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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 田甫 啓
起承転結の「しょー」だな!

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 俺は小説家になる。

 そう決めて、そう望んで選んできた。

 俺が誰かって? いいだろ誰でもさ。名前知らねえんだからお互い様ってことで。


 小説家になるなんて思い立ったのは中学校の頃だ。

 俺はこれで活発な子供だったもんで、運動部に入ってたりもしてたんだけど、サクッと辞めた。

 なんだったかな、ダークエルフ物語つって分かるか知らねえけど、ネシャン・サーガとかゲド戦記とか、海外の児童文学を夏休みの読書感想文に選んだのが事の始まりだった。


 本なんて何が面白いんだ?

 教科書だけで勘弁だぜーなんて思ってた。


 面白えの。

 えっ俺ってこんなに面白いものを今まで触れてなかったのかって絶望するくらい惹きつけられた。


 無我夢中に読み漁った。

 合う合わないは勿論ある。

 だけど、その殆どが俺の知らない世界を見せてくれて、それに魅せられた。

 読んでも読みたりなかった。


 しかも、あろうことか毎年本は新しいのが出ていて読み切るなんて当たり前に出来やしないくらいで。


 気付いたらその憧れが、俺だったらこうするって妄想に創作の火を点けた。


 あー駄目だわこれ。書かずにいられねえって。

 小説なんて書いたこともなかったのに書き出したら止まらなくて、時間がとにかく足りねーってんで部活辞めたんだよな。

 勢いだけのバカなわけよ俺はさ。


 高校に入学して、部活には入らなかった。

 とにかく、書いていたかったからな。

 自分の夢ってやつを堂々と口にする俺は多分、学校生活に、馴染みきれてなくて少し浮いていた。

 いや浮ついていたんだろうな。


 作家になるって夢を全力で頑張ってる自分に浮かれてた。

 高一の二学期くらいだったか、彼女ができたのは。

 俺の夢を笑ったりしないし、凄いじゃんと言ってくれる彼女が。

 思えば出来過ぎってもんだ。

 それか、言っちゃ悪いが見る目がなかったよなあいつ。


「ねー、きいてるー?」

「んあ、ごめん。なんだっけ」

 そんな俺を好きだと言う彼女は、望外のものだったと思う。

 学生生活を過ごす上では。


 だけどまあ、俺は普通じゃなかったってわけよ。


「結果どうだったん?」

「こないだ送ったやつは一次抜けてたから、今回のはそりゃまあ二次だろ」

「おーおー、すげえ自信だねえ」

 そうやって横で笑う彼女が本当に笑っていたわけじゃないって気付けないほどに周りを見ちゃいなかった。


「いけると思ったんだけどなあ」

「なにが?」

「ほらこないだ聞いてたろ。結果出たんだけど一次止まりでさー」

「あー、残念だったね」

「もっとラノベっぽい流行りを押さえねえと上手くいかねえのかな」

「そうなんじゃんー?」


 会話できてると思っていたんだけどなあ。

 別に気にしちゃいない。

 ただ悪いことしたよなって思うだけだ。


「君はさー」

「うん?」

「つまんねー奴だよ」

「は? なに急に? 読んだことないじゃん」

 俺の言葉に呆れて首を振る彼女は本当に、心の底から興味なく俺を見据えてた。

「ほらそれだよ。わたしゃ担当へんしゅーかっちゅうの。何でもかんでも上の空。私の話に相槌打ったと思ったらやれ小説がーだよ。おめーはなんなんだーってキレるラインも遥か向こうだよ」


 あれは言葉に詰まったね。弁舌で売ってるわけじゃないから言葉に詰まったって構わないんだけどな。あの時の俺はそりゃもう、びっくりして、まーそりゃそうだと思ってた。

 なんで横に居てくれてたんだろうな。

 俺を見捨てず、三年間傍にいたあいつの顔より、モニターに映った自分の小説のほうを余程よく見ていたし、大切にしてんだから。


「ねえ、君ってさいつまでそれやってんの」

「それってなんだよ」

「しょーせつ」

 ま、俺は馬鹿だから人との距離を測る暇あったら小説に専念するような奴なもんで。

「作家になるまでだろ」


「作家、作家ねえ。大学は? もう受験だよ分かってる? 一緒のとこ行くかーって聞いた時なんて言ったか覚えてる? 覚えてないでしょ、いいよ。君はそーいう奴だから」


 押し殺した感情が(ウチ)からジワジワと滲み出すようでめちゃくちゃ怖かった。

 こういう怒り方もあるのかって考えてた自分に呆れもした。


「このまま作家になれなかったら、どうすんの? 勉強そこそこ出来るのは知ってるけどさ、滑り止めで大学入ったとしてさ、ずーっとそれ続けんの? 大学四年間でなれなかったら? 次は? いつまで続けるつもりなん?」


 なれる。そう言い切るには三年間の俺をこいつは知っていて、賞レースに打ち勝つほどの力がないのも──少なくとも今は──知っていて。

 そんな彼女の言葉はまあ深々刺さった。


「君がさ、私のこと本当は好きじゃないんだろーなーとは分かってたんだ」

「そんなこと」

「いいやあるね。おおありだよ。だって私と二人でいる時より部屋でパソコンカタカタやってる時の方が目きらきらしてるもん。きらっきらだよ。そんな風に夢追いかけてんのかっけーなんて思った私の落ち度だよ」


 あいつのことをちゃんと見たのは、多分あの時が初めてだった。

 こんなこと言う奴だったんだ、俺のことちゃんと好きだったんだとか、今更思った。

 今更思って、今その縁が手元から溢れ落ちたんだなって気がついた。

 おっせーよな俺馬鹿だからさ。なーんも気付いてなかった。


「色々言いましたが、言いたいことは一つだけだよ。別れましょー。まあ、付き合ってるなんて思っていたのは私だけかもですが」

「そんなことない」

「へいへい、作家せんせーよー。同じ言葉二回も使っちゃ商売上がったりじゃん? 流石にいつまでも夢追いかける人を支えていこーなんて思えるほど酔狂じゃ……まあ、高校三年間、うら若き乙女の? 三年を費やしたわけですけどね?」


 こんときになって、俺こいつのこと好きだったんだって気付いたわけだ。

 今更、何言ってんだよ馬鹿って話だけどな。


「大学」

「なにさ」

「二年だけ、待ってくれないか」

「……なんで」

「大学二年が終わるまでに、作家になる。お前が待っててくれたのが無駄じゃなかったって」

「かーっ、何言ってるか分かってる? そーとー情けねーよそれ。それに、なに今更必死になっちゃってさ。そんな風に縋り付くなら、最初っからちゃんと私を愛せよ馬鹿たれーッ!」


 頬を思いっきり引っ叩いて駆け出した彼女を、追いかけもせず立ち竦んで。

 離れたところで、彼女が叫ぶ。


「わたしはー! 三ッ年をー! ドブに捨てたッ! ままじゃーいやなので! 待ってやるよーッ! ぶわぁーっか!」


 知らず、泣いてた俺はきっとあいつのほうが痛いだろうなーなんて思って。

 大学も一年。

 自分の好きなジャンルの、昨今の流行りを無視した作品はこれが最後と見定めて小説を書いてる。


 あいつが、金髪の君が見てみたいーとか言ってたのを思い出して染めた自分の姿に見慣れなさを覚えていた頃、俺みたいな目をしたバカをみた。


 ファミレスなんかで書いて作家気取りかー? なんて煽る心も多分にあったけどな。

 俺は高校じゃなれなかったが、同じような夢に駆り立てられたバカを見て応援したくなるのはまあ、仕方ないだろ?


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