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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 田甫 啓
起承転結の「しょー」だな!

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 眠い。

 筆が乗るままに書いていたもんだからすっかり夜更かししてしまっている。


 金土日と、なんやかんや寝る時間を削って書いたのもあってそれなりに進んだのは褒められていいと思う。


 休みたい……。休んで書いてたい。

 なんか、手が良く動くんだ。

 パソコンの前に座れば座った分だけキーが叩ける。文章が綴られる。


 あれこれ悩んでたのが不思議なくらいだ。

 重くて動かせないと思っていたのに、一度動き出したら楽、みたいなそんな感じがある。


 まあ、内容は……どうだろう? 不安と自信が半々で、何が正しいかも分からん。


 だけど小説にしろなんにしろ、そういうもんだと思う。

 作者が面白いと考えるのは世間一般での評価に繋がるものじゃないしね。

 そうじゃなかったら、作者はそんなことまで考えてないよ、なんて言葉が一人歩きすることもないだろうし。


 いつもより早く家を出て向かうのは駅前の郵便局だ。

 なんで? と言われても野枝小道が指定したのだからまあ、仕方ない。


 僕としても遠回りというほど遠回りにならない場所であるし、構わないんだけど家出るの早いのは敵わないぜ。


 十分は早く学校着きそうなんだよな。十分あったら四百字詰くらい簡単に埋められる気がする。

 

 にしても郵便局で待ち合わせなんて何か用事でもあったのかな。

 出来た原稿を送りにでも来たんだろうか。

 古風だじゃん、野枝小道。

 現代の作家が原稿をどうしてるかなんて知らないけども。


「お待たせしました」

 声の方を見れば野枝小道だ。噂をすれば影だ。使い方違う気がする。わからん。


「待ってないよ」

「ええ、そうでしょうね。貴方の背中を遠くに見ながら歩いてきたので」

「それなら声掛けてよ」

 僕なら多分掛けないけど。


「自分がやりもしないことを他者に求めるのは少し虫が良すぎるのではないですか?」

「まあ、そうかな……。いや待って、野枝先生は僕が一緒に登校しましょうって前日に言ったら対応してくれるのか?」

「私のは依頼があって成り立つものですが、あなたのはなんです……?」

 確かに……なんで僕は無謀にも素手掴みかかるようなことを……?


「まあいいです。早く行きますよ。私はこれで小中高と皆勤賞を貫いてきてるので」

「言外に僕は取れてないみたいに聞こえるんだけど」

 これでも僕だって中学校からこの方無遅刻無欠席だ。舐めないでほしい。


 すたすた歩き出す野枝小道を追いかけて、ふと思う。横並びになるべきなのか、否か。

 これは存外重大な問題だ。これ一つで今後の明暗が別れるといっても過言じゃない。

 気さくに横に並べば、「そこまで仲良くありませんよね?」とか「噂されたら恥ずかしいので近寄らないでください」と言われるかもしれない。

 かといって後ろを歩けば「人の後ろ姿をじろじろと……あまり良い趣味とは言えませんね」とか言ってくるかもしれない。


 人間関係っていうのはこういう機微から始まるのだ。


「……ぽかんと口を開けて、碌でもないことを考えているのでしょうけど喋りづらいので近くに寄りなさい。それとも甲斐甲斐しく荷物でも持ってくださるので?」

「碌でもないことはないよ。小説について、ね?」 

「嘘ですね」


 なんでこう当てられるんだ? 僕ってそんなに顔に出るんだろうか。それとも、野枝小道の観察眼的な奴が飛び抜けているのかもしれない。


「虚構で身銭を得る以上はもっと巧みな嘘を吐くことですね」

「嘘じゃないけどね。そう言うならそーいうことにしておくよ」


 引き下がりつつも野枝小道の横に並ぶ。

 ちらりと覗いた横顔には今日も今日とて怜悧さが滲み出ている。綺麗とか美人と言うべきだろう。

 僕の知るこいつはもうちょっと隙があったと思うんだけど、三日会わずば刮目せよって言うしな。思い描く小学生の姿はそれでも順当に成長したのだろうと窺わせる。

 確実に言えるのは昔は舌鋒鋭くって感じじゃなかったことぐらいか。


「クマ」

「くま? あー、被害多いとか聞くよね」


 野枝小道は眉を顰めて、指を自分の目の下に持っていく。


「隈です。目の隈。随分と夜更かしをしているみたいですね。それに見合う成果はあったんですか?」

「ああ、そっちね。まあ割と? 良いペースじゃないかな。このまま行ければ今週には書き終わる、かも?」

「ふうん。思ったよりは早いですね」


 散発的な会話を続けながら歩くうち、ちらほらと自分たちと同じ学生服を見掛けはじめる。

 指とか差されないかな。思えば仁科君を介して聞かれる高嶺の花さんなんだよなこいつ。噂されたら恥ずかしいし……とか言うのは僕の立場だったのかもしれない。


 ぼんやりと益体もないことを考えていて、野枝小道が足を止めてるのに遅れて気づいた。


「何かあった?」

「いえ。……あなた、だいぶ……その、鈍いですね。と言うよりは興味がない、か」


 なんの話だ? と首を傾げる僕にちらりと目をやって、野枝小道はなんでもないですよと言わんばかりにずんずん歩き出す。


「変なやつ」

「聞こえてますよ」


 へへ、すいやせんと軽く頭を下げながら横につくと目の前を黒いのが横切った。

 僕の胸元くらいの背丈の女子だ。

 いきなりだからぶつかりそうになって、思わずつんのめる。

「あっぶな!」

「ちょっと、しょーちゃん! こいつ誰!?」

 往来で大声出して指さすのやめてほしい。僕までそういう奴と思われてしまう。


「おはよう。みっちゃん」

 野枝小道が言えば、にこりとみっちゃん? は微笑む。

「うん、おはよう!」

「おはよう、みっちゃんさん」

「は?」

 めちゃくちゃ睨んでくるショートカットの小柄な女子に見覚えあるよなーと思う。なんだっけ。


 最初が肝心かなって思ったんだけど違ったみたいだし。

 いやね、寝不足だから正常な判断が出来なかったんだよ助けて。


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