってる時間も長くて肩が、ね?


「今のところそのつもりは無いですが、ライトノベル、キャラクター小説に鞍替えしたとして、流行りのものに乗っかるぐらいならどんなに苦しくても意地でも流行りを作りだしますよ私は」


 右肩、左肩を回していたら目の前に拳を突き出された。

 ひょいと躱わす。

 こいつ、あまりにへろへろパンチすぎないか。


「私の話を聞いていましたか?」

「勿論」

「大切なことを言いますが、トレンドがどうジャンルがどうのとくだらないことを考える前に自分が書きたいものを書く、それに尽きます。書きたくないものを書くのは筆が重くなりますし、必然やる気もすり減っていくというものです」

「野枝先生でもそんなことあるんだ」


 へー、なんか淡々と何でもサクサク書いてそうなイメージあるんだけど。

「私も所詮は新人作家ですからね。後書き、嫌いなんですよ。そんなものに頁数を使うなら私の小説の行を増せろと常思いますね」



 僕には関係のない悩みだ。後書きとか書く機会があったら沢山書いちゃうけどな……。前書きでもいい。あんまり見かけないけど。


「そういえば私の鼻を明かす作品は順調なんですか?」

「結構順調かな。金曜には脱稿出来そうかな」

「作家を志望する以上そのまま邁進するといいでしょう。私の鼻を明かせるかは知りませんが」


 まあ、見ておけよ。自信なら一端だぜ。

 この自信てやつが小説に対してなのか、ペースの良さから来てるのが分からないのが不安でしかたないけども。


 そんな僕の不安を見てとったのか野枝小道は鼻をならす。

「自分の作品が一番面白い。その自負を持ちなさい」


 上から言い放つ野枝小道に、今に見とけよとやる気を漲らす。

 ふん、とまた鼻を鳴らすと、野枝小道はポケットからティッシュを取り出して鼻をかむ。

 すひー、と気の抜ける音を立てる姿に、やる気が散漫しそうになる。もっとシャンとしてくれ。一応僕的には超える壁とか目標としてるんだから。


「私に読ませるというからには必ず最善の、最高の小説を出すように。そのうえでつまらなかったと言わせていただきましょう」

「なんでだよ!?」

「万万が一にも面白いと感じたら悔しいので。全ての小説が私より少し下であれ、そう思っていまして」


 けらけら笑う姿に思わず頬が引きつる。

 こいつめ、ぜってえ鼻を明かしてやる。


「あ、以前にも言いましたが論外としか言いようがないものを見せた時には」

 とん、と前に一歩飛んで野枝小道は振り返る。

 髪が宙にふわりと浮いて陽光を反射させる。

 澄まし顔で、こちらを見定めるような鋭い目で僕を見る。


「見せた時には?」

「折ってもらうほかないでしょうね、筆を」


 ……図書室の時のか。

 心構えがもう違う。ビビったりは──しないとは言わないけど、書くことに怯えはない。

 見とけよと気持ちを込めて笑い返した。


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