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野枝小道と別れて、僕は体育館にいた。
誰かに呼び出された──その場合、おおよそ告白かカツアゲの二択──とかそういうイベントではない。
一限が体育は誰が得をするんだろうね。
軽く伸びをしながら別れ際を思い返す。
昇降口で別れてからはあっさりとしたもので、と言うには野枝小道の一言が余計だった。
「では帰りもよろしくお願いしますね。部室にこちらから伺うので」
「えっなに? なんの話、しょーちゃん私は?」
とぴょんぴょん跳ねる小さいのに睨まれたり絡まれたりして疲れた。
スマホにメッセージを送りなさいよと思う。睨まれるから。
……ちゅうか、あの小さいのと登校すればよかったのでは?
作家の考えはわからん。
うーん、謎だ。
「まあいいけどさ」
というか僕は彼女に何かしただろうか。言われなき強い当たりは恐ろしいぜ……。
違うけど、ああいうのも暴力系ヒロイン的なやつだったりするのかな。違うか。違うかも。
手乗りの虎とかバット持って威嚇する小さいのとか、小説漫画問わず居るけど、そういうのにあるヒロインみ足りなそうだもんな……。
僕が小説にそういうキャラクターを出す時はしっかりと可愛げを持たせよう。
睨むだけじゃ駄目だよ。怖いもん。
朝の出来事を振り払う。
ついで、ぐっと体を逸らし、肩を回す。
いやしかし、一限体育は百歩譲って良しとして月曜だぞ。何を考えるんだ……?
土日で癒された体を再度酷使するなんてあんまりだ。
あとあれだよ、制服に着替えてすぐにまた着替えるのってちょっと二度手間感ない? 僕はあると思う。
手に持ったバドミントンのラケットを軽く振る。
緩く体をほぐし終わった僕に仁科くんが言う。
「栗本ー行くぞー」
「はいよー」
仁科くんが軽くシャトルを飛ばしてくる。
それをやんわりと返す。
体育ってどうして二人一組を作りたがるんだろう。
たまには、三人一組とか四人一組をつくったっていいと思うんだけど。なにするかはさておきさ。
あぶれたらやだなぁ、と思うものの来るもの拒まず追いはせずのスタンスである僕に率先して組もうぜ! と言ってくれた仁科くんに感謝しかない。
自分から組もうぜ! って言うの恥ずかしくない? 僕だけか?
「仁科くんさー高み……っじゃない! 高嶺さんのっ」
「おう」
野枝小道って口にしたわけじゃないし『ね』でも『みね』でもどっちでもいいだろ、ばか!
喋りながらもぼんやり続くラリーは決して早いものじゃない。
「あのっ、 ちーさいっ!」
「小さい?」
早くはないけど、走りながらとか体動かしながら喋るの苦手なんだよね。
走りながら喋れるやつは多分肺が二つあるね。まああるんだけど。
僕は何故、今話題を切り出した……?
仁科くん、すまない。僕は喋るのをやめるよ。ごめんね……。
苦しそうな喋り方に察していたらしい仁科くんは、
「まああとでなー?」
と返して、言葉のラリーをそっとやめてくれる。
気遣いが出来る男だぜ、仁科くん。助かる。
だけど、それはそれとしてラリー早くなってない? 気のせい? 違うよね、ギア上がってるよね? ちょっと、早いのがッ苦しい!
時間いっぱい、取れるぎりぎりの速さを維持され続けて、へとへとの体で体育館の壁に背を預ける。
ひー、あっつい。
なんだなんだ、仁科くんさぁ攻めっけが強すぎやしないかい。
「やー楽しかったな!」
とにこにこで横に腰を下ろす仁科くん。笑顔が憎い。
楽しくないよ! と言いたいがちょっと楽しかったから許す。
「それで何聞きたいんだ? ちーさい? とか言ってたろ」
「ああうん。高嶺さんのボディガードみたいな……」
「それは笹森さんだな」
笹森さん。こと、さっちゃん。ボディガードで伝わるんだ。
もしかしたら本当にそうなのかもしれないしな。
堂に入るものがあったように思うし。
「笹森さんは高嶺さんを守ってるな」
「うん」
横で胡座をかく仁科くんは腕を組みながらうんうんと頷いている。
えっそんだけ?
「他には……?」
「笹森さんなぁ、小さいよな」
「えっ、まあそうだね」
なんだ、ツッコミ待ちか? そうなのか?
僕の疑惑に気付いたのか、申し訳なさそうに仁科くんが笑う。
「や、揶揄ったわけじゃなくてさ。笹森さんって気付いたら高嶺さんと仲良し──というよりはべったりって感じだったはずだぞ。理由は知らないけど、それがどうかしたのか?」
「どうしたのと聞かれると特にどうもしないんだけど」
ふうん? と首を傾げた仁科くんがはたと手を打ち口を開く。
「……もしかして、高嶺さんじゃなくて笹森さん狙いか? 笹森さんも結構人気あるらしいから狙ってるなら──」
「違う狙ってない少なくとも僕は睨んでくる人は嫌だよ」
僕がいつ恋バナを振った? 学生の本分は勉強だぞ!
僕は小説を書くけどな! 勉強二、小説八だ。テストが怖いぜ。
まあただ、優しい人がいいよ。僕の小説の問題点を優しく指摘して、結果が振るわなかった時にも、もうちょっとだったねと支えてくれる人がいいよね。
具体的には常に側で支えてくれると嬉しいかもしれない。
そうやってだらだらと小説家になれずとも、気付けば彼女に養われながら小説にもならない文字を書くだけの存在になっていくのだ。
そうしてふと鏡に映る自分を見た時、現状に甘えて小説を書かない理由を掻き集めている姿が……。
──なんて、恐ろしいことを考えさせるんだ仁科くん。
「仁科くん、それはあんまりだよ」
「どうした……?」
変なことを考えさせた仁科くんが悪かろうと思うのでやれやれと首を振った。




