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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 田甫 啓
起承転結の「しょー」だな!

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 晩御飯も食べ終えて、居間で一息吐きながら考える。

 

 見知らぬ地を一人旅するのは同い年ほどの男だ。

 それはきっと大人からは少年とまだ呼ばれるような相貌で、大人になりきれていない。

 もしかしたら、どこかあどけなさも残っているかもしれない。


 夢を叶える為に故郷を飛び出して一人旅に出た。

 その夢を馬鹿だと笑われたり、詰られても決して投げ出さない強さが──向こう見ずさだとか若さだとか──ある。

 それは侮られていいものじゃないし、誰もが一度は胸に秘めたもののはずだ。

 憧れ?

 そうかも、多分そういうやつだ。


 大人になるっていうのが夢を諦めることなら、まだ大人じゃないしきっと大人になることを認められない足掻きなのかもしれない。

 なんだっけ、ピーターパン症候群……ではないか。

 故郷を後にして、嗤う人や共感を示す人が居て、小馬鹿にした人の瞳にだってもしかすると子供の頃の憧憬が浮かんでいる。誰だって胸に抱いた色んな夢ってやつを、諦めずに追いかける主人公の前途が眩しく映って──みたいなの良いよね。


 応援する人が、傷つく主人公を気遣ってもう諦めろと声を掛けて傷ついたりする、アリか? アリじゃん。手垢ついてそうだけど。

 でもまあ手垢が付くほど使われた展開は決して悪いものってわけじゃない。

 来て欲しいところで、望んだ展開があって、そこに滲む苦さだとか後味が僕の作家としての個性ってやつだろう。

 そういったよくある流れをそうと感じさせないような工夫が欲しい。


 スマホに黙々と、思い浮かんだ展開を書き殴る。

 今書いている物語に使わないかもしれない内容から、物語のキーになりそうなことまで。

 途中何となく出した少女が、後になって使いどころが出たりする。

 そういうのがあると、自分でもどこに何があるか分からないパズルのピースが綺麗にハマったような感じがして面白く思える。


 自分の手を離れて、想定してなかった物語の起伏が物語に勢いを与えるような気がする。

 なんとなく書いた一行が伏線として存在感が生まれると、脳が震えるくらい楽しくなる。嬉しくなる。

 こりゃー面白いぞなんて口元が緩んでてもおかしくないくらい心が跳ねる。


「やー駄目だぁ」

 スマホを打ち込む手を止めて、テーブルに突っ伏す柚子姉を見る。

「あたしゃーダメダメだぁ」

 頭を掻きながらそう言う柚子姉の横顔は楽しそうで、創作を心から楽しめるのって才能だよなーとか思う。

 大学と師事してる絵本作家の課題で板挟みで死にそうとか言ってたわりに、楽しげでちょっと羨ましい。


 畑違いだからなんとなくの納得を示したものだけど、昨今の絵本は案外大人も読むものらしい。

 子供向けだからって口先で騙すようなものは子供に伝わってしまうし、大人は一瞥したらそれっきりというのも多いから結構シビアなんだよねーとか困り顔で言ってたのに楽しそうなんだもんな。


 自分の手掛けたものを手にする人のことを考えるか。

 絵本に比べると層が比較的見える僕のほうが幾分か気楽なもんだ。少なくともそんな下まで見ることはないし。せいぜい、下は中高生ってもんだろう。


 まあ、気にして書いてないけども。

 商業作家じゃないし、という免罪符と僕だって高校生なんだから僕が面白いんなら他の高校生も多分面白いだろうみたいな。

 そこまで胡座をかいちゃいないけど、どっかでそう甘えてるような気もする。


 書き終えたら一日は離れて、読み返したいなあ。

 可能な限りフラットな目が欲しい。

 そうやって見直して、文章の粗さを探して直して、表記揺れを修正して……間に合うか? それ。

 野枝小道の出した条件、というか僕にとっては目下のところ締め切りでしかないわけだけど、金曜までに書き上げるとして、木曜には校正したい。となると水曜。水曜かぁ。

 今が日曜日でしょ、寝る前にどこまで行くかな。


 柚子姉の気が散らないようにそろりと居間を出て自室に戻ろうとして、

 

「夜食欲しかったら言いなねー、用意するからさ」


 ちらりと振り向けば柚子姉がこちらを見てる。

 ひらひら振る手は紙に擦れて黒鉛が滲んでいる。

 忙しい中、家族を気遣える姉力の高さに、まー僕も負けてられませんわと気合を入れる。


「明日は学校だからね、ほどほどにしとくから大丈夫だよ」

「あー、それもそっか」


 学校行かずに書いてて良いなら書いてたい。けど、どこぞの作家先生が『私は学業も小説も疎かにしませんが』と言ってくるのでそれは出来ない。約束もあるし、初日からぶっちするのは流石にね。


「ほんじゃ部屋に引っ込むよ」

 そう言って、階段を登ってすぐの自分の部屋に戻る。


 付けっぱなしだったノートパソコンを起こすと書きかけの小説が表示される。

 書き出す前にスマホに書き込んだメモを開こうとしてメッセージが来ているのに気づく。


『ファミレス高校生でおけ?』


 いや、そうだけども。

 なんか、もうちょい確認の仕方あるだろと思いますが。

 どう返そうかなと考えて、まあいいかと見なかったことにする。

 なんかそんなのに時間かけたくないし……。


 他にもメッセージあるじゃんと見れば、野枝小道だ。

 どれ内容は──、

「……登校も、はちょっと嫌なんだけど」


 朝弱いんだよ僕。

 一緒に登校しなさい、という簡潔極まりないお願い──多分、照れが混じって命令形になっている──にどう返信するか悩んで、不承不承に『りょーかいしました』と送信した。


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