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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 田甫 啓
起承転結の「しょー」だな!

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「なんで俺が呆れられてるのか分からないんだが……」

「や、ごめん。なんか、つい」

 薄っすら寝不足な上に体を動かしてテンションがおかしい。判断力の欠如たるや生半じゃないぜ。


 仁科くんはそんな僕を気にせず相手してくれる……。持つべきものは友ってこういう時に言うんだろうな。

 違うか。これ、一方的に都合いいもんな……。


「うーん。なんかさ栗本、明るくなったよな」

「そうかな」

 小説の進みがいいからじゃないかな、と思うけど。


「最近ねえ」

 確かに、サイン会から随分と色々あったような気もする。

 感じていた停滞感というか、何を書きたいか決まったからとか色々ある気もする。


 野枝小道に会う前と今で大きく違うのは、焦燥感だと思う。

 野枝小道という、同い年の作家の存在は僕の拠り所である時間がそう多くあるものではないと感じて、手をこまねいていて良いタイミングなんてどこにも無いと気付いて。


 結局、書きたいから書くってだけでシンプル極まりないんだよな。

 悩みようがない、というか……。


「まあそうやって考え込むのは変わらねえなーとは思うけどな」

「ああ、ごめん。僕の悪い癖」

「それ、中学の時もたまーに言ってたよな」

 いやあ、ドラマ好きで……。

 うん? 今なんて?

 高校入って一学期も経っていない──そんな浅い関係だったのでは……?


「あれ、同じクラスだったことって」

「中学の時、三年間同じだったろ。どうしたんだ?」


 きゅっと胃が痛い。というか居心地悪すぎる。

 顔青くなってないか、大丈夫か?

 僕は何を覚えているんだ……?

 こんなに友達甲斐のない奴を気に掛けてくれる仁科くんはなんなんだ? 聖人君子もかくやじゃないか!


 それに引き換え僕は……!

 いつも小説書くか読むかばっかりで、人を書こうってのに人を見もしないで!

 畜生っそうやって人間関係を台無しにするんだ!

 親しくしてくれる人を傷つけかねない、直すこともできない。僕はいつも失敗ばかり。


 四つん這いになり思わず床を叩く。

「誰も僕を、愛さない……」

 愛すわけがない……!

 くそう、見覚えあるとか名前が出ないとか人として終わり遊ばせてる……!


 まあ? 僕の人柄はさておき、小説が愛されれば、まあ? いいっていうか?

 く、苦しい。自己肯定感がしょぼしょぼになっていく。自己弁護不可。誰が悪いかって僕の顔しか思い浮かばん。


「おい、急にどうした!?」

 そんな風に僕を気に掛ける仁科くんの目には憐れみも同情もなく、ただ心配が、慮る映るばかりだった。

 な、泣きそう。



「てことがあったんですよ」

 僕の過ちを黙って聞いていた遠藤先輩は判決を判事が如く告げる。

「くりもとー」

「はい」

「お前はもうちょい社会に生きろ。三年同じクラスで覚えてないのはもう、犯罪だろ」

 そうか、僕は罪を犯していたのか。

 だけど、納得だ。流石に三年同じクラスなら普通覚える。僕は普通ではなかったのだ。


「確かに、それは有罪ですよね……」


 深い後悔と共に息を吐き、思い浮かべるのはもう一人の自分。

 酷い奴だな、僕!

 許せねえよ!

 義憤から思わず固く拳を握り、殴り飛ばされるもう一人の僕。当たり前だけど、そんなことでは気分は晴れない。


 あと僕よりテンション下がるのは仁科くんなのでこの件はおくびにも出すまい。

 知られたらテン下げどころではない。世を儚みかねんショックを受けるに違いない。


 中学の時の仁科くん。どんなだっただろう。

 もしかして距離感近いな……と感じたのは本当に近かった可能性もある。

 マイフレンズ、マイブラザー仁科……。


「それで、茶番は終わりましたか?」

「ああ、終わったぞ野枝せんせー!」

「あの、先輩からそう言われるのは恥ずかしさが上回るので野枝でいいです」


 姦しくしてる遠藤先輩と野枝小道をちらりと見る。


 茶番て。お前だって僕のこと覚えてないくせに! と思うけど同じクラスでもないし、小学校の時だしね。仕方ないね。


 でもこいつ、登場人物の名前は何で決めてるの? という質問に最後まで決めない時もありますね。とか返す奴だし人のこと興味ないと思う……。


「なあ、たかねんってどうだ?」

「いやです」

「えー、愛称がいい。これから仲良く文芸部するわけだし」

「別弾今のままで構わないのですが?」


 なんかちょっとあほっぽい会話してる。

 きゃっきゃしてるの見てたらどうでも良くなってくるな。

 何があっても僕には小説があるのだ。

 小説は裏切らない。僕が書くのをやめて裏切ることがあるだけだ。


「うーん、しょーこしょーこ。……しょーこってどう書くんだ?」

「翔ける子ですね」

「お? あれじゃん、蔵の前で死にそうな良い名前だな!」

「はい?」


 あっそれ知ってるやつだ。

 物語に於いて明確な敵対じゃないというか、ある種の善意による非道って面白いからいつか書いてみたい。


「遠藤先輩の言う訳のわからんやつは大抵アニメや漫画だっりするから間に受ける必要はないよ」

 そっと出した助け舟に野枝小道がふむ、と頷く。

「なるほど、分かりました」


「おい栗本! なんだそれは! 敬いが足りないぞ!」

 腕を振り上げる遠藤先輩をまあまあ、と落ち着かせていると不意に野枝小道が、

「そういえば、あなた。栗本なんと言うんですか?」

「僕? 栗本香介。香り、助けるだね」

「薫りですか。良い名前ですね。天狼星……豹頭の王良いですよね」


 野枝小道がしみじみと言ったのに「分かるぞ!」と遠藤先輩がうんうんと頷く。


「あー違うよ。草冠じゃなくて、香車の香り。あと、あれ読んだことないんだ。流石に百巻越えはちょっと……」


 僕が頬を掻きながら言うと遠藤先輩と野枝小道は眉を顰め肩を寄せる。

 なんだよ、仲良いじゃん。

「信じられませんね。名作ですよ、あれは」

「全くだな……。私の初恋だぞイシュトは」

 ひそひそと攻撃ならぬ口撃するのやめてくれない?


 無理矢理入部したら続かないだろうし、とか思ってたけどこれなら問題なさそうで良かったよとは思うけど肩身狭いのやだな……。


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