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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 田甫 啓
起承転結の「しょー」だな!

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 日曜日、僕は柚子姉の作った昼ご飯を食べ終えると部屋に引き篭もった。

 リビングで何か描いてた柚子姉に「創作は気合いだよ! ふぁいとー」なんて応援もされてしまったし、気合いをいれてキーボードを叩く。


 何かを目指す以上は立ち止まるわけにいかない。


 皆んな、どっかで何かをやっている。

 柚子姉は絵本作家に向けて。

 遠藤先輩は小説家目指して家で書いてるだろう。

 金髪頭だって今日も今日とてファミレスで書いてるかもしれない。

 野枝小道も、自らの職分ってやつをきっと果たしている。


 僕の知らない、僕と同じような作家志望なんてごまんといるのだ。


 足踏みしてる暇なんてない。

 足踏みしてても靴は擦り減るぜ、なんて言ったのは誰だったろう?

 全くもってその通りだと思う。

 足を挫こうが前へと進むしかない。


 その道の大先輩に追いつこうってわけじゃない。

 つい最近登壇した、新鋭気鋭の美少女作家に追いつこう、食らいつこうと考えてキーを叩く。

 諦めなければいつか夢は叶うと誰かも言っていたし。


 僕は自分の著作を読むのはあまり好きじゃない。

 展開を知っているから。盛り上がりの程も知っているから。

 色眼鏡抜きに読む為には一週間くらい置かないと読んでいられない。


 黙々と書いていると、主人公のことが分からなくなる時がある。

 なんでこの主人公はこんな目に遭っても歩くんだろうとか。本当にその決断で良かったのかとか。

 僕自身が選んだ道のりで、歩かせたのにだ。


 もっと上手いやり方はなかったか?

 粗はないか?

 最善だったか?

 何を思っていた?

 この悪人は本当に悪なのか?


 僕は大した人間じゃない。

 まだ十五歳で、誕生日もこれからだし選挙権もなきゃ人生経験なんてやつもない。

 それでも作家になれないかもしれないと夜通し泣くほど自分を追い込んだことがある。

 書けなかったことを恥じて、あんなものを投稿してしまったと自分を罵ったことがある。

 その焦燥感だけは、苦しさだけは誰にも劣っていないはずだ。


 苦しかったって、僕は書ける。

 楽しく書ければそれが一番だけど、僕にはそれがあまりできない。優柔不断なのだ。


 自分の小説でさえ、ひとつひとつの選択を疑っている。

 だから書くのが遅いんだろうと思う。

 悩まない人間の在り方はきっと痛快で心地よいもので、僕が書きたいのは悩んでも苦しくても決断を下す人間だ。


 感情を剥き出しにした人間を書き記したい。

 苦しさの中でも前を向ける人間を。

 小説でも、漫画でも、映画でも。

 僕はそういう人間が好きだった。

 主人公でなくても、それが所謂悪役だったとしても、その生き様こそ格好いいと思ってる。

 そういう感性を大切に、僕の描く物語の端々に。


 ……書いてるうちに野枝小道をーみたいなの忘れてきたな。その方がいい。小説を書くにあたって余計なものを介在させないほうがいい。

 ちゅーか、この小説をより良くする為に読んでもらったほうがいいとさえ思えてきた。


 あいつの鼻を明かしたって作家になれるわけじゃないぞ。

 何を考えていたんだ僕は……?


 頭を振って余計な考え──主に野枝小道と雑念──を振り払う。


 自分の書きたいこと、ざっくりとした大枠を逸脱していないか確認する。

 黙々と書いて二時間? 集中出来てる方だ。この感覚を逃さないように、書く。


 文字数の表記をするように設定していたが、消した。

 何文字書いたな、なんて確認に何の意味もない。

 書き終えてから気にすればいい。どうせ、全体を俯瞰して見回したら細部に無理が生じてる。手直しすれば増えるか減るかするものに、逐一一喜一憂するのは違うだろうと思う。


 両肩をぐっと後ろに逸らす。

 少なくとも、この章が終わるまでは一気に書く。書き終えないと、いまのテンションを維持できない気がする。あれもこれもと変な色気を出すな、要らない展開や描写は後で書き足せばいい。まずは本筋だ。


 序盤、最後の山場だ。

 今まで巻き込まれる形で翻弄されてきた主人公が、ここで初めて自分から動く。

 問題を解決する為に。

 ……本当か?

 これは常にうっすら考えてきたことだ。

 自分を犠牲にしてまで、誰かを救うなんてことがあるか?

 身近であれば分かる。

 それがどんどんと離れていって、顔を見合わせたこともないような人を自分の命を張ってまで助けるだろうか?


 ここだ、と思う。

 しっかりと捉えれなければ芯の無い操り人形が生まれるだろう。

 登場人物達を、その在り方を生かすも殺すも僕の手腕にかかっている。

 かといって、土壇場で逃げ出して助かるような主人公はきっと読者から愛されない。

 もう少しで、決断をするシーンだ。後回しにはできない。

 良くない考えだ。良くない考えだけど、思ってしまう。

 必ずしも主人公は愛されないといけないのだろうかって。


 仕方のなさ、というのはある。

 どうにもならない困難を運命だの天運だの言うように。

 それは小説の中でくらい、快活に済ませてもいいはずだし、そのほうが読んでて楽しいはずだ。

 それでもその仕方のなさをおざなりにして、都合よく済ます小説を書きたくない。


 手が止まる。

 悩む。

 悩むが。

 時間はない。

 今歩かないといけない。

 そうじゃなきゃこの主人公も、僕も立ち止まってしまう。

 人間なんてそんなに強くないんだってのを、それでも前に歩かないことには生きていけない。

 そうしないと何かを諦めないといけない。

 例えば、そう僕なら作家になることとか。


 一旦主人公は挫折して立ち直る。そうやって決意を新たに前に進む。

 これって、当然なんだよな。

 そうしないと、物語は終わってしまう。


 僕にとっての作家になりたいは、この主人公の何にあたるのか。

 そんなことで今更立ち止まったなんて知れたら金髪頭はにやにやとせせら笑ってきそうだし、野枝小道は鼻で笑うだろう。遠藤先輩は書いてるだけ偉いぞ! と褒めてくれそうだけども。


 ……よっし、一旦トイレ休憩。チョコかなんか持ってこよう。糖分が足りてないね、糖分が。


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